第31話
あんな君、こんな俺①
「……」
家の近所の公園の隅で、佇んだままソワソワと浮き足立つ。
たまらずに左腕の黒い腕時計を覗き込む。
時刻は間も無く11時。もう少しで約束の時間だ。
「俺の格好…変じゃない、よな」
またしても刺激的な目覚めにドキドキしつつ朝ごはんを食べ終え、コンは身支度をすると言ってウカミと共に寝室へと消えた。
俺はその直前で着替え終えてウカミに見送られている。
俺の格好は待ち合わせの時に一緒に見せ合いたい、そうコンが言ったので俺もコンも今日の服装を見ていない。
「エスコートできれば良いけど…」
二人きりのデートなんて実質初めてだ。
マノトの旅館に行った時もデートは出来たけれど、あれは突発的なものだったし改めて真っ当なものをしたいとも思っていたのである。
今回はプランを考えて…いない。
いや、手を抜いたとか雑に考えている訳じゃない。
帰ってから、らしくないなれど血眼で女の子が喜ぶデートについて調べてみたのだが。
そっと俺の膝の上に座ったコンは俺の頭を優しく撫でると、くすっと微笑んでこう言った。
「計算された行動に、手放しで喜ぶことなど出来ぬよ。一緒に話しながら楽しもうではないか」
飾らない素直なお主が良いのじゃと言われれば、男してこれ以上に嬉しいことはない。
俺は調べていたサイトを閉じ、そのままコンやウカミといつものように談笑した。
その為、最初はゲーセンに行くこと以外は決まっていない。
楽しみであると同時にコンが楽しんでくれるかどうかという不安は拭えずにいる。
「……待たせたの、紳人」
「あ、コン。そんなことはな……」
心地良い声が聞こえたと目を向ければ、絶世の美少女がそこに居た。
丁寧に櫛を通したみたいで綺麗に流れる橙色の髪、眩く煌めき心奪われる金の瞳。
仄かに赤みを差した頰は可愛らしく、瑞々しい唇は艶やかな桜色。
そして服は以前購入した、黒色のシースルーに膝丈までのベージュ色のロングスカート。
コンの整った体とその衣装はベストマッチで大人びた色香と可憐な魅力を同時に醸し出している。
ふりふりと忙しなく揺れる耳と尻尾も、毛先まで整えられて顔を埋めてしまいたいほどに素晴らしい。
「……素敵だよ、コン。本当に似合っている…あまりに綺麗だから、君以外が何も見えないや」
「ふふっ…小恥ずかしいが、心から嬉しいのじゃ。ありがとう紳人」
くすぐったそうにはにかみ笑いをしてコンは俺の前まで歩み寄る。
「漸くこの服を着てお主とデートができるな♪」
「確かにそうだね。俺も嬉しいよ…コンが、俺のために選んでくれた服を着てくれてるんだから」
「そうじゃよ?紳人の為だけに選んだのじゃ。思う存分、見て良いぞ」
両手を軽く広げてくるんと一回転。
ふわりと髪やスカートが翻り、花のような甘い匂いが微かに漂う。
本音としては穴が空くほど見ていたい。
だってそうだろう?
えへへ…と微笑むコンが後ろ手に手を組み、やはりまじまじと見られると照れるのか小さく身じろぎしているんだ。
1秒たりとも目を逸らしたくない。ずっとこうしていたいくらいに。
でも、それはそれで勿体無い。
これから色んなコンが見られるのに、人形を愛でるような眺め方はあまりに惜しいと思う。
なので此処は鋼の意志で一つ頷くとコンへと手を差し出した。
「今日も一日中、愛しているコンのことを見ているよ」
「……お主の目線がわしから逸れると、泣き喚いてしまうからな?」
「俺もコンを釘付けに出来るよう頑張るね」
「そんなことせずとも…いいや、お主が頑張るというのだ。お手並み拝見じゃ♡」
そっと華奢な手が俺の手に重ねられると、きゅっと包み込むように繋ぎ合わせる。
「あ…」
「んむ?」
「コンの手はいつも温かくて、癒されるよ」
「……紳人に喜んでもらえるなら。どんなことでも、わしは嬉しい」
目を丸くして僅かに驚くものの、すぐに上目遣いで俺に甘えるような囁き声を溢す。
その可愛さと触れ合う熱の愛おしさに意識が染め上げられ、今度は俺が目を見開く番だった。
「この勝負は、どちらの勝ちじゃろうな?」
「…愛おしいけど俺の負けだ」
「悔しくは無いと」
「君に負けるなら、それすらも嬉しいな」
「愛いやつめ…」
歩きながら甘く言の葉を重ねその最中でコンの尻尾が俺の腰に絡まる。
「んぅ〜…♪」
すりすり…頬擦りするコンの頭をポンポンと撫でながら、今日は際限なく愛を囁けるのだと気付き背筋がゾクゾク…と震えるのだった。
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