神の悪戯、神に悪戯③
「紳人、くん…」
「明!おはよう、いやこんにちはかな?」
「この時間帯、って…難しい、よね」
2限目の国語が終わった休み時間、コンは未子さんやクラスの女子と楽しげに話しているので1人お花摘みへと教室を出た。
その帰りにパタリと明と廊下で出会う。
(ラスマも…おはこんにちは!調子はどう?)
『面妖な挨拶をするな…だが面白い。おはこんにちはだ、神守殿!自分も明も、今日も健康である』
(そっか、良かった)
両者と挨拶を交わし、フッと笑っていると…自分と視線が合っていないことに気付いた明がキョトンと目を丸くした。
「何か…飛んでるの?」
「へ!?あ、いやちょっと小虫が見えた気がして。でも、気のせいだった」
「そっか…良かった。ところで、あの…小説の新刊、図書室に…増えてるよ」
「おぉ!それは近いうち借りるしかないね!」
危うく友人から変な人認定されてしまうところだった。少なくとも、ただの人間ではないんだけれど。
かといって宇宙人でも未来人でも超能力者でもないので、入団することは不可能という微妙なラインに立っている。
そんなちょっぴり特殊な人間の俺と真っ当な一般人の明が話す小説。
諸々の事情でタイトルは伏せるけど、それは俺と明が友人になるきっかけとなったものだ。
その新刊がいよいよこの大社高校の図書室へ追加されたらしい。
寝ても覚めてもコンたちと一緒に居るから、つい読むのを忘れてしまいそうだ。
2週間くらい貸してもらおう…春休みまではもう暫くあるし。
「そう、いえば…もうすぐ卒業式だね」
「確かに。明は誰か知り合いの先輩っているの?」
「えっ、と…読書部の、先輩とか」
「そういえばそうか」
忘れていたけれど、明は読書部に入っている。
部活といっても堅苦しい場所ではなく、落ち着いて読書したり本を語る場所のようだ。
参加も脱退も自由で唯一のルールは月一の読書感想会に参加すること。
明は可能な限り参加している真っ当な部員で、来年は部長にと推薦されているとか。
部活かぁ…。
『神守殿は何かしらに参加せぬのか?』
(しても良いんだけれど、何かと賑やかな日々を送る身でね…)
読書部へ所属するにしても、やっぱり幽霊部員気味に参加するのは申し訳ない。
こういう何気ない学生生活を謳歌するだけでも、俺としては楽しいのだ。
それに、コンとウカミや神様たちとの時間は同じくらいかけがえのないものだから。
いや…コンとの日々は、何よりも。
『ふっ、神守殿…気付いておるか?』
(ん?)
『今の顔、紛れもない漢のそれであることを。どうやらあの日の答えは、見つけられたようだ』
(ありがとう、ラスマ。あの言葉…今でも忘れてないよ)
『何、自分は何もしておらぬ。貴殿の頑張りだ』
ラスマにはコンとの関係で悩んでいた俺に、発破をかけて貰った恩がある。
休み時間が終わり予鈴が響く中慌てて教室へ戻る明たちの背中を見送り、今度甘いものは好きかどうかを聞いてみようと思った。
〜〜〜〜〜
「む〜」
ビタンビタン…。
「……」
「むむ〜」
ビタン、ビタンッ。
「……」
「「むむむぅ…!」」
3限目の数学と4限目の英語が終わったお昼休み。
俺は…お昼ご飯の弁当を食べる前に、中庭のベンチでコンとウカミの尻尾叩きの刑にあっている。
もふもふなのが幸いだけど、気分的には紛れもなく瞑想を崩したお坊さんへの喝だ。
「何故お主が叩かれておるか、分かるか?」
「た、叩きやすいから…?」
「……(ビシッ!)」
「あっビンタ痛い…」
頰を膨らませたコンの問いかけに、軽く茶化してみたら容赦なく尻尾でビンタされた。
あぁでも、やっぱりもふもふだな…痛みよりももふもふの感触が鮮明に残る。
もふもふ、もふもふ…。
「弟くん。何でお姉ちゃんたちに叩かれているか…分かりますよね」
「はい!もふもふです!」
「……(ベシッベシッ!)」
「ごめんなさい!!」
そんな煩悩まみれの頭で受け答えしてしまったので、反対の頰をしっかりウカミの尻尾で叩かれてしまう。
きっちり2本である、2本で済ませてくれて良かったというべきかもしれない。
「ええい!何故わしに何も言わずに教室を出たのじゃ!」
「そうですよ弟くん!2限目の休み時間は教室で、3限目の休み時間は職員室で待ってたのに!」
「コンには確かに申し訳なかったけど、ウカミは先生だし3限目に至っては理不尽な」
「えいっ⭐︎」
「ガ、ガガガっ…!」
つい口を滑らせてしまい、初のウカミからの尻尾万力を頂戴することに。腕を巻き込んでいるので抵抗すら許されない。
神様は基本的に寂しがり屋である。
コンもウカミも例外ではなく、ちょっと離れたらこうなってしまった。
ずっと一緒だったから迂闊だった。というより、ここまでご立腹になるとは思いもよらなんだ。
次からは離れる場合は必ず一言言おう…あと、毎回は無理でも2回に一回は休み時間中に職員室に顔を見せよう。
憎らしいほどの晴天を睨みつけながら、薄れゆく意識の中で俺は深く反省するのだった。
それが…可愛い神様たちの為ならば。
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