それもまた、日常なれば④

「ん、ぅぅ…あれ?俺…」


不意に目を覚ます。


気が付けば、俺は何故か天井を見上げて倒れていた。


「おぉ!気が付いたか、紳人」

「コン?どうし、て…!?」


俺はこんなことに?と聞きかけて思わず目を見張る。


コンは、俺の頭を膝枕して尻尾を毛布代わりに被せてくれていた。


それは嬉しいのだが、何と彼女は……

バスタオル一枚なのである。


コンは確かに小柄ではあるが、ボディラインはしっかり女の子であるためお胸もお尻も程良く突き出ているのだ。


その為、バスタオルはそのシルエットを強調するように浮かび上がらせ強烈な色香に鼻頭が熱くなっていく。


そこで思い出す。


俺は先程、コンとウカミの見目麗しい御神体を見て興奮しすぎて鼻血を噴いて気絶してしまったことを。


いや、我ながら鼻血噴いて気絶って。昭和のお色気漫画じゃあるまいし…昭和でさえあったのか怪しくない?こんなこと。


「ん?何じゃ?血はお主の鼻からも飛び散ったものも綺麗に拭いたが…何処か痛むか?」

「いや、大丈夫…頭もコンの柔らかい膝枕が守ってくれてるから。重くない?」

「心地良いよ。寧ろ、お主は体躯の割に軽い気がするのう…もっと食べた方が良いな」


さわさわ…優しく頭を撫でながら揶揄うように微笑むコンを下から見ていると、逆光の美しさとその可憐な笑顔に妖艶なバスタオル姿が映えて本当に綺麗だ。


性的興奮というよりも、まるで美術品の最高傑作を見るような感慨に襲われる中。


ふと、俺に被せられていた尻尾もパタパタとゆらめいていることに気づく。


そして、連動するように揺れ動くコンの纏うバスタオルにも。


おや…?おかしいな、確かコンの尻尾は衣類には干渉しないようになっているはず。


「ねぇ、コン」

「んむ?」

「その…今君が付けているバスタオルって」

「おぉ、これか。咄嗟に巻いて血の処理やお主の介護などをしたまでは良かったのじゃが。ちとサイズが小さくての…尻尾より下は隠せておらぬ」

「!?」


油断していた!


この角度からだとすっぽりコンがバスタオルに包まれているように見えたけど、そんなことはなかったらしい。


「というかコン!何でそんな小恥ずかしそうにしながらもサラッと言えるの!?」

「それは…恥ずかしいのは本当じゃが、お主にならば触れて貰いたいし。その…見られるのも、吝かではないからな」


……瞬間、俺の中の時が止まる。


可愛い、好きだ、愛おしい!これほどまでに素敵な女の子が俺の婚約者!?


あぁ、今すぐ押し倒したい。押し倒してどれだけコンが魅力的で可愛い存在なのか、どれほど深く愛しているのかを教えたい!


