父と母、息子と義娘③
「そ、そうだ紳人!お前にはこれをやろう!」
「ん?」
暗黒微笑の母の隣で肩身が狭そうに寿司を摘んでいた父は、会計を終えた車の中で突然テンションを上げ良い笑顔で振り返ってきた。
そしてその手には謎の箱が。
「誕生日プレゼントなら二人が元気で居てくれたらそれで良いんだけど…」
「遠慮するな。それにこれは、お前にとっても必要なものだぞ?」
「必要?そういえばバターがそろそろ…」
「だ違ぁう!!良いから受け取れ」
訝しがりつつもそれを受け取ると…何だこれ、『0.01』?
「変わった名前のお菓子だね。味も書いてないし…どんなやつなの?」
「ふふっ。紳人、それはお菓子じゃないわ。所謂『ゴム』よ♪」
「ゴッ!?」
母さんのくすくすとした微笑みに思わず手元の箱を食い入るように見つめてしまう。
「父さん!!なんて物を!?」
「良いか紳人。決してそれを相手に握られるなよ、見えない穴を開けられたりするからな」
「そりゃこんなもの渡せないけど…何だか父さん、凄い説得力を感じるね。経験があったり?」
「ははは。そんなははは」
「答えてよぉ!?あと母さんは何でそんなに優しい笑顔なの?父さんが遠い目をしてるのに、ピトッとくっついてどうしたのさ!」
父さんがずっと乾いた笑いを漏らし母さんがウットリとし続ける光景に、形容し難い悪寒に襲われた。
よく分からないけれどこれをコンに握らせるのは危険だと言うことは理解できた。
……人と神様の間に子供が出来るのは既に承知している。迂闊なことをすれば、俺は学生の身でありながら夫になる昼ドラも真っ青なことになりかねない。
「紳人」
「母さん」
グッと今一度自分を強く律してゴムを肩掛け鞄に直したところで母さんが俺に向き直る。
「良いこと?ゴムがあるからといって…」
「うん…」
その手の病気にならないとは限らないから注意しろ、かな?
「必ず使わないといけないなんてことは無いわ。寧ろ使わない方が喜ぶと思うから、捨ててしまいなさいそんなもの」
「父さんの温かい優しさを全否定!?」
あまりに冷たい言葉に俺は驚き、父さんの目尻にはキラキラとしたものが浮かぶ。
俺たちをチラリと見てくすっといつもの笑顔に戻った母さんは、誤魔化すようにひらひらと手を揺らした。
「冗談よ。でもそれをどうするかは本当に貴方次第、何か困ったことがあればいつでも頼りなさい?」
「……ありがとう、母さん父さん」
少しはにかむような二人の笑顔に胸の内がポカポカする中、多分父さんはこれからも色々と瀬戸際で過ごすんだろうな…と思い笑うのだった。
そういえば握られるなとは言ったけれど…まぁ、バレることは無いだろう。
これを見られて「これは何じゃ?」と言われたら立ち直れる気がしないし。
〜〜〜〜〜
「紳人よ」
「何じゃいコンさん」
「おい」
「はいコン様…」
「これは何じゃ?」
立ち直れる気がしない。
帰宅してコンとウカミに出迎えられた数秒後、俺が鞄を背に隠すように動いた一瞬だけで隠し事があると見抜かれてしまった。
そしてこの箱が見つかり…俺は仁王立ちのコンに、リビングで正座させられている。
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