第32話

父と母、息子と義娘①

「「紳人!お誕生日、おめでとう!!」」

「ありがとう、父さん母さん。…1日だけ早いけれどね」

「明日はお前も学校だし慌てて押しかけるのもと思ってな」

「それに…当日に祝ってくれる人が、貴方には居るでしょう?」


コンとのデートから一夜明けた、3月8日の日曜日。


俺は少しだけ久しぶりに顔を合わせた両親に連れられて回転寿司のチェーン店に来ていた。


名目は勿論、俺の誕生日…の前祝い。


当日では無いことに何処か気が引けていたけれど。


両親の言葉に心が温かくなって、素直に頷くことが出来た。


こんなに優しい両親がいることが本当に嬉しい。これからも、健やかに生きてほしいと思う。


「そういえば紳人」

「んぅ?」


コンやウカミとも今度食べに来ようと思いながら、誕生日のお祝いとはいえ1番安いネタを気に入ったものから食べ進めていく。


そんな中で父さんが不意に声を掛けてきた。


何の気なしにと言った感じだから、多分食べたいネタがあったのかな?


レーンの方に手を伸ばしつつ顔を上げると、とんでも無いことを聞いてきた。


「彼女…コンさんとはどこまで行った?ヤったか?」

「なっ!?」


ニヤニヤしながら直球に聞いてくるので思わず体が固まってしまう。今皿を持っていたら危なかった…絶対落としたよ、これ。


「父さんいきなり何を…!」

「そうですよ貴方」

「母さん?」

「年頃の男の子なんですもの、きっと紳人は毎日愛し合ってますよ」

「なぁんでさぁ!」


人前なので大きな声は出せないけれど、それでも声を上げずにはいられない。


何で!?何で俺の両親はこんな感じなのさ!


すっごい既視感デジャヴ感じるんだけど!?


「やれやれ…それでも健全な男子高校生か?」

「健全な男子高校生だからだよ…?」

「何を言う。父さんが若い頃なんて母さんとの初めては」

「やめて!お寿司が食べられなくなる!」


あんたは誕生日プレゼントの代わりに、両親の秘め事を息子にくれるってのか!?


「ははは、半分冗談だ」

「半分は本気なのか…」

「あぁ。お前たちのあれからが気になるのは本気だからな」

「そういうことね?…まぁ、そのことに関しては今日報告するつもりだったから言うよ」


おぉ?と色めき立つ両親を前に少し尻込みしてしまうが、それをこほんと咳払いで抑え込み真剣さが伝わるよう真っ直ぐ目を見て告げた。


「俺とコンは…この間、婚約しました。高校を卒業したら結婚を考えています。許して…くれますか?」

「「……」」


父は腕を組み母は頰に手を当て目を閉じる。


仮に此方で結婚する場合、未成年の俺は両親の同意が必要になる。


もしここでまだ早いとか真剣じゃないと言われても、俺とコンの将来のため押し通すしか…!


いつの間にか三人食べる手を止め向かい合う。


重い空気がテーブルを支配する中…最初に口を開いたのは、意外にも母さんだった。


「紳人。あのね…」

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