父と母、息子と義娘⑤
「ところでコン」
「何じゃ?」
「ウカミは何処行ったの?」
「あぁ。彼奴なら、今日の晩ご飯の材料を買いに行ったのじゃ」
キスから数分。
膝の上に座るコンの頭を撫でていると、帰ってからウカミの姿を見ていないことに気が付いた。
「ウカミの料理…何だか久しぶりな気がするね」
「そうじゃのう、メニューはお楽しみらしいから…楽しみよな」
「それは確かに!」
彼女の料理の腕も相当なものだ。きっと、『神隔世』に居た時はウカミが料理当番だっただろう。
コンはその…ね?
「今何か失礼なことを考えておらんか?」
「滅相もございません」
流石の鋭さだ、読まれないように気を付けないと。
「ふぅむ…まぁ良かろう。丁度帰ってきたようじゃからな」
「え?」
じと〜っとした眼差しをフッと緩め、耳を揺らして我が家の玄関を見る。
そんなコンに釣られて俺も視線を向けると漸く俺の耳にも足跡が聞こえた。
「弟くん、コン、ただいまです〜♪それと弟くんはおかえりなさい」
「「おかえり、ウカミ」」
鍵を開けて買い物袋を持ったウカミが笑顔で帰宅。俺とコンもそれを暖かく迎え、鍵を閉めて靴を脱ぐ姉の手から袋を受け取る。
「今日は姉さんが料理を作ってくれるんだって?俺も手伝うよ」
「はい!しかしこれは私なりの前祝いです、任せてくださいな」
「きちんと本祝いもあるから安心せい」
「そっか…分かった、ありがとう
「腕によりを掛けますともっ」
むんっ!と力む様は何だか可愛らしい。そこまで言うのなら、これ以上のお節介は失礼というもの。
コンと一緒にのんびりと待たせてもらおうかな。
「おっと、忘れるところでした」
「ん?」
ソファへ座り掛けた時、何かを思い出したようでポンとウカミが手を打ち合わせる。
その後むふ〜と俺を見て頬を緩ませるものだから、俺としては悪寒が止まらない。
よし、聞かなかったことにしよう。うん。
「弟く〜ん?」
「……はい、何でしょう」
名指しされては逃げ場なし。小首を傾げるコンを横に、俺はウカミが立つテーブルの前へと近付いた。
気分はさながら、断頭台に送られるか如く。
「これ…冷蔵庫に入れておくので。明日、使ってくださいね」
「これって、瓶?それに赤マムシって変な名前だね」
何故かヒソヒソ声で囁くウカミ。
使ってと言われても…飲み物にしか見えないし、ゲテモノの類いだろうか?
ウカミも変なものを買ってきたなぁ。
卒業生への贈り物に使えってことかな…或いは飲んだら激辛でその反応で盛り上げろ、とか。
まさかコンとの逢瀬の時に?
とすると、こう見えて塗り薬的なものなのだろうか…。
「……弟くん、もしかしてそれが何か分かっていないとか」
「あっうん。そうなんだよ…実は塗り薬だったり?」
「…!いえ、それは飲み薬です。飲むと体が整えられて、逢瀬の際でも安心ですよ♪副作用で子供が出来づらくなりますが…」
「それは寧ろ主成分にするべきだ!ありがとうウカミ、絶対使わせてもらうよ!」
そんなものがあったとは。ウカミには頭が上がらない…これで明日の心配が無くなった!
やはり隔たりなく愛し合う以上、そのことがどうしても頭をよぎってしまうからね。
そうして俺は、赤マムシをウカミに返しコンの下へと戻りぽふっと密着するコンの頭を撫で始める。
その最中。
ウカミが満面の笑みでブンブンと尾を揺らしていたことを、俺が気付くことは、ついぞ無かった。
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