罪と罰、嘘と誠③
あの後、俺とコンは職員室へと呼ばれ10分程度の軽い質問を受ける。
ウカミが事前に説明してくれていたみたいで、殆ど事実確認のようなものだった。
平川先輩を含む三名はすっかり意気消沈…というより反省したらしく、今まで被害を受けた人たちへの謝罪をするらしい。
例の二人の先輩たちが口にした過去の行いの中で取り返しのつかないものは無かったが、犯罪スレスレだったものは多くあったので警察による厳重注意はあり得るとウカミは言った。
しかし。平川先輩は明確に犯罪行為を行なっているので、午後に俺たちが卒業式の送歌練習中に少年院へと連れられて行ったそうだ。
……学校でも思ったけれど、しっかりと罪を償った彼をメノアはいつまでも待っているだろう。
「なぁに。神にとって瞬きする間に過ぎるようなものじゃ、そう気に病むこともなかろう」
「そっか、良かった」
「そうですよ。それに彼らに自分を見つめ直す良い機会を与えられたのです、紳人は頑張りましたよ」
「俺は何も…コンやウカミが居てくれたから、解決できたんだから」
家へと帰り着いた後、コンとウカミに優しい言葉を告げられて何だか救われた気持ちになる。
今回は二神が神様である点にかなり助けられた。
かと言ってそればかり頼る訳にもいかない。
今後はもう少しニ神が安心して見ていられるよう、俺も努力を重ねていこう。
「……ところで、神様にとって瞬きする間ってコンは言うけど」
「ん?」
それはそれとして、ちょっぴりイタズラをしてみたくなった。
こてんと小首を傾げるコンに微笑みながら問いかける。
「俺との時間もあっという間なの?」
「…ふふっ、何を言い出すかと思えば」
「えっ?」
「紳人との時間は1秒すら愛おしくて、瞬きすることすら忘れてしまうのじゃ。故にあっという間などではないさ」
「……それは、その。ありがとうございます」
「おや?顔が赤いですよ、弟くん♪」
「くぅ…!」
容易く返されてしまい、敢えなく撃沈。
彼女たちを完全に手玉に取るには何百年かかるのやら。
自ら攻めておいて返り討ちとなった恥ずかしさで拗ねたフリをしていると、くすくす…とコンとウカミが仲良く口元に手を当てて笑い出した。
その笑顔の愛おしさと綺麗さたるや、見られただけでも幸せを感じてしまうほどである。
……今暫くは神様に弄ばれるのも悪くない。
「あ、そういえば」
「はい?」
「神様に卒業ってあるのかな」
何となく気になったので、あまり神様が卒業とは聞かないけれど折角なので聞いてみることにした。
「基本的にはありませんね。ただ祠に住み着いた神や崇め奉られている神は、信仰者がいなくなるとお役御免となることもあります」
「それは…消えてしまうの?」
「大丈夫じゃよ。そういう神は一度高天原に帰った後、アマ様から指示を仰ぎまた新たな役目を貰うのじゃ」
「なるほど!それなら安心だね」
一生懸命頑張ったのに、人から忘れられたらはい終わりだなんて…限りある命の
もしそうだったなら。
どれだけの神様が、寂しさを胸に消えていったのかな。
いや…逆なのかもしれない。
記憶を残したまま、新たな役目を与えられる。
覚えているからこそ寂寥感も消えないんじゃないか。
……いつか、会いに行こう。役目を終えて新しい役目を担う神様たちに。
終えてなくたって良い、神様という神様と。
コンやウカミと一緒に八百万の神様皆に会って、話をしよう。
神様が見えて声が聞こえる俺なら、人間である俺にだからこそ伝えられるものもあるんじゃないか…そう、思うから。
「いつもこっちに来てもらってるんだ、偶には俺たちから会いに行くのもアリだよな」
「んぅ?何の話じゃ?」
「ううん、何でもない。いつかは話すよ」
「ほほぅ…このわしに隠し事とな」
「そんなんじゃないよ。ただ、やりたいことが見つかっただけ」
「確かにそろそろ進路を決める時期ですしね…寧ろ、考えている方の方が多いでしょう」
耳が痛い。
やりたいことが見つかってなかったので、去年の夏からの進路調査の時は当たり障りのない大学進学としか記入していなかった。
……あれ?でも『八百万の神様と話をして胸に抱える思いを汲み取りたい』なんて、どう書けば良いんだ…?
どれだけ考えても旅人しか出てこない。
しかし進学する気も無いのに受験して、あまつさえ合格してしまったら確実に迷惑がかかる。
もしかしなくとも…高校生と神様たちに囲まれる二足の草鞋生活は、俺が卒業しても大学生になること以外変わらないのかも。
なれば仕方ない。神様たちと話をするのは人生の大目標にして、人間らしい日々を過ごすのは変えない方針にしよう。
何だかんだで神様たちも長い時間の中で区切りをつけてることも多いはずだからね、急ぐ必要なんて無いさ。
困ってる神様を見つけたら、迷わず手を差し伸べていく感じで。
そのくらいのんびりでも大丈夫。だって…、
「さて、今日のプリンは何じゃろな〜♪」
「今日は何でしたかね〜?」
「確か…ちょっぴりお高めのやつを買っておいたはず」
プリン一つでこんなにも目の色を変えるような、可愛らしい存在。
それが…俺の知る神様なんだから。
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