神の悪戯、神に悪戯②
「それでは今日はこのプリントを解いていきましょう〜。この2限の中で先生から満点を貰えたら、その後は自由にしても良いですよ♪」
1限目は歴史の授業だった。
…けど、正直殆ど覚えていない。理由は当然睡魔に負けていたからである。
正直もう授業らしい授業も終わっているので、この時期はノートを取ることも殆どないのだ。
手を動かさないと眠くなってしまうのは、人間の常…だと思う。
そんなこんなであっという間に2限目の国語、つまりウカミの授業の時間になった。
ウカミの教え方は本当に分かりやすい。
どれくらいかというと、このまま次の学年もウカミが国語の先生なら、満点を取れるんじゃないかってくらいに。
なので自然と授業もスイスイ進み教科書はあっという間に終わっているため、今日もプリント自習のような形だ。
「……」
大きく動かなければ自由なので、席をピッタリくっ付けたコンと雑談を交わしながら漢字の読みや細かな設問を解き進める。
約15分くらいだろうか。特に詰まることもなく、簡単に解き終えてしまった。
自己採点にはなるが何処も不安な点は無いため、1発合格も狙えるだろう。
「……」
こっそり隣のコンを盗み見る。
コンは集中しているみたいで、睫毛の長い目を細め口元にシャーペンの尻を押し当ててプリントを見つめていた。
手元へ視線を移せばそのプリントはもう大部分を解き終え、残り2問程度まで進んでいる。
コンは頭が良いからなあ…英語や情報以外は、俺より高い。
唯一国語だけはまだ俺の方が高いけど、間も無く揃って満点を取る日も近いと思っている。
「此処は…こうじゃな」
小さく独り言を漏らしながらスラスラとペンを走らせるコン。
その姿がどうしようもなく綺麗で可愛らしくて。
つい、イタズラをしてみたくなってしまった。
(……可愛いなあ)
「なっ!?」
心の中で祈るように語りかけると、コンに届いたようでバッと此方を振り向く。
顔を軽く赤くしつつまじまじと見つめてくるが、俺はあくまで心の中で独り言のつもり…という体を貫く。
(今朝も朝、あの唇とキスしたんだよね。好きだな…やっぱり)
「こ、これ、お主…!」
声を必死に押し殺しながらコンが俺に耳打ちしてくる。
それに対して俺は、甘い匂いと仄かな熱を感じながらキョトンととぼけてみせた。
「ん?どうしたの、コン(何でか分からないけど、慌ててる姿もたまらない…耳とか尻尾、いきなり触ったら怒られるかな?)」
「漏れとる!心の声、漏れておる…!」
「……ふふっ」
「お主、まさか…わしを揶揄ったな!?」
真っ赤になったその素敵な顔をズイッと俺に寄せ、少し突き出せばキス出来るほどに接近する。
教室の一角なので、皆眠ったり雑談したりしているので滅多に見られない。
だからこうして声を潜めるだけで隠れてコンを揶揄う事ができる、という訳だ。
(ごめん、コンがあまりに可愛かったから…愛おしくてつい)
(お主というやつは…普段の仕返しかの?)
(意趣返しって言って欲しいな。恨みじゃなくて、コンにもドキドキしてほしくてやってるんだ)
流石にこの会話は声に出して万が一バレたらちょっとまずい。
なので、心の声で話す。俺たちにしか聞こえないので、とことん素直に伝えられる。
(お主…帰ったらとことん焦らしてくれる、覚悟しておくんじゃな!)
(家までお預けってこと?そっちの方が焦らされてる気がするね)
(〜〜〜〜!)
ぐぬぬっと可愛らしい手を握りながら声にならない声を精一杯響かせる。
そんなコンが、心から愛おしい。
揶揄い過ぎたお詫びに誰も見ていないのを確認してから、優しくさわ…さわ…とコンの頭を撫でる。
「……紳人は、ズルいのじゃ」
「狐の神様に言われると、誇らしいね」
「…たわけ」
やがてコンは耳をぺたりと伏せ撫でやすくしながら、くすっと微笑んだ。
あぁ…幸せすぎて、なんて言えばいいんだろう。
この幸せを、愛情を。俺は…上手く伝えていけるだろうか。
「弟く〜ん、柑さ〜ん?回答できたら持ってきてくださいね〜」
「は、はい!今行きます!」
不意にウカミが教壇からニコニコしつつ俺とコンを名指しで呼んだ。いつから見られていたのだろう…?
とりあえずガラッと椅子を鳴らして立ち上がり、俺とコンはプリント片手に教壇で待つウカミの前へ。
「……はい、お二人とも満点です。1発合格なので花丸あげちゃいます♪」
無事に1発で通ることに成功した。これで、残りの時間は自由時間となる。
「ありがとうなのじゃ」
「では失礼します」
「あぁ、そうそうお二人とも」
「「?」」
背を向け戻ろうとしたところで声をかけられ、俺とコンは中央を開けるように振り向く。
間に挟まれたウカミは…くすっと微笑み、俺たちの目を覗き込んで囁いた。
「あまり2人だけの世界に入り過ぎると…いつかバレちゃいますよ♪」
流石は姉兼保護者。バッチリお見通しのようである。
顔を赤くして席に戻る俺たちを、クラスの皆は不思議そうに眺めていた。
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