聞こえてくる、日々の声②
「紳人くん、柑ちゃん。今日は珍しく遅刻ギリギリだったね…何かあったの?」
「何かあったというか、何かしでかしてしまったというか…」
「?」
一限目の休み時間、朝は話す時間が無かったから聞けなかったのだろうことを未子さんが後ろの席から聞いてきた。
振り向いてからすぐに目線を明後日の方向に逸らしながらはぐらかして言うと、くすくすと隣のコンに笑われてしまう。
俺の興奮を煽って気絶させた
しかし精一杯の抵抗としてじっとその顔を見つめると、ん〜?ととぼけられた。
それだけなら視線を止めることもなかったのだが。
他の人には見えないのをいいことにその尻尾で、俺の頭をよしよしと撫でてくるのでついフッと毒気を抜かれてしまう。
それだけコンのもふもふは格別なのだ、好きな上に極上なのだから。
「そっかぁ…大変だね」
「分かってくれるんだ…!」
「柑ちゃん」
「そっち!?」
「うんむ!全くじゃ」
むぅ…釈然としないけど、此処で意地を張って墓穴を掘る訳にもいかない。
大人しく聞き逃そう…さて次の教科は何だったかな。
「朝から此奴がわしの膝枕をねだりおってなあ…」
「甘えん坊さんなんだ、意外だねぇ」
「……」
ねだった訳ではない。無いのだが…それを言ってしまうと、まるでコンの膝枕が要らなかったみたいじゃないか。
我慢…我慢だ、俺。未子さんに甘えん坊だと思われても問題ない、半分は正解だし…。
コンや未子さんからニヤニヤとした視線が注がれるが、寝たフリをして気付かないフリをする。
すると…やがて諦めたのか、視線が外れた気配がした。どうやら俺の勝ちらしい。
「昨晩なんてな?何と…ゴニョゴニョ」
「えぇ!?紳人くんがそんなことを…!?」
……我慢、しなければ…!!
あれやこれやと吹き込まれているように聞こえるが、ヒソヒソ話では幾ら真後ろの席とはいえ断片的にしか聞こえない。
あああ気になる!ものっすごく気になる!
そもそも人間と神様が内緒話って何さ!そんなもの気にならない方がおかしいよね!?
かくなる上は…!
(トコノメ、聞こえてる!?俺だ!)
(オレオレ詐欺は感心せんな)
(違うんですぅ!!)
慌てすぎたらしい。気を取り直してもう一度。
(こっそり俺にコンたちが何を話してるか教えてくれないかな)
(女子の内緒話なぞ咲かせてなんぼだろう?)
(そうだけどさ!)
コンも神様とはいえ立派な女の子だ、話題の種が俺の恥ずかしい話でなければ喜んで見守っていたけれど。
(ま、気にしなくて良かろう。多少は恥ずかしい思いをするのもまた、青春というやつだ)
(む、ぐぅ……)
何事も経験、か…。
いつの間にか握っていた拳を解いて、徐々に本当に眠気が沸いてきて少しずつ微睡みの中へ落ちていく。
クラスの心地良い喧騒が遠のいていく。やがて、自分の呼吸の音も何処かへと消えていき…。
「わしらの話は聞こえたかの?♪」
「っ!?」
ガバッと反射的に跳ね起き振り向く。
そこには、悪戯成功したとばかりにニヤニヤした笑みを止められないコンと未子さんが居た。
「な、あっ…!」
「やぁっぱり寝たふりをしておったな〜?可愛い奴め」
「紳人くん、プルプル震えてたよ。隠しごととか嘘つくのあまり得意じゃないもんね」
バレバレだったようである。急に恥ずかしくなり、此処まできたらと開き直って聞いてみた。
「何で、分かったの?」
「フフッ…まぁ、トコノメがニヤニヤしておったからな。お主と内緒話をしていると察したのじゃ」
無論わしは元から気付いておったがな?と小首を傾げて誇らしげに微笑むコンに、俺はどうあろうと手のひらの上だったのだと気付かされてしまう。
「因みに内緒話の中身じゃがな、何も話しておらんよ。お主の反応があまりに可愛いから、つい揶揄いたくなってしまったのじゃ」
俺の瞳を覗き込むように前のめりになりながら囁かれ、これだけ弄ばれているのに俺はコンのことを本当に愛しているんだなと満更でもない気分だった。
「そう言えば紳人くん。今日は午前中で終わりみたいだよ?」
「へ!?弁当作らなくて良かったんだ…」
「真っ先にそう考えるのが、紳人くんらしいね」
ふふっと可愛らしく笑う未子さんの表情は、年相応に可憐でとても楽しそうに明るかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます