触れたくて、重ねたくて③
「良かった…!パパ、何処も痛いところ無い!?私のこと分かる?」
「勿論、健康そのものだよ。そしてお前は私の愛娘の真奈だ。でも、此処は…?私は確か、真奈と2人で買い出しに出ていたはず…」
涙を溢れさせる真奈ちゃんを抱き留めながらも周囲を見回し、目を丸くする心音さん。
先程の質問と合わせて、答えてあげるとしよう。
「何だかんだと言われたら!」
「「え!?」」
「答えてあげるが世の情け!…じゃなかろうが!?」
いけない、つい
「俺は神守紳人、この辺りに住むただの高校生です。そして彼女は」
「神守柑じゃ。よろしく頼むぞ?」
「ご丁寧にどうも、私は
「順を追ってお話しします」
嗣流さんが正気を失って娘さんを追いかけていたことから俺たちなら原因を突き止められることまでを、再度説明する。
「そんなことが…ごめんね、真奈。怖かったろう…辛かったろう?」
「確かに怖かったし辛かったけど、平気。パパが元に戻ってくれたから」
「そうか…」
「さて、コン。どうする?俺には2人の守護神が見えなかった。でも君なら」
「んにゃ…わしにも感じることだけじゃった。顔は見えなかったが、奴の感覚は覚えておる」
親子水入らずの時間を邪魔するのも忍びない、此方は(将来の)夫婦水入らずの時間を過ごすとしよう。
会話の内容は、この親子に関することだけど。
「となると…『神隔世』に行く?」
「ふむ、それは一理あるのう。じゃがあそこもこの世と同じくらい広い…アマ様に手伝ってもらえれば早いじゃろうが、今は忙しかろうて」
「そっか…でもその様子だと、打つ手はあるってことか」
腕を組み耳を揺らすコンの表情は、可愛らしく得意げだ。
俺の反応がお気に召したのかふふんと鼻を鳴らすと、和やかに話す心音親子をキザに指差してこう言った。
「此奴らの家に行く。それで恐らく、全ての片は着くじゃろう」
「そうなの!?そんな単純な話かな…?」
「単純なんじゃ。それと、これはわしの勘じゃが…恐らくもう殆ど事態は収まっておるよ」
焦りを見せないどころか、周囲の俺たちすら落ち着くほどの余裕を見せるコン。
彼女がそう言うのであれば、きっと大丈夫だ。そう思って頷くと嗣流さんたちに向き直る。
「嗣流さん、真奈ちゃん。いきなりで怪しいのは分かっているつもりだけど、お家の方にお邪魔させて貰っても良いでしょうか。特に…」
言いながら、俺もコンの考えていることが分かる程度に状況が整理されていく。
今回の謎は2つ。
何故嗣流さんは急に正気を失ったのか、そして2人を守るはずの守護神たちはどうしたのか。
なるほど…確かにこれらを纏めて解決するなら、それが1番手っ取り早い。
理由は追々話すとして。
とりあえず、向かう先は。
「真奈ちゃん、君の部屋にね」
「私の…?」
「もし俺のような男が入るのが不安なら…柑、任せても良いかい」
「うんむ。わしとしてはもう害はなかろうし、放っておいても良いが…お主の気が晴れんじゃろう」
頼られるのが嬉しいと思ってくれているのか、コンがくすぐったそうに微笑む。
その可愛さに今日も幸せをもらっていると…嗣流さんが、何事かを考えるようにゆっくりと瞬きをして頷いた。
「分かりました。お2人が悪い人ではないのは娘の態度からも分かりますし、何よりそのお顔」
「顔…?」
優しい笑顔を浮かべるのは貴方では…?と思いつつ、コンと同時に見つめ合う。
コンの方も金色の瞳を丸くして、ただ俺の目を一点に見つめ返している。
「えぇ。2人の微笑みが…妻を見ている時の私にそっくりなんです」
「それは、つまり…」
嗣流さんの言うところを察し、全部を言い終える前に俺とコンは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「……ふぅ〜ん?」
それを見て、何故か真奈ちゃんは目を細めてニヤニヤと笑う。
「と、兎も角じゃ!心音宅に向かうが…その前にちっとばかし、まじないでもかけるとしよう」
「まじない?柑ちゃんってそんなこともできるの?」
真っ赤だった顔は瞬きの間に凛としたものになり、集中するように目を細めながら両手を小さく広げる。
そんなコンと俺の顔を見比べながら、真奈ちゃんが不思議そうに聞いてきたのでちょっとだけ意地悪を含めてウィンク混じりに返した。
「そりゃあ…柑は俺の、神様だから」
「?」
「ほれっ!」
案の定、何のことかいまいち要領を得ないとばかりに小首を傾げる。
その様子が可笑しくてくすくすと笑うと、ポン!と可愛らしい音と共にコンが柏手を打つ。
この柏手は、コンが力を使う時の合図だ。
「おや、何だか」
「あったかい?」
「これは…」
鳴り響いた柏手に反応するように、少し肌寒かった空気が温まっていく。
まるで…コンに包まれているかのように。
コンが行使したこれは確かに温かいが、きっと防寒対策のものではないだろう。コンを感じているのは俺だけのはずだ。
「柑ちゃん凄いね…どうやったの?」
「秘密じゃよ。ほれ、早う向かうとしよう。買い出しというからには、待つものがおるのではないか?」
「あっ、いけない!忘れてた…!」
「近所のスーパーに行くだけだったからスマホも置いたままだね…これは、心配させてるかもしれない」
コンも案の定、人差し指を振って誤魔化す。
そして今度は訊ね返し2人は買い出しの帰りであったことを、俺も含めて漸く思い出した。
「じゃあ、スーパーに寄ってから向かいましょうか。ご飯が無くなるのは大変ですし。コンのこれは、それまで保つ?」
「無論じゃ。逃げられては面倒故な…奴らと向かい合うまではしっかりと保たせよう」
頼んだよとコンの頭を撫でる様を、心音親子は微笑ましそうに眺めているのだった。
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