縁日は結ぶ、人知れず神知れず④

『これより、15分間の休憩になります。その後は----』


あれから20分程疎らに花火が打ち上がり、休憩時間が訪れる。


「コン、帰って残りは旅館で皆と見ようか」

「そうじゃな。折角の花火、皆で見るのも良かろう」


より良いスポットを探して人々が動き始める中、俺とコンは寄り添ったまま真っ直ぐに帰路に着くことに。


「次の祭りは…夏辺りかのう?」

「夏になれば我が家の近くでも色々お祭りがある。どれも、2人で行きたいね」

「うむ、約束じゃ」


すりすりと頬擦りしてくる可愛い神様に心奪われながら、ゆっくりと歩く。


「あの場ではやや暑かったのに、ちょっと離れただけで肌寒く感じるのう…」

「風邪引かないようにこのままくっついとく?」

「それが良い!わしにとっても…お主にとっても、な?」


ぎゅっとより強く俺の腕を抱きしめるコン。


図星を突かれ伝わる熱を感じつつも、目を逸らして誤魔化すしかない。


とっぷりと日が暮れた畦道を並んで歩き、暫し無言で互いの足音だけに耳を傾ける。


無論明かりもあるし遠くには祭囃子も聞こえるけれど…少しロマンチックすぎるだろうか、まるで世界に2人だけになったかのようだ。


「何ぞ、世界にわしと紳人だけになったかのようじゃな?」

「あっ。それ俺も思ってた」

「おぉ!奇遇じゃのう」

「うん…こういうの、嬉しいなあ」

「うむうむ、心が温かくなるのじゃ」


何てことない、当たり前の雑談。


燃え上がるような興奮ではないけれど、陽だまりのような温もりが心の中で湧き上がる。


…こういう時間も愛おしい。


俺たちには沢山時間がある。それがあっという間だとしても。


「戻ってきたね〜」

「浴衣は何処で返せば良いのかの?」


返却場所も特に見当たらない。仕方がないので、このまま部屋へと戻ることに。


「おかえりなさい。弟くん、コン」

「おかえり〜!お祭り楽しかった?」

「ただいま。ウカミ、クメトリ」

「ただいまじゃ!とても良い時間じゃったぞ」


ゆらりと体を揺らし、首から下げた玩具の指輪を見せつけるコン。


ついさっきのこととはいえ我ながら大胆なことをしたものである。


少し恥ずかしいな…後悔は無いけれど。


「あら、その指輪は…」

「ふっふっふ。これはじゃな?」


チラリと俺の方を見てくる。これは多分…。


「俺から、婚約しようって言ったんです。これは玩具ですがせめて形にしたくって」

「そうなんですね!おめでとうございます✨」

「あの時の神守くん、格好良かったな〜!」

「うむ!わしの心も射抜かれて…んむ?」

「あっ」


コンが違和感に気付くと同時に俺もおや?となる。


クメトリの今の言い方、まるで…俺とコンを『ずっと見ていた言い方』だ。


じーっとコンとクメトリの顔を見ると、ダラダラと冷や汗を垂らしてピュ〜…と口笛を吹いて誤魔化そうとした。


次いでウカミを見る。


白銀の耳と尻尾を余裕を持ってゆらめかせ、笑顔のまま小首を傾げる姿からはとてもボロを出すようには思えない。


……これはコンに後であげようと、こっそり買っていたのだが背に腹は代えられないか。


「実は、先程屋台でプリン飴を一本買っていたのですが…」

「何じゃと!?」

「本当ですか!実は食べたかったんですよね、流石は弟くん!」

「……姉さん?」

「あ…」


ウカミより早く食い付いたコンに驚くが、とりあえず…真実はハッキリした。


「……付いてきてたんですね?」

「「……はい」」

「おぉ…紳人がウカミを正座させておる…」


ウカミとクメトリをその場で正座させ、問い詰めると観念したように頷いた。


「やれやれ、何処から見ていたんです?」

「それはですね、綿飴を食べているところから…」

「最初からではないか!?」


隣で聞いていたコンが目を丸くして驚く。


しかし、それも無理はない。2人きりだとあれこれしていたのを見られていたのだから。


正直俺はかなり恥ずかしい。けれどまぁ…怒ることでもないだろう。


見られていたことは恥ずかしいけれど、2人は茶々を入れず最後まで見守っていてくれた訳で。


仕方ない…許してあげよう。


「ほう…そうかそうか」


だがコンが許すかな!?


「だってだって!コンと弟くんのデート、見たかったんですもの!」

「許してよコンちゃん〜」

「むぅ…。紳人はもう許してるのじゃろう?」

「うん。ウカミとクメトリなら良いかなって」

「全く…お主というやつは、優しすぎぬか?」


そうだろうか。月並みだとは思うけど…ってあれ?こんな会話前にもしたっけ?


腕を組んで尻尾をブンブン揺らして怒って見せていたコンも、はぁとため息をついて脱力すると肩を竦めて笑った。


「しょうがないのう。他ならぬ紳人が許しておるのに、わしだけ怒るのも神らしくない」

「では!」

「このプリン飴はわしが食べる、それで許してやるのじゃ」

「そ、それは…」

「はい喜んで!どうぞどうぞ!」

「あぁクメトリさん!?そんな、そんな殺生な!」


渋るウカミを抑えクメトリさんがしきりに頷く。


ジタバタと抵抗するウカミを他所に、目の前でこれでもかと味わって食べるコン。


初めて、ウカミが此処まで狼狽える姿を見た。


コンとウカミのプリン好きは本物だな…明日帰りもやってたら、買ってあげよう。


そう思いながら3人のドタバタを眺め、くすっと笑みが漏れた。


因みに、3分の1程だけウカミもプリン飴を食べさせてもらえた。


クメトリも食べたかったようだが、ウカミが一口で食べるのでしゅんと肩を落とす。


なので明日買ってあげるからと励ましたらクメトリは満面の笑みで喜び、何故かコンとウカミには鋭い視線を向けられた。


……プリン飴、食べたいのかな?

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