情けなら、誰が為に②
「有り難え、恩に着る!」
「具体的には何をすれば良い?」
「料理を作るのはこっちで何とかする。紳人たちは頃合いを見て配膳と下膳を頼みたい!」
「よし!コンは歩いて良いからね!俺たちは小走りで運ぼう!」
「うん!」「はい!」
「何故じゃ!?」
タタタタ…朝なのであくまで騒がしくならぬよう足音に気をつけながら、控え室へ急ぐ。
コンは以前と比べたら大分しっかりして来たが、未だにうっかりすることもあるのだ。
食事を一皿一皿ではなくお盆に乗せて運ぼうものなら、ひっくり返す可能性が高い。
なので、コンは慎重に動いてもらって良いだろう。大事なのは早さではなく、丁寧さなのだから。
「むぅ…まぁ良かろう。して、これに着替えれば良いのじゃな?」
「あぁ!着替えが出来たら厨房に来てくれ!」
控え室に通され着替えの制服を手にすると、慌ただしくマノトは厨房の方へと消えていった。
「それじゃあ、俺は外でパパッと着替えるから皆は…」
「何を言う。気にせずこの場で着替えれば良いではないか」
「へっ?でも…」
「そうですよ、その方が効率的です!」
「いやですから!」
「照れ屋さんだねぇ神守くん」
「クメトリは揶揄ってるよね!?」
とはいえ、団体というからには4人や5人ではないだろう。
少しでも早く配膳しなければ間に合わないかもしれない。
……迷ってる場合じゃないか。
「速攻で着替える!」
皆に背中を向けて着替えれば問題ないはず…!
意を決して寝間着を脱いで肌着を露出させ、寒さに小さく震えながら制服に手をかけた。
「紳人」
「ん?」
「ほれっ♪」
「んガッ!?」
抱えていた自分のパジャマをはらりと落とし、純白の下着姿を晒け出す。
華奢な肩に可憐な鎖骨や胸元、綺麗なお腹や髪に形の良い腰周りと足は息を呑むほどに見惚れてしまう。
って、そうじゃない!
「こ、コン!風邪引いちゃうから早く着替えて!」
「神が風邪を引くわけ無いじゃろ?」
「だとしても!」
「しょうがないのう…」
両手で目を隠しモゾモゾとコンが着替える音が聞こえてから、深い息を吐きながら手を退かした。
「弟くん」「神守くん」
「何ですか?生憎今顔を向けるわけにはいかなくてですね!」
上の制服に袖を通して残すは下のみ。
その時、背後からウカミとクメトリが同時に俺を呼ぶ。
絶対に振り向かない、此処で振り向けば思う壺!振り向けば見ようとしたと言われ、揶揄われるのは目に見えているっ…!
「……紳人、わし…何だか寒いのじゃ」
「ほら、言わんこっちゃない。何かあったかいものがあれば良いんだけど…」
「あるではないか、ほれ」
「っ!?」
しおらしく俺を呼ぶコンに微苦笑しながら答えると、不意に背中にふにゅん…と柔らかなものが押し付けられた。
これは…紛れもなく…!?
「コン!その、胸が当たって…!」
「「「ばぁ♪」」」
「ヌガァァァァ!!」
反射的に後ろを振り向いてしまい、ウカミの黒い下着姿と魅惑の肢体、クメトリの桃色の下着姿と艶やかな肢体、コンの純白の下着姿と心奪われる肢体が一目に襲い来る。
更に全員が前屈みになり、余計に誘惑してくる始末だ。
あまりの刺激の強さに耐え切れず、俺はもんどり打って倒れ込んでしまう。
悲しいことにどれほど目を塞ぎ忘れようとしても、その光景は鮮烈に焼き付いて褪せることはない。
特にコンの前傾姿勢は可愛い膨らみと程良く肉のついたボディラインを際立たせ、理性をガンガンと殴ってくるのだ。
『お〜い大丈夫か〜?大方紳人で遊んでるんだろうが、早めに来てくれると助かるぞ〜』
「は〜い、今行きますね〜。ほら弟くん、横になるのは一仕事終えてからですよ」
「頑張って神守くん!いっぱいいい子いい子してあげるから」
「それはわしの役目じゃ!行くぞ紳人よ!」
誰のせいでこんなことになってると、とは言えなかった。
心の何処かで役得と思っている、ちゃっかり者の自分が居たから。
〜〜〜〜〜
「ふぅ…何とか間に合ったな。ひとまずお疲れさん!後はお客さん達が来てからだ!」
全員で連携して大広間に食事を並べ終える。その数何と20人、団体として立派な人数だ。
マノトが笑顔で頷いたところで、全員が肩の力を抜いて一息入れる。
「この後は大広間をうちの従業員とウカミたちで頼む。俺と紳人がその間に荷物を運ぶ、それで良いか?」
「分かりました、任せてください!」
「もうひと頑張りだね!」
「紳人、怪我をせんようにの」
「ありがとう。コンの方も気を付けて」
全員で入り口に向かい、整列すると同時にバスがゆっくりと敷地内に入ってきた。
ゾロゾロと人が降りてきて、荷物を玄関の端に受け取りながら挨拶を交わす。
先頭の人が大広間へ案内されると、後を追うようにお客さんが付いていくのだが。
「……ん?」
ふと、一組の若い男女に目が留まる。
気まずそうにお互い顔を合わせないのに、付かず離れずで寄り添い合って歩く。
時折、相手の方を盗み見て。
奇妙な違和感を抱かせる2人が大広間に案内され消えていく中、ずっとその背中を見送るように眺めていた。
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