神は説く、嫁は入ると③
「あの、ウカミ。今日の補習の内容についてなんですけど」
午前中で学校が終わったため、少し早めに晩御飯を取り食器を片付けてからコンとお風呂に入る。
あの手(わざと女の子であることを意識させてくる)この手(意図しない無防備さに勝手に理性を乱される)で誘惑してくるコン。
高校卒業したら覚悟しておくんだね…と内心で血の涙を流しつつ、何とか堪えてお風呂から上がった。
早々と其々で体を拭き、コンは俺の髪を俺はコンの髪をしっかりと乾かし合う。
そして今、コンの尻尾をドライヤーで乾かしながらパンパンと自分の髪を拭くウカミに話しかけたのだ。
「何でしょう?弟くんにとっても有意義な授業だったと思いますよ」
「本当にそうかな…?」
結局、今日の授業内容は
①既成事実
②良き伴侶を見つけるためのテクニック
③突然押しかけて有耶無耶に乗り込む方法
④告白は2人きりでじっくり逃げられない場所ですること
など確実に相手の逃げ道を塞ぐことに重きを置いたもので、まだ相手のいない悟やクラスメイトたちは必死にペンを走らせていた。
けど俺は、嬉々として教壇に立ち講義する姉に戦々恐々とするばかりだった。
明日こそはまともな補習をしてほしい…いやそもそも俺とコンに赤点なんてなかったんだけど。
「わしとしては既成事実の話をもう少し掘り下げて欲しかったのじゃが…」
「そんなこと許しません!耐えられなくなるでしょ!」
「というわけなのじゃ…」
「寧ろ其処が狙いなんですけどね〜」
ね〜と声を揃えて首を傾げるコンとウカミ。
神様側が既成事実を作ろうとするなんて…と思ったけれど、思えば神話の時代からそんなこともあった気がする。
「弟くんはどうしてそんなに、卒業後に拘るんです?」
「そうじゃそうじゃ!わしはいつでもうぇるかむなのに!」
「それは……」
「「それは?」」
ウカミの赤い瞳、コンの金の瞳が俺を真っ直ぐに射抜く。うっと言い淀んでしまうものの、この2人に言い逃れは出来ないし嘘は吐きたくない。
はぁ…と観念のため息をして、けれどもやっぱり恥ずかしいので明後日の方を向きながら何とか喉を震わせて言った。
「……結婚とか、子供…とか。そういう責任取るなら、せめて高校は卒業してないとコンにも子供にも辛い思いをさせてしまう」
世間というのは、温かい人たちばかりではない。
コンが神様であることは話したところで受け入れてもらえないだろうし、そうであることを抜きにしても小さな女の子にしか見えないコンと高校生の俺…どう見ても安心は出来ないだろう。
俺の両親が受け入れてくれているにしても、だ。最悪、その両親にさえ猜疑の目が向けられる可能性だってある。
角が立たないようにするには、高校卒業は必須条件と言える。
それに、だ。
「『神隔世』に行くにしても、高校くらい出ていないと旦那として情けないからね」
そう茶化すように笑いながら締め括ると、あれだけムッとしていた2人が面食らったように目を丸くしていることに気が付く。
「…えと、何か変なことを言ったかな」
「…前にも言った気がするが」
「え?うん」
「お主…本当に齢17の高校生かの?」
「へ?」
「流石の私もビックリです…。人生設計、しっかりしすぎですよ」
2人が揶揄いとか冗談とかの気配が微塵も感じられない、ありのままの反応で困惑されてしまった。
少し考えすぎだっただろうか。それとも、小説やゲームに触れすぎたかな。
「……あぁ、いかんなこれは。抑えられそうにない」
「コン?どうしたの…うわっ!?」
不意にコンが俯きその表情が陰に隠れる。様子が急に変わったので、思わず覗き込むと突然ソファに押し倒された。
「全く…紳人は悪いやつじゃ。これほどまでにわしのことを愛し、将来のことも考えておる。なのに愛を確かめる行為は待てという、生殺しも良いところではないか!」
頰を朱に染め切なげに声を漏らしながら潤んだ瞳で俺を見下ろし、耳も尻尾も忙しなく揺らすコン。
「弟くん…いえ紳人さん。私も今回ばかりはズルいと思います!あんなことを言われてときめかない女の子は、『神隔世』にも居ませんよ」
ウカミまでめっ!と人差し指を立てて俺を注意する。どうやら、真剣に考えすぎた結果かえって煽ってしまったらしい。
「なので、責任持って今夜は愛してあげてください♪」
「ちょぉっ!?」
「ええい!良いな!?良くなくても良いな!?」
「わぁ待って待って!ストップ、ストップぅ!」
「良いではないか、良いではないか!」
「あ〜れ〜!」
……この後、本気の力でコンが迫って来たのでウカミが見ているにも関わらず激しくキスをして、18になったら絶対に夜伽をすることを誓うことでその場を何とか納めた。
「紳人の気持ちは嬉しいが…わしは待ってやれぬかもしれぬ。その時は、許して欲しいのじゃ♡」
俺の誕生日まで…あと、2週間。
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