第28話
穏やかな日々、騒がしく①
朝。
グーテンモルゲーン!(おはよう御座います)
……という冗談はさておき。
今日も隣で寝ていたはずのコンが俺の上に寝ていたのを起こし、簡単な朝ごはんを作り弁当を鞄に入れてから家を出る。
今ではかなりルーティーンになった日常の幸せを噛み締めながら、雑談混じりに登校。
最近では、起きる時間を早くすることでウカミとも一緒に登校できるようになった。
ただ、それは数日おきにしようと思っている。
3人での時間も大切にしたいけれど、コンとの二人きりの時間もかけがえのないものだから。
今朝、その話をした時はウカミを寂しがらせてしまうかと思ったが意外にもコンと一緒に嬉しそうな反応を見せた。
「下校は一緒ですから、登校の時くらいコンとの時間を楽しんでください♪」
とのことである。嘘を言っているようでもないので、本当にそう思ってくれているのだろう。
「お主はわしの旦那様になるんじゃからな!妻は大切にしすぎるくらいが丁度良いのじゃ」
そう喜んでもらえると、心置きなく愛せるというものだ。
陽だまりのような温もりに包まれながら幸せな毎日を過ごしていく。
と思っていたのが、数分前まで。
現時刻。俺は。
〜〜〜〜〜
「紳人。俺も悲しいんだぜ?」
「悟…そうだよね。やっぱり友人を手にかけるなんて」
「お前が俺たちより早く逝くなんて…!」
「既に死んだ者扱いか!」
花瓶の置かれた自分の席の椅子に、縄で縛られていた。
教室の扉を開けた瞬間、俺はずた袋を被せられ数人がかりで運ばれた挙句椅子に押し込まれ訓練された動きで縛り上げられてしまったのである。
ずた袋が外されて最初に見たのは、献花だった。
そこからそこの間でずた袋を被せるなとか、勝手に殺すなとかツッコミ所に溢れすぎて何処から突っ込めばいいか分からない!
「というか何で俺はこんなことに?」
「本当の罪人ってのは自分が犯した罪を知らないらしいぞ」
「公正な審判を下す奴は何よりも罪に塗れた人物みたいだね」
「無知は罪だが、全てを知ることが赦しになるとは限らないがな」
彼らは怒りすぎると、とことん頭が良くなるらしい。
普段の悟なら絶対思いつかないようなことばかりポンポン口から溢れている…。
「ま、分からないようだから教えてやろう。堂々とお姉さんと従兄妹を侍らせて帰宅しやがって!嫌味か貴様!」
やはり見られていたようだ。
せめて校門の外から腕を組んでいたなら、多少話は変わったのかもしれないけれど…後の祭りか。
さて…此処で再び、運命の時が訪れる。
今俺は椅子に縛られた挙句、周囲を目力だけで殺せそうなクラスメイトに囲まれている。
コンやウカミも教室の端で女性陣に庇われ助けを求めるのも酷だ。
というか人垣の隙間から廊下を見たら、一部先輩や後輩も俺を睨んでいるね。
来年の文化祭のミスコンは、コンとウカミがワンツーフィニッシュで間違いないだろう。
……人のミスコンなのに神様が参加しては、一回で殿堂入り確実だけど。
っと、いけない。いつもの癖で思考が明後日の方向に。
とりあえず選択肢を間違えたらお陀仏となり、この机の献花が冗談では済まなくなってしまう。
「……」
深呼吸して口を開くと、周囲の空気がピリ…と張り付いた気がした。
「とても温かかったよ!」
『亡き者にする!!!』
「しまった素直な感想が!!」
あれこれと考えすぎて出力したものがシンプルすぎた。
俺はなすすべもなく暴徒に襲われ。
「お前ら、何をやってるか!早く自分の学年に行け!」
「戸高先生…!」
あわや大惨事となりかけたその時。
教師失格とずっと思っていた戸高先生が教室へ入りつつ、廊下の生徒へ喝を入れ暴徒は動きを止め皆自分の席へ着席した。
「紳人、怪我は無いかの?」
「あぁ…俺は大丈夫。柑たちは」
「わしらも大丈夫じゃ、何度言っても女子たちは取り合ってくれなくてのう。ウカミはすぐに職員室へと向かったから、問題ない」
縄をコンに解いてもらいながら、漸く一息を吐く。
今回ばかりはダメかと思った…いざとなればコンたちがいるとはいえ、俺の(血みどろの)青春を可能な限り応援してくれるスタンスの彼女たちの手は借りるのも忍びない。
「戸高先生、ありがとうございます!」
「ん?紳人…それは」
「え?あぁ、これは皆が悪戯で」
「っと、いかんな。まだ彼奴の声が聞こえるなんて…俺も何だかんだ、可愛がってたんだな」
「どうして皆死人扱いするのさ!?」
目頭を押さえるフリまでして俺から目を逸らした。やっぱりこの人は教師とは思えない!
卒業式が近付いても相変わらずの学校に、俺とコンは目を合わせて微苦笑することしか出来なかった。
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