あんな君、こんな俺③

時刻は13時15分。


ゲーセンを出てから程なくして、ハンバーグ屋さんを見つける。


お腹も空いていたし美味しそうな匂いに誘われ俺たちは迷わず入店。


俺はおろしポン酢ハンバーグ、コンはチーズハンバーグをそれぞれセットで注文した。


幸い店内の客足も落ち着いており料理は程なくして提供される。


「「いただきます」」


並んで座ったテーブル席で両手を合わせ、スプーンで小さく切り取りまずは一口。


「…うん!これは美味しい!」

「そうじゃのう…!食べに来た甲斐があったというものじゃ」


熱々のハンバーグは噛めば噛むほど肉汁が溢れ、柔らかさの中にも歯応えがある。


更におろしポン酢が合わさりしつこさもなく寧ろあっさりとした味わいだ。


あっという間に一口目を飲み込んだ俺とコンは、ほうと感嘆の息を漏らす。


その動作がピッタリと一致していたので可笑しくてくすくすと笑い合う。


コンの耳がぴこぴこと揺れているのが、とても可愛い。


「これも美味しいよ。食べてみて、コン」

「ふむ…食べるのは吝かではないのじゃが」

「?」

「あ〜ん、してくれぬかのう?」

「っえ!?」


潤んだ瞳で上目遣いするコン。


普段と違う格好なのも相まって、小悪魔的な危うさと可愛さを醸し出す。


顔が熱くなりながら慌てて辺りを見回す。


他の客や店員とも距離が離れているのでこの会話が聴かれている心配は無いようだ。


しかし、コンの美貌は耳と尻尾が見えない人たちすら目を奪われるもの。


此方と目が合うと視線は逸らされるが、やはり見られている気がする。


その中でコンにあ〜んというのはかなりの精神力を要求される。


……だが、それはそれ。


恋人…ましてや婚約者のおねだりひとつかなえてあげずして、何が伴侶か!


意を決してコンが食べやすいようスプーンで切り分け、そっと小さな口の前へ運ぶ。


「こ、コン。あ〜ん…」

「あ〜んっ♪」


必死に視線を無視しながらコンへ差し出すと、あっさりパクッと俺のスプーンからハンバーグが食べられた。


……間接キスだよね、これ。そういう意味でも恥ずかしいな…。


あれだけキスしておいてと自分でも思うが、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。


コンは舌鼓を打つように咀嚼してこくんとそれを飲み込む。


「……美味しいのじゃ」

「それは、良かった」


くすっと微笑むその眼差しは恍惚としたものに見えて、色っぽさのあまり途中で言葉が詰まってしまった。


思わず口元を隠して目線を逸らすと、むぎゅっと彼女は俺の腕に抱きついてくる。


その控えめでもこの上なく柔らかいお胸が押し当てられるほどに。


「紳人が食べさせてくれたから…もっと美味しい」

「……揶揄ってるでしょ、コン」

「そんなわしも好きじゃろう?」

「愛してる」

「ふふっ♪わしも愛しておるよ〜」


猫撫で声でそう囁かれながら頭をすりすりされては、情けなくも喜びを抑えられない。


顔がニヤけてしまうのを隠すことなくコンを撫でていると周囲からの視線が妙に温かいことに気付いた。


その視線がどんどんむず痒くなりハンバーグを熱いうちに食べ終え、コンが食べ終わるのを待ってから会計を手早く済ませてその場を後にする。


どうにもコンのこととなると他が見えなくなってしまうな…。


もう少ししっかりするべきだよね…なんてことを考えながら、腕に抱きついたままのコンを見てとりあえず今日は気にしないでおこうと思った。


「さて…この後はどうしようか。プリクラも撮ったし、お昼も食べたし、プリンはまだ家にある。


帰ろうか?それとも、街を歩いてみる?」

「ふむぅ…折角じゃ。ちょいと付き合って欲しいところがある、お願いできるかのう」

「コンのお願いなら何だって」

「ありがとうなのじゃ!では此方じゃ、行くぞぉ!」

「わわっと…目的地は逃げないよ!多分」


店を出て左右を見回しながら訊ねる。


コンには行きたいところがあったようだ、喜んでお供するとしよう。


……でも、それって何処だろう?プリン屋さんとか?


〜〜〜〜〜


「ふむ…このようなものが流行りなのか」

「はい!段々温かくなってきますので、ほんの少し生地が薄くなっています」


「……」


「それにこれ、見た目では分かりづらいのですが何と…ゴニョゴニョ」

「な、何と。それは本当かの…?」

「本当です!これならば彼氏さんも…」


「……っ」


「紳人よ、これはどうじゃ?わしに似合うじゃろうか…」

「こ、コンが似合わないものなんて…ないよ…」

「む〜。そう言ってくれるのは嬉しいが、なれば此方を見てくれぬか?」

「そうは言ってもさ…!



コンが俺を連れて訪れた場所。


それはアウトレットモール、更にその中の であった!


チラリとコンが店員さんにおすすめされて持ってきたのは、赤色のフリルがあしらわれたデザインの下着だった。


ブラもパンツも扇情的でついコンが付けているところを妄想してしまう。


『紳人…優しくして欲しいのじゃ♡』


参った。勝てない。理性が本能の前になす術もなく蹂躙される未来しか見えない。


赤に弱い訳ではないのだが…というより、もう今となってはコンに下着姿で迫られるだけで容易く獣いやケダモノになってしまうな。


こんなでも、俺はれっきとした男子高校生。思春期真っ只中である。


ひとまず必死に元気にならぬよう気を付けながら、コンに向き直る。


「コン…もしかしたら肌に合わなかったりするかもしれない。ひとまず、試着してみよう」

「それもそうじゃな…あい分かった!暫し待っておれ!」

「ごゆっくり〜!」


コンが例の下着を抱えたまま試着室へと消えていくのを見送ってから、どっと疲れが押し寄せ深い息を吐いた。


「可愛い彼女さんですね。ご馳走様です♪」

「お、お粗末様です…」


ニコニコ笑顔で店員さんが話しかけてくるので、恥ずかしかった俺は目線を合わせることができなかった。

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