第29話
聞こえてくる、日々の声①
「ふむ…あと5日、か」
「ん?コン、何を数えてるの?」
顔を洗い服を着替え朝ごはんをちゃぶ台型の机で食べていると、コンがデジタルの時計をチラリと流し見ながら独り言を漏らした。
「決まっておる、お主の誕生日までの日付じゃ!」
「ふふっ。最近コンは毎日日付を確認してますものね」
「うむ!他ならぬ紳人の誕生日じゃからな、ウカミとてそうじゃろう?」
「はい、紳人の誕生日ですから!」
そこまで指折り数えて待つほどのものでもない…とこの前までは思っていたけれど。
今年は父さんや母さんにも面と向かって会えるようになったし、何より
正直、負けていないくらいには俺も楽しみだ。
……まぁでも、かえって今年の誕生日プレゼントは必要ないかも。
だって、コンもウカミも絶対一緒に居てくれるし、父さんと母さんも当日…は平日だから難しいにしても前日の休日には恐らく来てくれるはず。
皆が側に居てくれる。それ以上に幸せなことも、欲しいものなんてない。
いや待て。あった。とっても大切なものが。
全世界の人、なんて大仰なことは言わないけれど。
俺の周囲の人間や神様がいつも幸せに満ちていて欲しい。
なんて格好つけ過ぎだろうか。本心なんだから、仕方ない。
「しかし…あと5日で紳人も女を知るのじゃな」
「え?」
「いや、厳密にはわしの全て…かの?♡」
「ちょっ!?」
味噌汁を飲み終えていて良かった。
もし口に含んだままだったら、確実にお茶の間大盛況の大惨事になっていただろう。
金色の瞳を妖しく光らせ、くすくすと笑うコン。
その様は可愛らしさもありながら、やはり彼女は神様なのだと思わせる神妙さと艶やかさを醸し出している。
あぁ、顔が凄く熱い。
コンの全てと聞いて俺の心臓の鼓動は早まり、思春期男子の妄想はヒートアップしていく。
「もしかしたら私の全ても…お見せするかも?」
「はい!?」
ウカミがわざとらしく肩をはだけさせ、色っぽく自身を撫でながらそんなことを言い放った。
紅の瞳は何処か恥じらうように細められ、上目遣いで見られると目線を逸らすことが出来ず見つめてしまう。
「ふ、ふん!そう言ってられるのも今の内よ、紳人がわしを知った日には虜になってしまうじゃろうて!」
「では勝負しますか?♪」
「良かろ…いや良くないのじゃ!?勝負した時点でウカミは紳人をつまみ食い出来るではないか!」
「バレました!」
朝から操争奪の予約合戦を繰り広げられた俺はどうすれば?
男の本懐と喜ぶべきかな…いや!
「俺のために争うのはやめてぇ!」
「「……」」
「あ、あれ?」
場が一瞬にして凍り付く。まずい、非常にまずい。
これは確実に間違った、穴があったら俺が入った後埋め直して欲しいよ。
「紳人…やっぱり今この場で襲っても良いかの?」
「なして!?」
「ちょっと、分からせてあげたくなりまして…」
「ウカミまで!」
スッ…とウカミもコンも立ち上がり、俺の方へと一歩また一歩と静かに歩み寄ってくる。
橙色の髪のコンと白銀の髪のウカミが迫る光景は、荘厳とさえ言えるけれど…、
「覚悟せい紳人!茶化しおってからに、此奴め!」
「私たちは貴方を前に真剣に話しているのに!」
「ひぃ!ごめんなさい!」
しゃにむに後ろに逃げようとしたが、左足と右足を其々の尻尾に絡め取られその場に縛り付けられる。
そのまま左右に腰を下ろしたコンとウカミが膝立ちになり、
「「ふ〜…」」
「!?、?」
甘い吐息を耳元で吹きかけられ、ぞくぞくっ!と背筋が敏感に震えてしまった。
「紳人…愛してるのじゃ、紳人…」
「弟くん。お姉ちゃんを見て…?」
切なげな声音で囁き、俺の首筋を指先で撫でられる。
「お主は和ませようとしてくれたのじゃろうが…」
「時として静かに見守るのも必要なんですよ…」
やがて其々反対の頬へと手を伸ばし、俺の顔はコンとウカミの両手に包まれた。
わざと聞かせるように吐息混じりの呼吸を吹きかけ、俺の興奮を煽るような扇情的な手つき。
ふにっと押し当てられるコンの胸とむにゅんと挟み込んでくるウカミの胸は、火に油を注ぐように俺の理性を燃やし溶かしていく。
「「紳人の…たわけ♡」」
小悪魔的にステレオ的な囁きに襲われて。俺の理性は…弾け飛んだ。
「きゅう…」
俺の意識と共に。
「おっと。流石に刺激が強すぎたみたいじゃな…ま、良い薬になったであろう」
「えぇ、偶には厳しくしてあげないと!」
……それから、どれだけ気を失っていたのだろう。
ハッと目を覚ますと、俺はコンの膝枕に寝かされていた。
ウカミは既に学校へ行ったらしくコンに急かされるまま慌てて家を飛び出した。
学校へ走って向かう道中、「お主はもう少し甲斐性と男らしさを学ぶべきじゃ!」とお小言を貰うことになるのだった…。
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