情けなら、誰が為に④

「つっっっかれたあ…中々の仕事量だったね、皆もお疲れ様」


晩御飯の準備も終え、無事に今日1日の手伝いを終えると這う這うの体で自室へと戻った。


制服はちゃんと着替えて返却済みだ。


今は私服に戻っているけれど…早めに汗を流して、温泉でゆっくり休みたい。


「紳人もよく頑張ったのう。この後背中流してやろうか?」

「本当?それじゃあお願い…」

「私も弟くんを労います!」

「あたしもいい子いい子してあげる約束してるし!」

「……しようかと思ったけど、今日は1人でゆっくり入ろうかな」

「くぉらぁ!お前たちのせいでわしまで一緒に入れなくなったではないかあ!!」

「「きゃ〜♪」」


コンとゆったり温泉…と思ったが、流石に2人も乱入してくるとあっては首を縦に振れない。


ガァ!と目くじらを立ててコンが叱ると、はしゃぐような声を上げながら身を寄せ合う。楽しそうで何より。


「それじゃあ、俺は温泉入ってくるから皆も自由にゆっくりしてて〜」

「んむ。お主もの〜」


立ち上がってひらひらと手を振り、コンたち3人の見送りを受けながら温泉へと向かった。


〜〜〜〜〜


「ふぅ…この季節の温泉は、気持ち良いな」


しっかりと髪と体を洗い汗や汚れを落としてから、頭に手拭いを乗せて誰もいない温泉に1人で浸かる。


団体客はご飯の準備中に温泉に入り終えているので、今日はもう気兼ねなく入れるのだ。


男湯は露天風呂なのだが、竹で出来た仕切りもあるので恐らく女湯もそうなのだろう。


星が綺麗だし肌寒い空気が良い感じに温泉の火照りを冷ましてくれる。最適のロケーションだ。


欲を言うなら… 、


「コンと一緒に入りたかったな…」

「ふふっそうじゃろうそうじゃろう、お主はそういう奴じゃ」

「わぁ!?ここ男湯だよコン!?」


ポソッと呟くとむぎゅっと誰かに後ろから抱き締められた。


誰か、とは言うまでもなくコンである。


というより、この背中に当たる膨らみの柔らかさ…普段より鮮明に感じるんだけど。


つまり…これって…!


「コン、まさか君…今!」

「んむ?無論裸じゃよ。こういう場でタオルを付けるのはマナー違反よな」

「そうだけどそうじゃない!」


とはいえ、俺の理性が問題なだけであってマナーや常識としてはコンの言うことは何も間違っていない。


なので強く言えず、かといって今振り向いたり腰を上げるのも躊躇う。


すると、不意にコンが離れて代わりに隣にちゃぷんっと入浴した。


「ん〜…♪これは、気持ち良いのう。体が解れていくようじゃ」

「そう、だね…サッパリするよね」


両手を組んで大きく伸びをするコンをチラリと盗み見る。


お湯が華奢な細腕を艶かしく伝い、やがてその腋を滑り鎖骨へと落ちていく。


未知の引力に引かれるみたいに視線を落とすと、そこにはお湯越しに揺らめくコンの胸が。


このまま見ていたいけど、盗み見るのも失礼だよね…あぁでもどうしても目が離せない!


「くふっ」

「っ!?」


理性と欲望の狭間でせめぎ合っていると、コンが瞳を細めて妖艶な眼差しで微笑む。


そして、ちゃぷ…と小さな音を立てながら俺に詰め寄り肩に手を乗せて来ながら囁いた。


「……すけべな旦那様も、わしは好きじゃよ?」

「-----」


あまりの色っぽさと愛しさに、ボンッ!と頭が弾けて真っ白になってしまう。


ポーッとのぼせてしまったように惚ける俺の頰に手を添えて、コンは顔を近付け…。


「----弟くん!背中を流しに来ましたよ!」

「いい子の神守くんは何処かな〜!?」

「うゃっ!?」

「…ハッ!」


危ない、確実に今我を忘れていた。


あのままだったら俺はコンと裸の付き合い(意味深)をしていたことは間違いない。


まぁ助かったというより、事案を問題が上書きした感じなんだけれど。


「もう、コンったら私たちをおいて1人だけ弟くんと入るなんて抜け駆けですよ?」

「わしの紳人なんじゃから抜け駆けもなかろうが!」

「ちょっとくらい、あたしたちにつまみ食いさせてくれても…」

「そのちょっとで全部食べるじゃろ!?」


ペタ、ペタ…と軽やかな足音が背後から響く中一度深呼吸して落ち着くと、2人に振り向きツッコミを入れるコンに話しかけた。


「コン」

「紳人?」

「…2人は、

「…逆に聞いてすまぬが、付けてると思うかの?」

「何で揃いも揃ってバスタオルを付けてくれないんだぁぁぁ!」


頭を両手で抱えてバシャバシャと暴れる。


「ん〜…じゃがのう紳人」

「何さ!」

「温泉に」

「バスタオルは」

「浸けるのは良くないよ?」

「分かってるけどね!?でもさほら、俺も一応男の子だし皆は女の子なんだからこう…恥じらいとか体裁とかさ!」


完全に今背後にウカミとクメトリが立っているのが気配で分かる。


その上、コンも隣から囁いてくるからもう両手で顔を隠す他ない。


その中で何とか今だけでも3人にバスタオルを付けてもらおうと、必死で説得を試みる。


「わしは…紳人になら見て欲しいのう?」

「私は神様なので」

「あたしも!」

「ヌゥゥゥゥ…」


誰1神として恥じらいがない。


厳密にはコンは恥じらっているだろうが、抵抗は無いから余計に性質たちが悪いのだ。


どうする?この状況でコン以外の…いやもうこの際理性を飛ばしかねないコンの裸も見ずに脱出するには、どうすれば良い!


考えろ、考えるんだ…ほら段々体がゆらゆらしてきて体が軽く…、


「ぶくぶくぶく」

「あぁ!神守くんがのぼせて浮かんじゃった!?」

「揶揄いすぎましたね…」

「わしは冗談ではなかったんじゃが…」


結局俺が意識を取り戻したのは温泉から上がった後で、目覚めた時には風鈴の音を聞きながらコンに膝枕をされていた。


夜風も程良く当たっていてとても涼しかったことは、思い出として深く刻み込まれたことだろう。

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