あんな君、こんな俺②

「お〜!これがゲームセンターじゃな!?」

「そうだよ、コン。煩くないかい?」

「大丈夫じゃ。これくらいの方が活気があるというものよ」


どうやら馴染めそうである。


ゲーセンの賑やかさが苦手な人もいるし、コンもそうだったら素直に別の場所…と考えていた。


けれど目を輝かせて入り口のクレーンゲームやよくあるレースゲームの筐体を見ているところを見るに、心配は無いみたい。


「紳人!早速行こうではないか!」

「おっとと、走ると危ないよ〜」


早く早くと急かすコンと帳尻を合わせるように、わざとゆっくりと返す。


「それもそうじゃの」


俺の手を引っ張っていたコンが打って変わって足を止めた。


「あれ?急がなくて良いの?」

「危なかったからじゃ」

「まだ人はそんなに…」

「そうではない。お主とのデートの時間を、慌ただしく過ごしては勿体無いということを忘れるところじゃったよ」


フッと神秘的な雰囲気で微笑む姿に、暫し見惚れてからハッキリと頷く。


「あぁ…そうだね!1秒1秒、噛み締めるように歩こう」

「うむ♪」


そっと指を絡ませ恋人繋ぎにしながら、俺とコンはゲームセンターの中へと吸い込まれるのだった。


〜〜〜〜〜


「紳人、この筐体は何じゃ?」

「プリクラだね。折角だから撮ろうか、写真を撮ってそれを飾り付けるんだ」

「ほほ〜!良いのう!思えばわしら、写真の一つも撮っておらんかったからな…」

「確かに、じゃあ入ろう」

「よしきた!」


ピンク色の筐体に目を惹かれ、コンが小さく其方を指差しながら俺を見上げる。


それはよくあるプリクラ筐体のようだ。


壁紙では『最新機種!』と堂々と銘打たれているので、現行では最新のものらしい。


一緒に中へ入るとそこは、真っ白な空間。


左側に液晶パネルとタッチペンがありその側に100円の投入口がある。


「お金を入れてと…。コン、ちょっとこっち来て」

「んむ?」


後方は段差になっているのでそこへ乗り、ちょいちょいとコンヘ手招き。


軽やかな足音を立てて俺と同じ段に登るコンに前を指差すと、モニターに映る俺たちと目が合った。


「俺とコンの身長差そのままだけど…大丈夫?」

「構わぬよ。それもまた愛おしいのじゃ…紳人が気にするのであれば、もう一枚はわしと目線を合わせておくれ」

「了解だ」


そうこう話している内に、筐体からカウントダウンの声が響く。


『5!4!3!…』


パシャ!


1枚目は俺もコンも自然体で撮影した。


俺は片手を腰に手を当てて、コンは腕を組んで笑みを浮かべて。


そして続けざまに2枚目のカウントダウンへ。


『5!4!3!…』


スッと中腰になり、コンと目線の位置を合わせ隣で笑顔を作る。


「ん、ちゅっ…」

「えっ?」


パシャ!


撮影の瞬間。俺の頰に、コンの唇が押し当てられた。


突然のことに驚いて目線がコンの方へと向いてしまい、尚且つその瞬間を撮られたので撮影された写真を見れば『目を閉じて俺にキスをするコンとそれを珍妙な顔で受ける俺』という構図だった。


「……ねぇコン」

「ならぬ!」

「何も言ってないんだけど!?」


全てを言い終える前にピシャリと断られてしまった。


「どうせこれを消せ、というのじゃろう?それは許さぬ!わしの宝物にするのじゃ…!」

「……なるほど。じゃあ、これならどう?俺も…コンにキスしている写真を撮りたいんだ」

「良かろう!!ほれさぁ此方へ来い!一枚なら撮り直せるらしいぞ!」


軽く風が起きるほど素早く撮影場所へ移動するコンに思わず微苦笑しながらも、撮り直しのボタンを押して俺もコンの下へ。


3回目のカウントダウンが始まる中で、俺はコンの両頬に手を添える。


「愛してるよ、コン」

「わしも愛しておるぞ…紳人」


今度は正面から見つめ合い、愛を捧げるように瞼を閉じ。


そのまま静かに唇が重なった。


「んっ…」


甘い吐息がコンの唇から溢れ俺の心臓がドクンッと跳ねた瞬間、


パシャ!


それを切り取るかのように俺たちは撮影された。


『デコシールを選んでね!』


元気なアナウンスが聞こえるけれど、聞こえないふりをするように俺とコンはキスを続ける。


ぬりゅん…とコンの小さな舌が俺の唇を撫でた。


たまらず俺も舌を出しコンの瑞々しい唇をゆっくりと撫で返す。


やがてチョン、と舌先が触れ合い熱く一つに蕩けるように深いキスになる。


もっともっと時間を忘れてキスに耽ってしまいたかったけどこれ以上はプリクラを編集する時間がなくなってしまう。


やむなく名残惜しさを滲ませながら唇と舌を離し…どちらからともなくへにゃりとはにかんだ。


「続きは…明後日じゃな♡」

「あぁ。思う存分…愛し合おう」


指切りをするようにちゅっと最後に短くキスをして、俺とコンは1枚目の写真をデコるべくモニターの前へと移動した。


思い切りふざけ倒してしまおうとあれこれ試していたら、とあるフィルターで俺もコンも「恐ろしい子!」と言いそうなレベルで目が大きく煌めき唇もプルップルになってしまった。


「あっはっはっは!絶対これ、これにしようよ…っ!」

「こ、これはダメじゃ!もうこれ以外無いではないか!ふははっ…!」


同時に腹を抱えて爆笑し、即座に決定してプリントアウト。


1枚目のコッテコテなプリクラと、2枚目の何の編集もしていないありのままのキスのプリクラ。


帰ったら切り分けて両方飾ろうと決め、プリクラの筐体を後にするとクレーンゲームやシューテングゲームなどひとしきり遊び。


ふと時計を見ると13時になっていた。


お昼ご飯を食べるため、俺とコンは思い出の場所となったゲーセンから出て何を食べたいかあれこれ話しながら食事を取れる店を探すのだった。

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