あんな式、コンな一日④

「コン、落ち着いた?」

「うむ…漸く波が引いたのじゃ」


ぴちょん、とコンの髪から水滴が湯船に落ちた。


あれから数時間。俺とコンは我も、時間すらも忘れひたすらに愛を確かめ合った。


今まで触れ合えなかった部分にも知らなかった一面にも、塵一つ隠れる隙間もないほどに。


「しかし、紳人よ。お主…本当に愛い奴じゃなぁ♡何度も何度もわしの名を呼びながら求めるとは」

「うっ!」


湯船の中で足を伸ばした俺の上に座るコンに恥ずかしいところをニヤニヤ顔で弄られる。


俺は快感と愛情が溢れるあまり、隙あらばコンの名前を呼んでいた。


その時自分がどんな顔していたか。加えてどんなに情けない声だったか…思い返すだけでも,冷水を沸騰させてしまえそうである。


そんな人力湯沸かし器で沸かした訳ではない、しっかりとしたお湯で満たされた湯船に浸かりながらもコンは嬉しそうに囁く。


「良いんじゃよ…何も恥ずかしいことなどない。わしとて嬉しかったんじゃから。どれほど喜んでいたかお主には分かったであろう?」


火照ったから、或いは恥ずかしいから。


どちらか判断付かない微笑みのまま自らの下腹部を撫でるコン。


先程までの反応を思い返して、瞬く間に自分の顔が耳で熱くなっていく。


「わしより照れてどうするのじゃ」

「だ、だって…!」

「お互い様と言いたかったが、紳人の方がわしより照れていてはそうも言えんなぁ」


すりすりと後頭部を俺に擦り付け、何処か楽しげに話す姿は色んな意味でくすぐったい。


でもバカにされているのではなく寧ろ幸せを感じてくれているということは、目の前で揺れる耳やちゃぷちゃぷと水面を弾ませる尻尾が教えてくれる。


……少し、悪戯をしたくなった。


「でもコン」

「んむ?」

「コンも沢山おねだりしてたよね〜?」

「むっ…!あれは、じゃな…やっとお主との逢瀬が出来て嬉しくなっての…」


つい、甘えてしまったのじゃ。


コンが顔を赤くしてしどろもどろになりやがて小さく俯き耳を伏せてそう呟く。


可愛い…本当に可愛い、今すぐその唇を奪いながら襲ってしまいたい。


でも悲しいかな。流石に体力が持たない…空っぽだ。


マムシも途中でコンと2人で分けて飲んだけど、正直既に極限まで興奮していたから明確な効果は分からなかった。


ただ、体力が一気に回復しそれまでより輪をかけて愛を漕いでいたことは覚えている。


それもあってへとへとになってしまったのだけれど、結果としては良かったかも。


もし限界が来ていなかったら俺とコンはウカミが帰ってくるまで留まることを知らずに求め合っていたはずだから。


「……もう少し、体力を付けなきゃな」

「あれ以上か!?そんなに体力を付けてどうするのじゃ…もしや、やはりわしにやや子を身籠もって欲しくなったか?」

「違っ……くはないけど、それはもっと先の話!」


ハッと両手に口を当て、軽く腰を捻って俺に振り向くコンに慌てて訂正してしまう。


…それが、コンによる誘導尋問だったと気付いたのは全てを言い終えてからだった。


「ふふっ♪」

「や、やられた…コン、ズルくないかい?」

「可愛い旦那様を可愛がっているだけじゃよ」

「……むぐぅ」


前から座り直し、むぎゅっと抱き締め密着するコンに強く言えず口を噤んでしまう。


敵わないと思ったこと、そして…コンのトクトクとした鼓動と柔らかな胸の感触に俺の鼓動も強くなったことが理由で。


「紳人」

「どうしたの、コン」

「伝わっておるか?わしの心臓の音…」

「うん。分かるよ…愛しい音がトクトクって。俺のはどう?」

「はっきりと聞こえるのじゃ。ドクンドクンと、力強く」


……熱く、温かく。性的興奮はやがて陽だまりのような愛情へと変化していく。


焦らなくて良いんだ。今は…こうして抱き締めあっていよう。


「また…沢山したいの」

「うん。いっぱい、しよう」

「約束、じゃからな!」

「勿論!約束だ」


へにゃり、と破顔させるコンと暫し笑い合ってから…自然と視線が重なった。


その両頬に手を添えればコンも細腕を俺の首筋に回してくる。


やがて,どちらからともなく瞼を閉じて。


……愛情を酌み交わすように、俺とコンはキスを交わすのだった。

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