第34話

過ぎゆく日々、長閑にも①

「あいたたた…」

「大丈夫か?紳人よ」

「ん〜若いって良いですね♪」

「痛みにまで、若さを感じたくは無かったなぁ」


お風呂から上がるといつの間にかウカミは帰ってきており、晩御飯の際はご飯に白米ではなくお赤飯が用意されていた。


流石に気が早い!と俺もコンも顔を赤くして訴えるものの「お楽しみでしたね」と微笑まれてはぐうの音も出ず。


食事中は終始普段の数倍増しでニコニコ笑顔だったウカミ。


手分けして食器を片付け終えると、俺たちをソファへ座らせ根掘り葉掘り聞いてきた。


それはもう詳細に。


「最初のキスはどちらからしたんです?」


「痛かったですか?それとも…」


「ちゃんとマムシ、使ってくれて嬉しいです!」



俺は「はい…いやそれは、はい…」とまるでクレームを受けてるかのような小さな声で返事をし、コンに至ってはあうあうと顔を真っ赤にして狼狽えていた。


その後、ともすれば逢瀬の時以上にヘトヘトになりながら俺とコン、ウカミは川の字になって眠った…までは良かったんだけど。


翌朝目が覚めると、俺の眼前には毎度の如くコンの可愛いお尻と尻尾があり起こそうと体を起こしかけ、バチッと稲妻が走ったように腰に痛みが走った。


理由は、言うまでもなく。


「本当に。お楽しみでしたねぇ♪」

「あ、はは…そういえばコンは大丈夫?」

「ありがとのう。じゃがわしはほれ、神様じゃから」

「丈夫だね…」


うつ伏せに寝転がり微苦笑しつつも、背中から揉み解してくれるコンに痛みや倦怠感が無くて良かった。


やっぱり、愛してる相手にはいつでも幸せに笑っていて欲しいよね。


自分がヤンチャしすぎたせいで筋肉痛だなんて申し訳ないし…。


「やれやれ、気にしなくて良いんじゃよ。気を遣い合うだけがパートナーでもなかろう?」

「……また自然に心読まれた」

「わしに隠し事など出来ぬよ」


大袈裟に拗ねたような顔を見せると、コンはケラケラと楽しそうに笑う。


それが可愛くてつい頬が緩み暫し静かに見つめていたらふとウカミが俺を見ていることに気が付いた。


「ん?」

「あ、ごめんなさい。何だか弟くん…以前にも増して垢抜けた感じがするのでつい」

「そうなんだ。自分だと分からないものだけど、コンから見た俺はどうかな」

「男前じゃな」

「うん凄く嬉しいんだけど今は何て言うかその」

「まぁ!弟くんが顔を真っ赤にしてショートしちゃいました!」


一切冗談だとか誇張表現だとかを感じさせない真面目な顔で言われたら、嬉しさと恥ずかしさでまともに顔を見せられなくなる。


「愛いやつ、愛いやつじゃあ…♪」

「……」


何度も愛いと囁き、後ろからむぎゅっとコンが抱きついてすりすりと頬擦りしてきた。


体が密着しているため全身余すことなく触れ合う。


ということは当然、その柔らかさや感触も伝わり記憶に新しい昨日が彷彿として…。


「どうしたのじゃ紳人、腰が揺れたぞ。まだ痛むかの」

「お、お構いなく…」


鼓動が速まり血流が集まり、この体を起こす訳にはいかなくなってしまった。


「コン。そろそろおやつの時間ですから、三人分のプリンを冷蔵庫から取ってきてくださいな」

「おぉ!もうそんな時間か。ちと離れるが…すぐ戻るでな、紳人!」

「気を付けてね〜」


ぴょいと軽やかに俺から離れ早足で冷蔵庫へと向かうコン。


その背にひらひらとなんてことないように手を振っていると、ウカミが膝を折ってしゃがみ込んできた。


「……今の内ですよ」

「ありがとう…ございます…」


見透かされた恥ずかしさと有り難いという感謝の板挟みで敬語になる俺に、殊更優しくウカミは微笑み頭を撫でてくれるのだった。


男はつらいよ…!

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