けれど、駄目だ。繰り返し断言するが確実に歯止めが効かなくなる。


最後の一線は超えないのではない、超えられないのだ。


今は恋人同士のこの関係と、学生生活を謳歌させてあげたい。大人の関係になるのは…責任を取れるようになってから。


ふぅぅ…と深く深呼吸をして、自分を宥める。


少しずつ体の真芯から火照りが引いていくのに安堵し、ゆっくりと目を開けてコンを見る。


「うゃ…?」

「あっ」


しかし。その深呼吸が…最後の扉を開けてしまった。


奇跡的なバランスで保たれていたらしいコンのバスタオルが、俺の吐息ではらりと解けていく。


しまったと思った時にはもう遅く…またしても、更に今度はハッキリとコンのその美しい双丘を拝見する。


「あ、いや、ごめっ!すぐに退くから…っ!」

「ま、待て…!」


慌てて跳ね起きようとするがコンに尻尾を巻き付けるようにして両肩を押さえられ、抵抗出来ず膝枕へ再度頭を預ける形に。


顔を真っ赤にして、所在なさげに手をわたわたさせていたコンは…そっと手を下ろし自身の胸を晒け出しながらも俺を見てこう囁いた。


「……お主は、わしの胸が好き…じゃったよな?」

「…はい、大好き…です…」


この激しく燃えているのに陽だまりのように穏やかな感情は、興奮かそれとも愛か。


ただ一つ言えるのは…今のコンは、世界で誰よりも艶やかで美しい。


行き場を無くした胸中の衝動は、ガクンと俺の意識を揺さぶる。そして徐々に、うつらうつらと意識が遠くなっていく。


『---?--、---!……』


薄れゆく意識の中で、コンが何かを言っている気がしたけれどうまく聞き取れなかった。


〜〜〜〜〜


「コン…油断し過ぎですよ。紳人さんも若い男の子なんですから…」

「すまぬ…思いの外バスタオルがはだけやすかったのじゃ」

「まぁ、謝ることはないのかもしれませんけどね。こんなに幸せそうに眠っているのですし」


紳人を寝室へ運び、ウカミが用意してくれていた布団へ寝かせる。


わしらもきちんとパジャマへと着替えその傍らに2人並んで見守りながら、微苦笑するウカミの視線を辿り思わずわしも頬が緩んでしもうた。


紳人が、フッと力を抜いて幸せそうに笑いながら眠っているのじゃから。


「恐らく鼻血を出した疲労と、強い激情で気絶に近い形で眠ったのですね…。明日は私たちが朝ごはんを作りましょうか」

「そうじゃな…明日の朝くらい、ゆっくりさせてやらねば」


そうしてわしらも紳人の左右に分かれ、温めるように川の字になって横になる。


少しでも、此奴の眠りが良きものになるように。


……正直に言うとこんなことになって申し訳ないが、わしは少々…いや、かなり嬉しかった。


紳人がどれほど、わしのことをどんな風に、そしてどれほど考えてくれているのかが分かったからじゃ。


直接触れ合えば…心を読まずとも伝わる。


その感情や気持ちを言葉にするのは、恥ずかしいから言わぬが。全く、此奴め…何処まで愛いのやら。


わしからすれば、あの日初めてキスをした日からいつだって受け入れる心の準備は出来ておる。


じゃがまあ…此奴が真剣にわしとのことを考えてくれておるのに、蔑ろはできまい。


とはいえ…それでは生殺しよ、故にこれくらいは頂戴するからの?


「……ちゅっ」


こっそりと紳人の唇に自分の唇を押し当てキスをし、そのまま2回、3回と唇を重ねる。


そっと口を離すと…紳人の懐に自分の体を滑り込ませて目を閉じた。


夢の中でも…紳人に会いたいと願って。


〜〜〜〜〜


目が覚めると、いつの間にか朝だった。


起き上がると2人は寝室におらず部屋を出ると、エプロン姿の2人が笑顔で俺を迎える。


「おはよう御座います、弟くん。体調はどうですか?」

「無理はするでないぞ紳人。ご飯は食べられそうかの?」

「うん、もうすっかり大丈夫。朝ごはん作ってくれてありがとう」


気怠さも熱も感じない、健康体そのものだろう。昨日コンとウカミとのんびり話す夢を見たからだろうか。


「いただきます!」


ちょうど出来上がりだったらしい、2人は俺がよく作るご飯と味噌汁に卵焼きの三種の神器を出してくれた。


味は…申し分無い。いつの間にか腕を上げたらしい、今回みたいに俺が何かあった時には任せよう。


普段は俺が作る!家事は俺が担当して、2人には少しでもゆっくりしていて欲しいからね。


「んふふ…」

「ん?どうしたの、コン」

「いやなに…幸せじゃなって」

「ふふっ、そうですね♪」

「ウカミまで?…ま、いっか」


幸せそうに微笑む2人に見守られながら食べる朝ごはんは、普段とはまた違った良さを感じた。


……その日、学校はテスト返却最終日だった。結果は…俺、コン、未子さんの全員全教科赤点回避の快挙。


夕方は未子さんを我が家に招き、小さなパーティを開いてお疲れ様会をした。


明日からは暫く午前中だけののんびり生活!安いもんだぜ!


〜〜〜〜〜


「はい、皆さんおはよう御座います♪今日から三日間補習を頑張っていきましょうね!」

「……何で???」

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