神は説く、嫁は入ると②
「それでは今日の授業は、『嫁入り•婿入り前に大切なこと』をお勉強しましょうね」
「本当にやるんだ…」
2-Aの教室…ではなく、同じ階の多目的教室を借りて補習は行われる。
教室ではないと言うこともあり席は自由とのことだ。
ただ、そうなると当然皆後ろに行きたがるのが学生の性分。
なので、俺とコンはウカミの1番近く…教団の目の前に2人並んで座ることにした。
未子さんもコンの横へ座り、俺たちは3人並んで授業を受ける形になる。
「よぉ紳人…てめぇだけ美味しい思いはさせないぜ…?」
「ここにいる時点で美味しい思いはできてないと思うけど…」
コンが座っているのは俺の左隣。つまり右隣は空いているので、そこには悟が現れた。
何やら迫真の表情だが、俺はこの状況を喜んでいいやら悲しんでいいやら分からない。
まぁ他の人と同じで、午前中で帰れる上に少人数だから落ち着いて過ごせるというのは喜ばしいことかな。
「ではまず夜の…」
「初手からクライマックスなの!?」
前言撤回落ち着けない!
「あと嫁入り前だよね!?何で夜の話が出るの!」
「そりゃあお主」
「決まってんだろ」
「2人は予習はバッチリですね、偉いです!弟くんもしっかり勉強しましょうね?」
「えっ俺だけ?分かってないの俺だけ?」
自分の中では至極真っ当な疑問だったのだが、コンも悟も理解しているようだ。
よく分からないが勉強不足だったみたい、素直に聞いてみよう。もしかしたらしっかりした意味があるのかも。
「嫁入り前に夜の相手をする理由…それは!」
「それは…」
「既成事実です!」
「だから初手からクライマックスじゃないか!!」
それはもう嫁入りというより嫁入り以外の選択肢を奪い去るやり方だ。
「これが1番確実ですよ?想い合っているなら尚のことです」
片手を腰に当て頬を膨らませ、ふいふいと軽く指示棒を揺らして俺に注意するウカミ。
コンもしきりに頷いている。それで良いのか神様よ。
……もしかして、寝てる内に貞操奪われていたりする?無いよね?俺、コンのこと信じてるから!…信じているから、ね?
「男としては、しっかり責任を取らねぇとな」
「悟…君経験無いでしょ」
「うるせぇ!!夢も語れねぇ奴になりたかねえんだよ!」
「夢だけ語る夢想家も虚しいよ」
「お前、お前、お前〜!」
いけない。冷静にツッコミ過ぎて逆鱗に触れてしまった。
危うく鎌で真っ二つにされるかとヒヤヒヤしたが、幸いパンパンと宇賀御先生の柏手で制止され大人しくなる。
「そういう訳で、嫁入り•婿入り前に大切なことなんです。皆さん分かりましたか?」
『は〜い』
程良く間延びしたクラスメイトの返事に、深く考えてはダメだと学んだ俺はフッと笑った。
「は〜い…」
これはツッコんだら負けだ、己との勝負だぞ…!三日間、俺はこの場の空気に流されてみせる!
「良いお返事!先生嬉しいです…既成事実で捕まえた相手は、理由は様々ですがきっとあなたを大切にしてくれます。覚えておいてくださいね」
社会的にも法的にも身の危険が迫っているからじゃないかな…というかこの姉、高校生に何てことを!
……俺も高校生だった。いつの間にか保護者目線になっていたみたいだ。
「では次に、まだお相手が見つかっていない人向けに良き伴侶を見つけるためのテクニックを…」
いや、待てよ?とふと思った。
皆しっかり反応しているようにみえて、実は聞き流しているんじゃないか?
一縷の望みを賭け、チラリと周囲を盗み見る。
「「……!」」
物凄く集中して聞いてらっしゃる。
いつも寝ているはずの男子も、ぼーっと聞いてるだけの女子もノートすら広げて時折メモを取っているではないか。
「……紳人を尊重してやりたいが、わしも襲った方が良いのじゃろうか?」
「ちょっとくらい我儘な方が良いって聞きますよ!」
隣でヒソヒソと話す2人の会話は、聞こえないことにしよう。これからはちょっぴり眠る時間をずらそうかな…。
何にせよ、真剣に聞いている人がいるなら弟特権で直談判を試みるのも忍びない。
ウカミとて曲がりなりにも教師、邪な道に走らせるようなことはしないはずだ。
『……本当にそう思うか?』
(しない、はずだ…!!)
トコノメが珍しく優しい声音と共に肩に手を置いてくるけど、其方を振り向くことは俺には出来なかった…。
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