神の悪戯、神に悪戯④

コンとウカミからもふもふによるご褒美を貰ったお昼が終わり、午後は丸々使って卒業式の際に歌う『旅立ちの日に』の練習時間となった。


因みに三年生は『仰げば尊し』を歌うので、卒業式の途中で交互に歌うことになる。


歌うのは好きだけど、得意かと言われると首を傾げてしまうのは日本人の気質かな?


俺は若干声が低いのでパート分けはソプラノ、アルト、テノールの内でテノールになった。


男子の殆どはテノールなので、特段意味はないのかもしれない。


コンのパートはソプラノだ。


パートを分けて練習する時間の際、ずっとコンの方を見ていたが尻尾でリズムを取っているのは本当に可愛くてたまらなかった。


ウカミは先生なので指揮者を担当する。


コンの歌声も素敵だけど、ウカミの歌声もいつか聞いてみたいなと思った。


そんなこんなで、ゆるりと練習していたらあっという間に午後も終わりを告げて放課後に。


勿論俺はコンとウカミの二神ふたりと一緒に帰路に着くのだが…その道中が問題だった。


〜〜〜〜〜


「あの…コンさん、ウカミさん?」

「わしは助さんではないのじゃ」

「私は格さんじゃないですね〜」

「いやそうじゃなくてですね!?」

「冗談じゃ。して、どうした紳人よ」


神様も時代劇とか見るのかな?と思いつつ、俺は本題を切り出す。


「何で…


そう。何とこの神様たち、周囲から男子の殺意に漲る眼差しと女子のキラキラとした眼差しを注がれるのも構わず、俺の腕を引き寄せるように左右から組んで帰宅までずっと歩いたのである。


恥ずかしさやら注がれる殺意の恐ろしさから離れようとしたが、その度により固く腕を取られるので足早に歩くことしか出来なかった。


更に密着しているのでその、コンとウカミの胸部が常に腕に押し当てられて。


今回ばかりは本気で立派になりかけたよ…。


「しょうがないじゃろ。お主は目を離すとす〜ぐいなくなってしまうからなぁ」

「私たちでしっかり繋ぎ止めておかないといけませんよね」

「わ、悪かったってぇ…!」


俺も正直役得とさえ思ってしまったので強くも言えず、言い出しておいてタジタジになる。


くぅ…やり辛い…!


しょうがない。この件は置いておいて、明日からどんな顔して登校すれば良いのかを考えようかな。


ん?待てよ?


コンとウカミが揃って俺に強く出てくるってことは…このパターンは!?


「く、ふふっ…!気付いたようじゃな?」

「ごめんなさい、弟くんの反応が可愛いものだからつい♪」


やぁっぱりねぇ!どうやら俺は、またしても二神に揶揄われた…言ってしまえば神様の悪戯で弄ばれたらしい。


「こらぁ!意地悪だよ、二神とも!」

「ふ〜んじゃ!言ったであろう?帰ったらとことん焦らしてやるって」

「帰る前から焦らされたけど!?」

「おや?私たちはただ腕を組んで歩いただけですよ?」

「えっ」

「ほほ〜。何か我慢でもしておったのかぁ?」

「それっは、だね…!」


やられたと思いつつも何処か楽しくて、つい笑ってしまいながら文句を言う。


その返しに反射的に突っ込んでしまうと、突っ込んだ先は墓穴だったらしく俺はあっという間に追い込まれてしまった。


「ほれほれ、言うてみぃ。何に、焦らされておったのじゃ?」

「早く言った方が傷は浅いですよ〜」

「ぐぬぬ…!」


家のソファの上で左右からしたり顔で迫るコンとウカミに、口を噤んで唸るしかない。


ウカミの言う通り、これ以上下手に誤魔化そうとしたり強がれば俺が恥ずかしい思いをするだけ。


誘導されてると分かっていても抗えない悔しさを感じながら俺は…深呼吸をして打ち明けることにした。


俺、いつも負けてない?悔しい!でも、許しちゃう!


「……コンとウカミの、その…もふもふとお胸が当たって…悶々としてました…」

「〜〜〜!愛いやつ、愛いやつめぇ!」

「むぅ!?」


感極まったように声ならない声を上げて目を輝かせていたコンが、いきなり俺の頭を前からむぎゅっと抱き締めた。


尻尾もしっかり巻きつけ、もふもふとふわふわで俺の頭は包み込まれる。


あぁ…幸せだぁ…。


咄嗟に持ち上げていた両腕から力が抜けて、だらんと垂れ下がりコンに身を任せていると。


むにゅりっと、凄まじい弾力のものが二つ俺の背中に押し当てられる。


ピキーン!と光が迸るように脳裏で何かが閃き、それが何であるのかを理解した。


「ふふっ…。どうですか、私の…お胸は♪」


加えて囁き声が背後から聞こえ、同時に俺の体はウカミの尻尾に包まれ俺の全てが至福に呑み込まれていく。


これは…神の悪戯か、悪魔の罠か。


何か張り合うような声で俺を挟んで会話するコンとウカミだったけど、暫く後に解放されるまで俺は何も考えられず何も出来なかった。


ただ一つ、極楽であったことだけは覚えている。

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