縁日は結ぶ、人知れず神知れず③

「それは勿論!じゃが、何故急に…?」

「うん。いつかはちゃんと言おうって思ってたけど…言いたいことは言える内に言うべきだって、マノトが教えてくれたから」


マノトの話の結末に至るまで、数十年あっただろう。


つまり俺とコンが死に別れるその時は俺が考えているより、ずっとずっと先の話だ。


けれど。これは俺の中の時間の話。


コンからしたら何回の瞬きの間に過ぎ去ってしまうのか。


そう考えた時、婚約することが真っ先に頭に浮かんだ。


あっという間に日々が過ぎゆくなら1日1日を大切にするだけじゃなく、約束することも時間を伸ばすことに繋がると思ったから。


約束があればその日まであと何日と指折り数え、待ち詫びることすら楽しく思えるだろう。


……まぁ結局1番の理由は、俺がコンへの恋慕を抑えきれず思わず言ってしまったってことなんだけど。


「想い合う2人の死別、それは想像を絶するほどに凄く悲しいことだ。俺の場合は君が黄泉でさえ迎えに来てくれるって言ったけれど、だからって今この時を蔑ろにする理由にはならない。


尚更、1秒1秒を大切にしなきゃね。未来の自分に上書きされないように」


ほんの少し肌寒いそよ風に木々が擦れる音をBGMに、俺の告白は終わりを告げる。


一言一句聞き漏らすまいと耳をピンと立て、自分の胸にギュッと抱き寄せた指輪を見つめたコンは、可笑しいとばかりに小さく吹き出して笑った。


「……流石のわしも未来の自分に嫉妬したことはなかった。じゃが、これからは嫉妬してしまうな。


結婚したらこれほどに幸せな今よりももっと幸せになるなど、羨ましくて仕方ない」


その笑顔のままとずっと俺に顔を埋めたコン。


耳が伏せられているのに気付き、よしよしと髪が乱れぬようその頭を撫でる。


「今日よりも明日の俺たちはもっと幸せになるんだ。だから、それに負けないよう今を目一杯楽しもう」

「うむ!では早速祭りを楽しむとするか、未来の旦那様よ」

「仰せのままに、未来の俺の妻さん」


お揃いのエンゲージリングを首から下げ、離れないよう固く恋人繋ぎをしながら再び光の中へと歩き出した。


〜〜〜〜〜


「りんご飴や金平糖、じゃがバター…どれも美味しかったのじゃ。しかしまさか…」

「あぁ…まさか、プリン飴なんてものがあるとは思わなかったね」


俺が知らないだけでプリンは全国的に大人気なのかな。


最初屋台の幟を見た時は目を疑ったが、コンが目の色を変えて飛び付くので気のせいでは無かったようだ。


試しに一本購入してみると、りんご飴のように丸いプリンが棒の先に付いていた。


丁寧に上の方にはキャラメルソースを掛け、プリンに似せられて。


「味はプリン風ではあったが、これはこれで良かったのう」

「定期的に食べたくなる味だった…夏にまた食べられるかな」

「今から楽しみじゃな!」

「あぁ。一緒に行こうね、コン」

「勿論じゃよ、紳人」


橙色の髪と狐の耳と尻尾を揺らし、浴衣姿で微笑む。


その可愛さにフッと微笑みが浮かぶと周囲がざわつき始めた。


『花火だ!ドカンと来るぞ〜!』


男性客が夜空を指差すと、今まさに夜空に光が落ちていく瞬間だった。


帯が暗闇に吸い込まれて一拍。


「おぉ…!」


金と緑、赤の色鮮やかな花火が咲いて一呼吸おいてドーン……!と空気が弾ける音が響いた。


隣で見上げるコンの瞳もキラキラと輝き、その横顔が綺麗に彩られる。


「……綺麗だ」

「うむ、とても綺麗じゃ…!」


小さく漏れ出てしまった本音だが、コンは花火に見惚れており幸か不幸か違う伝わり方をしたようだ。


ほんの少し寂しい気持ちになりつつ誤魔化すように夜空を見上げると、丁度良く2発目の花火が弾けた。


今度は先程よりも大きな大輪の花火が咲き、その美しさに感嘆の息が溢れる。


「ふふっ…本当に綺麗じゃな」

「2発目なのに、凄いよね…え?」


コンの言葉に相槌を打ち不意に隣を見ると、その花火よりも煌めく瞳は真っ直ぐに俺を捉えていた。


くすっと微笑み俺の顔を覗き込むコンが意図することに気付き、みるみるうちに顔が熱くなっていく。


「すっごく、綺麗じゃ。ずっと見つめていたいの」

「……気付いてたんだ」


顔を隠すように片手を頭に乗せると、コンは花火よりも素敵な笑顔を浮かべ、ぴっとり俺との腕にもたれかかるのだった。


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