それもまた、日常なれば③
その日の午後も物理と英語のテスト返却だったが、それぞれ60点、72点とそれなりの点数だった。
またしても勉強会の効果が表れており、感謝の気持ちしかない。
自分に何か、お礼になるようなことはできないだろうか。
明日でテスト返却も終わり、その後は残りの授業の消化や卒業式に向けての準備などが始まる。
その為、俺たち生徒側には余裕が生まれる。
反対に先生側のウカミは忙しくなるはずだけど…この神様が多忙を極めところなんて、
全く思い浮かばない。
とはいえお礼の場を負担にはしたくないので、しっかりと予定を聞いてコン、ウカミ、未子さんの3人の良き日を考えよう。
外出やアミューズメント施設へお出かけというのもアリだが、かえって疲れてしまいそうだ。
此処は一つ、何か手料理でも振る舞ってみようか?
…それだと普段とあまり変わらないな。
「うう〜ん…」
家へ帰り着きひと足先にお風呂を済ませた俺は、ソファの端に腰掛け頭を悩ませていた。
コンとウカミは2人でお風呂に入っている。
時折『えぇいこの胸か!この胸が彼奴を惑わせるのか!』とか『大きいのも肩が凝るんですよ?まぁ神様ですから凝りませんけど』とか、聞こえてくるのでそれから必死に意識を逸らすために物思いに耽る。
因みに…一般的には勝手に聞こえてくるが、今回は正直に言おう。
俺は今、かなり聞き耳を立てています。
乙女の湯浴みを盗み聞くなど紳士のするべきことではない。
でも、思春期男子たるもの想い人と絶世の美神が一つ屋根の下でお風呂に入っている。
そんな据え膳に反応しないのは、それはそれとして女の子に失礼じゃないか?
いや待て俺よ。それがお礼をしようと頭を悩ませる奴のすることだろうか。
否、断じて否である。
「真剣に考えよう…」
両手を耳で塞ぎ煩悩をシャットアウト。色即是空、空即是色。
そうだ。料理を普段から作っているなら、
今度は久しぶりにお菓子を作ろう。
そこまで考えれば何を作るか、なんてのは明々白々だ。
「バケツプリン!」
青いたぬきとはいかないが、コンの夢を叶えて差し上げよう。
バケツプリンなら皆で食べて丁度いいくらいのはずだし。
さて、今の内に作り方を覚えておこうかな…あれ?
「スマホ何処に行ったかな…」
キョロキョロと周囲を探したり、寝室などの目ぼしいところを見るも青い俺のスマホは見つからない。
「家に帰ってきた時は確かにあったから、家の中だろうけど」
コンとウカミはスマホを持っていない。
渡そうかとも提案したことはあるのだが、連絡なら心の声で届くし俺と離れることの方が少ないと持たない選択をした。
いつも一緒に居てくれることに凄く嬉しくてつい忘れていたが、こういう場合もあるか…後で2人にも探すのを手伝ってもらおう。
「それにしてもバケツプリン…今度それ用のバケツを買った方が良いよね」
うんと誰にともなく独り言を呟き勝手に納得していると…突然ガラッとお風呂場の扉が開く音。
次いで、ガッと勢い良く脱衣場の扉も開け放たれた。
「うわぁぁん!紳人、ウカミの奴が胸の大きさを自慢するのじゃあ!」
ぷるんっぷるんっ。
2つの可愛いプリンの上に…さくらんぼがッ…!?
体を拭いている最中に限界が来たのか、髪だけを僅かに濡らしたコンが裸のまま此方へ飛び出した。
泣き顔が可愛いとかもふもふはしっかりツヤツヤだとか思考が渦巻く中、俺は抱き付かれ潤んだ瞳を向けられる。
「ぐすっ…お主は、わしの胸が好きじゃよな…?」
「勿、論…大好きだよ」
言い淀んでしまったのは決して後ろめたいからではなく、そのあまりの可愛さと押し当てられたプリンの如き胸の感触に圧倒されてしまったから。
「コン!まだ髪を拭き終わって…まぁ♪」
「----」
どたぷんっ…。
バケツプリンが…2つ、だと…!?
タオルを両手に抱えているせいで、隠すべき胸を隠せていないウカミが見られたというのにくすっと妖艶に微笑む。
俺はその胸から目が離せず、しかしすぐにコンの瞳に引き寄せられる。
その金色に煌めく瞳は魔性の魅力を放ち、濡れる橙髪はコンの肌色とのコントラストでこの世のものとは思えない艶やかさと美しさを放ち。
瑞々しい桃色の唇は今にもキスしてしまいたいほど可愛らしく、俺の胸板に両手を当てて不安げに抱き締められる姿は誰にも見せたくないほどに男心を虜にして。
押し当てられる胸、髪のかかる鎖骨。扇情的なそれらは、俺が守ろうとしていた最後の一線を自ら破らせようと魂に囁きかける。
本能と恋心。そして理性など意味をなさない誘惑の飽和状態。
その時、俺の中で何かが弾けた。
「ブハッ…!」
「ぬぁっ!?紳人、これ紳人大丈夫か!?」
「あらあら…まだ弟くんには、刺激が強かったですね」
咄嗟に顔をコンから逸らし、あらぬ方向に鼻血を噴いてそのまま倒れ込む。
しゃがんで心配してくれるコンも、微笑むウカミも生まれたままの姿なのにその身を隠さない。
当然、彼女たちの神々しい体を目に焼き付けてしまうわけで…。
「我が生涯に、一片の悔いなし…」
「紳人死ぬなぁぁ!」
俺は安らかに、意識を失うのだった。その刹那…こう悟る。
ウカミ…また、俺とコンで遊んだね?と。
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