神は説く、嫁は入ると④
翌日、そしてまた翌日と宇賀御先生による特別授業は滞りなく進められていく。
基本的には初日と変わらない恋愛関係の話だったが、時折伴侶として恥ずかしくないよう国語から家庭科に至るまで15分程度で簡潔に教えてくれた。
それは間違いなく補習としての意味を成しており、文句ない時間だと思った。
寧ろ教科ごとに纏めてくれていたのでシンプルに授業を受けたり勉強するより余程身についたと言える。
「人間の集中力は凄いですが、45分が限度ですから。私もお話を聞いてもらえないのは寂しいのです」
と、全ての補習を終えたウカミはウィンク混じりに教えてくれた。
こうして、2月27日の今日。
謎の補習三日間を終え再来週に迫った卒業式に向けて、来週から少しずつ練習が始まっていくことを学校側から伝えられるのだった。
〜〜〜〜〜
「ん〜…終わったねぇ紳人くん。補習も凄く面白かったなぁ…あれ?紳人くん?」
「……」
「何だか凄く…やつれてる?」
「おぉすまぬ未子よ、昨日まで此奴は補習の内容を徹夜で復習しておってな。頑張り疲れじゃ」
「真面目なんだね、私も見習わなくっちゃ!」
「違う…これは…」
『復習の頑張り疲れ』じゃない…とまで言い切ることができず、俺は机に突っ伏してしまう。
でも仕方ないのだ、コンが我慢の限界を迎えたあの夜から俺への誘惑が一層色を増したんだから。
例えば夜の就寝前。いつも同じ布団で寝ているのだが…ここ数日、足を絡めむぎゅっと抱き締めてくるのだ。
その上「だ•ん•な•さ•ま♪」と甘えるようでいて包み込むような優しさも感じる声で囁かれる夜を繰り返されれば、堪えるのにも相当な意思力を必要とされる。
「へっ、すっげぇ美人の姉と従兄妹が居るのに伴侶を持とうなんざ贅沢な野郎だな」
共に補習を乗り越えたのに、悟は相変わらず手厳しい。
まぁその従兄妹であるコンと実は婚約済みですなんて知られたら、俺は別の意味で地獄の2週間を過ごす羽目になるのでそのままにしておこう。
「ふふっ、確かにそうだね〜紳人くん?」
「ははは…」
未子さんに背中をポンポンと撫でられ、微苦笑をしながらゆっくりと体を起こす。
事情を知る彼女に言われると笑って誤魔化すことしかできない。
『小僧』
(ん?)
ふと、トコノメが未子さんの傍らから話しかけてくる。
『甲斐性を見せるのも、男の務めだぞ?』
(トコノメ…何処まで知ってる?)
『フッ。まぁ頑張るんだな』
不敵に笑われ、言及したいもののはぐらかされて教えてはくれないだろう。
というか、ふしだらめと言われるんじゃなくて甲斐性を見せろと言われるとは。
トコノメなりに応援してくれているのかな?
その応援に応えるのはもう少し先になるな…と思っていると、早くも仕事を終えたらしいウカミが教室の隅にいる俺たちの下へ来た。
「弟くん、コンさん。一緒に帰りましょう♪」
「うむ。行くとするか…今日はあれが待っておるからな!」
「えぇ!もう今日はそのことばかり考えちゃって…!」
「2人とも、本当に好きなんだね。美味しく出来てると良いんだけれど」
「あれ?何か作ったの?」
キョトンとする未子さんに、意図せず3人揃って向き直りながら代表するように俺が告げた。
「……バケツプリンだよ」
〜〜〜〜〜
「ん〜!美味い、美味いのじゃあ!ふわふわでたまらんのう〜!」
「これは…絶品ですね!それがこんなに大きいなんて、夢のようです!」
「喜んでもらえるのは嬉しいね」
コンとウカミが同じ動きでパタパタと尻尾を揺らし、舌鼓を打つ様が可笑しくて笑いながら自分のプリンを一口。
因みに
俺のは余った材料で作ったもので、メインはコンたちに喜んでもらうことだからサイズは小さくても気にならない。
一口食べたプリンはふわりとした食感で、キャラメルの味もしっかり出ており両方を一口で食べるとバランスの良い味だ。
我ながら今日のは過去1の出来映えだと自負している。
「「ご馳走様でした」」
「早くない!?」
俺が最後の一口を食べ終えたタイミングで、同時に手を合わせてご馳走様を告げた。
皿を見ると見事に完食されており一欠片も残っていない。
何という速さだ…それだけ夢中で食べてくれたということだろう。
二神は、本当に美味しそうに食べてくれるから嬉しい限りだ。
「はふぅ…ありがとうの、紳人。夢が一つ叶ったのじゃ」
「私からも礼を。こんなに美味しいプリンを食べたのは初めてです」
「そう言ってもらえるなら、また今度作ろうかな?」
「待ってるのじゃ!」「待ってます!」
若干食い気味かつ前のめりに返事され、どれだけプリンが大好きなのかを再確認しながら頷く。
「さて…少しゆっくりしたら、今日の晩御飯のメニュー考えて買いに行こうか」
「では紳人じゃな」
「はい?」
「私にもちょっとくらい…」
「むぅ〜どうしようかのう?」
「俺の意思は?」
「「食べてしまえば関係ない
のじゃ(です)」」
「理不尽だなぁ!?」
俺の迫真の反応がお気に召したのか、ケラケラと楽しそうに笑う俺の姉と婚約者。
この幸せそうな笑顔が見れるなら、揶揄われるのも悪くない…そう思えてしまうのだった。
「……因みに嘘ではないぞ?」
「もう少しだけ待ってぇ…!」
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