触れたくて、重ねたくて②

「ふむ…つまり、買い物帰りに突如父親が豹変して襲いかかってきたわけじゃな?」

「うん、そうなの」


恐らくコンのことを同年代の女の子だと思ってるらしい心音ちゃんは、砕けた口調で頷いた。


まぁ俺以外コンの耳と尻尾は見えないからそれも仕方ないよね。


それはさておき、普段優しい父親がいきなり我を忘れて襲いかかってきたというのが気になる。


ストレスでご乱心するような家庭でも無さそうだし、考えられるとしたら…


『何らかの神の影響を受けておる』


「そういうことだよなぁ…またアマツのようなまつろわぬ神?それともアマツ自身が封印から脱出して?」

「いや、そのどちらでも無い。この感覚…結果として邪な形になったが、悪意を持つ者では無さそうじゃ」

「なるほど…」


善意、或いは純粋にお父さんへ力を行使した結果悪影響を及ぼしてしまったってことか。


2人の守護神にも話を聞きたかったんだけど、目を凝らしても見えて来ない。


俺の神様の視認能力が落ちたのでなければ、今2人の側に守護神がいないことになるけど…。


「あの〜」

「「ん?」」


コンと2人で頭を悩ませていると、その横から控えめに声をかけられた。その主は勿論、心音ちゃんだ。


「神守さん、何のお話をしてるんですか…?」

「えっ?あ…ごめんね心音ちゃん、いつもの癖でつい」

「真奈で良いですよ、お兄さん」

「兄…悪くないな」


申し訳なさそうにしゅんとする真奈ちゃんに笑いかけると、かいつまんで事情を説明する。


俺たち人間には其々守護神という神様が居ること、それとは別にまつろわぬ神という悪い神様がいること。


でも今回は其方は関係なく善良な神の力による誤作動のようなものである可能性が高いこと。


まだ中学生には難しいかな…と思ったら、しっかり真奈ちゃんは理解してくれたらしい。


「お父さんは悪くなくて、そして神様も悪気があって怖いことをさせた訳じゃないんですよね?」

「…凄いのう、紳人に迫る理解力の速さじゃ。数年後には大人も顔負けになっておるやもしれぬ」


状況を飲み込むのがとても上手い。将来有望とは彼女のことを指すのだろう。


「お兄さんの説明が上手いからですよっ。それと、えっと…」

「そういえば名乗り忘れておったな、わしは神守柑じゃ」

「柑ちゃんも優しいから!」

「そうかそうか…嬉しいのう♪」


優しげな笑顔でこくこくと頷くコン。


その笑顔に癒されながら、ひとまず話を続けることにした。


「神様絡みとなると、俺たちの出番だ」

「なら、私もお手伝いしますっ!」

「気持ちは凄く嬉しいけど、神様は本来見えないんだ。俺とコンは訳あって見えるけれど、そういうことだから…」

「……」


彼女の想いを仕方ないとはいえ、断らざるを得ないことにチクリと心が痛む。


心を鬼にして断ろうとしたが…物分かりが良い故に、でもと言えずに真奈ちゃんは俯いてしまった。


こうされると弱いんだよね…。それに、まだ守護神が原因と決まった訳ではない。


一呼吸置いて思案し、切り替えるように頷くとポンとその頭に手を乗せて微笑みを見せる。


「それじゃあ真奈ちゃんにも手伝ってもらおうかな。目が覚めた時のお父さんの体調次第では、ちゃんと一緒に帰るんだよ?」

「!はい、絶対!」

「やれやれ…お主はちと優しすぎではないか?それに撫でるならわしの頭を撫でぬか!」

「ごめんごめん、柑」


真奈ちゃんから手を離し、反対の手でさわ…さわ…と優しくコンの頭を撫でるとへにゃりと可愛らしく破顔させていく。


その愛らしさに暫し撫で続けていたが…ふと、隣から視線が注がれる。


「えっと…どうしたの?」

「いえ…何でも…」


俺の顔を見ていたのを、言われて気付いたらしく小首を傾げながら真奈ちゃんは横に振った。


此方としても不思議なので、目を丸くしていると…モゾ、と心音さんが体を動かしゆっくりと起き上がる。


「い、たた…何だかおでこが熱い…?」

「パパ!」

「おぉ、真奈!おや、此処は…それにこの方たちは…?」


額を押さえながら起き上がった父親に、目を潤ませて真奈ちゃんは飛び付いた。


それを見て、俺とコンは顔を見合わせ微苦笑と安堵が入り混じった笑みを交わす。

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