第20話
それもまた、日常なれば①
「んぅ〜!やっぱりプリンは素晴らしいのう!」
「良かったね、朝のデザートで食べられて」
「全くじゃあ…しかし、お主のプリンも貰って良かったのか?」
「構わないよ。コンが嬉しいと俺も嬉しいから」
「……愛いやつめ」
朝、いつも通り先に学校へ向かった宇賀御先生ことウカミ。
彼女を追うように後から2人で登校し、教室の席につくと幸せそうにコンが笑う。
今朝はいつものように純白の中で目覚めて、習慣となりつつある理性チャレンジを制しリビングへと顔を出した。
その時にはすっかりウカミの機嫌も直っており、プリンも解禁されたので2人には朝ごはんのデザートとしてお出ししたのだ。
お預けを食らっていた分、それはそれは美味しく感じたらしい。
あまりに幸せそうにたべるのでもっと見たいと思い自分の分のプリンも差し出した。
最初は恐る恐るだったが、一口食べたら笑顔の花が咲いたので本当に食べさせて良かった…。
「ところで、今週は数日でテスト返却は終わる筈じゃよな。ならば残りの二週間前後はどうするのじゃ?」
「良い質問ですね!といっても、基本的には授業の単位が足りていない教科や、教科書でやり残しのある教科がメインになる」
「……だから、4限の午前終わりの時間割になるんですよ!」
コンに今後のことを聞かれ、去年のことを思い返していると後ろから未子さんが二の句を継いでくれる。
「ほむほむ、なるほどのう…」
「ただ、このクラスの皆進級出来る単位は取っているので…今年は少し違うんですって」
「違う?具体的には?」
「うん。どうやら、赤点を取った人たちは…補習になるらしいです」
「何ィ!?」
補習!それは一度閉じ込められたらお許しを得るまで出ることを許されない魔の時間…!
「つまり…テスト返しまでは皆共通で、その点数次第じゃと補習という真面目な授業を受けねばならんのか」
「そういうことです、柑さん。とはいえ私たちは全員であんなに勉強しましたから、大丈夫ですよっ」
クラスメイトが少しずつ席に着き始めたので、注目されないよう声を落として教室の隅で会話を続ける。
「確かに。なら俺たちは心配ないね、コン、未子さん」
「うむ、そうじゃな」
「そうそう!補習担当の先生なんだけど…宇賀御先生だって」
「「……」」
その一言で、俺とコンの心は一つになった。
物凄く嫌な予感がする、と。
「いやでもまさかあの人がそんなこと…」
「じゃが彼奴、意外と悪戯好きじゃし…」
「流石に宇賀御先生でもそんなことしない!と、思うんだけどな…」
3人揃って顔を見合わせ、未子さんすらも徐々にその表情を曇らせていく。
ウカミならやりかねないな…良しも悪しも、俺の学校生活は平穏から離れつつあるし。
でも心配は要らない!点数も素行も問題ないのだ、副担任の一存で補習送りになど出来るはずが無い!
半ば自分に言い聞かせながら頷き、席に座り直す。
コンと未子さんも同様に座り、やがて教室に入ってきたのは…担任の梅野先生ではなく
副担任であるウカミだった。
「あれ?宇賀御先生、梅野先生は?」
悟が律儀に挙手して声を掛けると、先程までのニコニコ顔が一転悲しげに目を伏せて静かに口を開く。
「梅野先生は…」
重々しい雰囲気に自ずとクラス全員が押し黙る。
そして、たっぷり数秒ほど間を空けて…カラッと笑顔に戻った。
「お仕事を頑張ってらしたので、教師一同で旦那さんとご旅行に送り出しました♪」
清々しいほどの笑みに、なら何故悲しそうな顔を作った…!とツッコミを入れたくてしょうがない。
しかし此処でそうしたら負けな気がする、理由はないけど。
なので握り拳を机の下で震わせ気合いで堪えた。偉いぞ俺!
「……弟くん」
「え?どうしたの姉さん」
そんな中、突如として声を掛けられ少しビックリしてしまう。
今度はしゅんと眉尻を下げて寂しそうだ。
「お姉ちゃんに突っ込むのは弟くんって、夫婦漫才の常識ですよ?」
「姉だよね!?夫婦漫才は夫婦がやるものだよ!?」
この姉はいきなり言うんだからもう…お茶目さんっ⭐︎
「そうじゃそうじゃ!それを言うならわしが、婚…」
(コン!それは秘密…!)
「……コンが、適任じゃろうに!」
危うく俺とコンの本当の関係がバレるところだった。
コンと目を合わせてふぅとお互いナイスとばかりに息を吐く。しかし、俺たちは肝心なことを忘れていた。
「なるほどぉ…つまり、コンさんが弟くんと夫婦になりたいんですね?」
「ぅやっ!?」「っ!?」
予想外の返し刀に面食らい、顔を真っ赤にしたまま俺もコンも口ごもってしまう。
ニヤニヤと笑うウカミ、そして後ろから未子さんといつの間にか姿を見せているトコノメの意地悪な視線。
そして。
「……家族会議開いても良いですよ、先生。勿論この野郎の処罰が議題で…!!」
悟を始めとする男子の者共から向けられる血涙を流しそうなほどの睨み、そして女子からはコンへの憐みの視線。
「紳人くん…そんなことしない人だと思っていたのに、洗脳だなんて…!」
「でも何だかそれもゾクゾクするわ!」
このクラス、本当に大丈夫かな。
「姉さん、とりあえずHRと国語のテスト返却お願い…」
「は〜い。それじゃあ日直さん、お願いします」
「紳人!起立!くたばれ!」
「大往生!?」
しかも律儀に俺だけ立たせている。公開処刑もいいところだ。
「……紳人よ、今のは立たずとも良かったのではないか?」
「いや、その…つい」
コンが困惑した様子で立ち上がっている俺を見上げていた。
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