第21話

神は説く、嫁は入ると①

時間は昨日に遡る。


テスト返却で赤点がなかったことを祝うため、俺たちは学校帰りにスーパーへ立ち寄った。


必要なものを見繕い、明日も学校があるため遅くならぬよう足早に帰宅。


コン、ウカミ、未子さんの女子3人組に先に座ってもらい、晩御飯が入らなくなるのも困るので全員に普段より凝ったプリンを振る舞うことに。


本当はバケツプリンを作ってあげたかったのだが、一晩置く必要があるので其方は明日にした。


キャラメルソースは鍋底を冷や水に当てしっかり余熱を断ち、牛乳と生クリームの量を固まらなくなるギリギリまで入れ、オーブンで加熱する際沸騰したてのお湯も盆に注ぎ蒸し焼きにするこだわりを貫き完成。


冷蔵庫で1時間冷やし…皆へとお出しする。


「お待たせ、神守スペシャルプリンだよ」

「待っておったぞ紳人!やはりこれが1番美味いプリンじゃ!」

「弟くんのお菓子を作る腕前、流石です…」

「凄いね紳人くん…今度作り方教えて?」

「あぁ、良いよ。そんなに難しくもないからね」


目を輝かせて待ちきれないと揺れるコン、笑顔でおっとりしているようで尻尾がわさわさとはためくウカミ、目を丸くする未子さん。


三者三様の反応に思わず笑ってしまいながら、いただきますと思い思いにスプーンで一口食べる。


「〜〜〜!美味しいのじゃぁ〜!」

「病みつきになってしまいますね…!」

「凄いふわふわ!何個でも食べられちゃうよ」

「お口に合ったようで良かった」


やはり自分が手塩にかけて作ったものを喜んでもらえるのは、作り手冥利に尽きるというものだ。


コンとウカミの反応は何度見て聞いても俺の心を幸せにさせるし、未子さんの新鮮な反応も嬉しい。


……まぁ、一つ気がかりを言うなら。


『おい、小僧。我の分は?』


両腕を組んでムッとした顔で未子さんの後ろから俺を睨み付ける、トコノメの存在かな。


(今度の土日で『神隔世』の方に持っていくよ…その状態だと食べられないだろう?)

『フッ…話が早い。約束を違えたら許さぬぞ』

(必ず持っていく、安心して)


一個だけじゃなくて幾つか用意しておくか…絶対アマ様にバレるし。


その流れでコトさんも便乗してくるのも確定だ。


向こうにもプリンはあるはずだけど…俺が作ったものが食べたいと思ってもらえるのは素直に嬉しいから、そう思うことにしよう。


「…でも、姉としては少し複雑です」

「赤点が…無かったから?」

「そうですっ!どれか一つでもあったらあれこれ理由を付けて弟くんを私の補習にお連れできたのに!」

「サラッと怖いこと言うのう…」


なら何故勉強会を許したのか。そう聞いてみたら、それはそれこれはこれ。


頑張ろうとする俺の邪魔することもできないと応援してくれたらしい。


姉というのも複雑なものである、実姉ではないけどね?


「というか、仮に俺が補習でずっと姉さん担当になったとしても他の人もいるでしょう?」

「はい。なので、直接心の声で語りかけます♪」

「拒めない対話なんですが!?」


確実に俺の集中力を削いであれこれ楽しむつもりだ…!


否が応でも何かしらの反応しなければ、結果として俺の首が閉まる。


「ふふん、残念じゃったな…ウカミはしっかり教師としての勤めを果たすが良い。わしは紳人と思う存分過ごさせてもらうからの!」

「仕方ないですね〜…ま、邪魔をするのも悪いですから。今回は諦めます」

「らしいぞ紳人!わしらだけ先に帰ってのんびりできるな♪」


飛びついてくるコンを抱き留め、差し出される頭をよしよしと優しく撫でる。


ウカミには申し訳ないが、今日から三日間はひと足先に帰らせてもらおう。


小さく声を漏らしながら目を細め、幸せそうに耳を動かして撫で受けるコン。


暫く可愛いコンを撫でていると、ふと未子さんが俺たちを見ていることに気が付いた。


「どうしたの未子さん?」

「あ、ううん!何でもないの、ただ…仲良いなって思って」

「ふふっ。そうじゃろそうじゃろ〜」


むふ〜と誇らしげなコンに、楽しそうに笑っていた未子さんがその笑みをニヤけたものに変えて再度聞いてくる。


「でも何だか…もっと仲良くなってる気がするな〜?」


目敏い…乙女の勘は相変わらず侮れないな。


チラリとコンが目配せする。


それが意味することは言っても良いか、ということ。


未子さんになら良いだろう。俺とコン、ウカミの関係を知る唯一のクラスメイトだし、口が固いのは今現在証明されているのだから。


「実は昨日のテスト終わりの連休で、少し旅行に行ってな。そこで…婚約したんじゃよ」

「え!?本当!?おめでとう2人とも!でも…」

「?」

「進展するの…早くないかな?」

「あ、いや…それは…俺が我慢できなくてつい…」

「そうだったんだ。紳人くんったら、男前だ〜」


やはり女の子だからこの手の話は好きらしく、このこの〜と両手の指で揶揄うように小突かれる。


色んな意味でこそばゆい。


「もう紳人くんのご両親には話したの?」

「それはまだじゃな」

「きっと喜んでくれると思うよ。応援してるね!」

「ありがとう、未子さん」

「うんっ」


とはいえ、こうして無条件に背中を押してくれるのは本当にありがたい。


良い友人を持ったな…と我ながら思った。


「でも、お二人とも油断してはいけませんよ?」

「ウカミさん。油断って…とても心配することはないように見えますけど」


突然ウカミがそんな風に力説する。俺や紳人も未子さんと同じ意見なので、うんうんと頷く。


しかし、熱の入った動きでふるふると首を横に振ってそれを否定した。


「そういう時こそ思わぬ落とし穴があるものです!なので!」

「「「なので…?」」」


ウカミ以外の全員の発言がハモる。


それに対してキリッとした表情で、ウカミはありがたいお言葉を授けた。


「私が補習と称して、嫁入り前に大切なことを教えて差し上げましょう!」

「……はい?」


〜〜〜〜〜


こうして。


俺とコン、そして楽しそうだからと参加することにした未子さん、後は素で赤点を取ってしまったらしい悟や数人の男子女子はウカミから特別授業を受けることになったのだった。

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