第17話
縁日は結ぶ、人知れず神知れず①
「さて。此処からははぐれたら大変だ。コン、そのまま俺から離れないでね」
「死んでも離さぬよ」
コンが言うと説得力があるな…と微苦笑しながら、縁日の会場である神社に辿り着く。
こんな季節でも、浴衣に袖を通した人が殆ど。通常であれば寒いはずだけど此処は比較的暖かい。
その為、浴衣+下駄の俺たちでさえ寒くはないのである。天候にも季節にも恵まれたようだ。
「まずは食べたいものとかある?宿代が想定していたより大分安くなったから、懐はかなり余裕だよ」
「ふぅむ…ではまず、綿飴を食べたいのう!一緒に一つを分けようではないか」
「よし来た」
縁日の入り口に丁度綿飴の屋台がある。そこへ立ち寄り、店主から綿飴を一つ買って袋から取り出した。
割り箸を軸に綿飴が作られているタイプでそれを俺が持ち、コンの口の前に差し出す。
「あ〜むっ!ん〜、甘くて美味しいのじゃぁ♪」
可愛らしく口を開けてぱくんっと綿飴を頬張り、尻尾をパタパタと揺らして舌鼓を打つのが何とも可愛らしい。
俺も綿飴を一口齧る。ふわふわとした食感に、甘いザラメが美味しい。
「美味しいね、コン」
「じゃろ?これは早速当たりじゃな」
くすくすと微笑むコンと綿飴越しに笑い合う。
周りの人が行き交う中橙色のランタンの下で過ごす時間が、どうしようもなく好きだと思った。
このまま、時が止まれば良いのに。
こんなことを言ったらコンは笑うかな、呆れるかな。
そのどちらでも嬉しく思えてしまうのは、惚れた弱みだろう。
「次は…あれじゃ!やはりたこ焼きは外せなかろう!」
「分かった!」
ペロリと2人で綿飴を平らげると、間髪入れず目を輝かせたコンがビシッとたこ焼きの屋台を指差した。
祭りが始まったばかりなのか時間をかけず買うことに成功。
そして往来の邪魔にならぬよう、道の外れに寄って石レンガの上に座る。
勿論、コンは俺の膝の上に。
「ふ〜…ふ〜…。はい、あ〜ん」
「あ〜ん…」
口の中を火傷したら大変だ。しっかりと数回たこ焼きに息をかけ冷やしてから、コンの口の前に差し出す。
小さな口を大きく開けて、たこ焼きを頬張る。
中がまだ熱かったらしくはふっはふっと口の中で転がし、こくりと喉を鳴らして飲み込んだコン。
ほう…と吐息を吐いて余韻に浸り、ぺろりと舌なめずりしてから俺の方を振り向いて笑った。
「美味いぞ、紳人!この歯応えやソースがたまらんのじゃ…」
「へぇ、どれどれ?」
爪楊枝を再度たこ焼きに突き立て頬張ろうと持ち上げた時、はしっと取り上げられた。
髪が触れないよう自身の尻尾で押さえながらふー…と妖艶に吐息を当てて、「ほれ、あーんじゃよ」とコンがたこ焼きを俺の口の前に持ってくる。
一連の所作に魅せられ、惚けていた俺は慌ててパクッと咥え噛み締めてしまった。
そうなると当然…、
「あふっあふ!は〜〜…!」
「これこれ、そんな慌てんでもたこ焼きは逃げぬ。可愛いやつめ」
熱々のたこ焼きが口で広がり、てんてこまいになる俺をコンはふふっと綺麗に笑う。
ごくんっと一息に飲み込み、深呼吸して口と喉を冷やしていると…此方を見つめる金色の瞳と目が合った。
往来に背を向けるように座っている為、俺とコンは人目に付かない。加えて屋台の灯りや人並みで紛れている。
コンは瞳を細めて慈愛に満ちた笑みを浮かべ、ゆっくり片手を俺の頰に当てた。
ドクン、ドクン…鼓動が高鳴る中それを無視して俺もコンの腰に手を回す。
「……君が好きだ。大好きだ、コン」
「わしも紳人のこと…大好きじゃ」
忘れないように、忘れられないように刻んでいこう。
心臓の鼓動が…秒針を刻むように思えて。
時計の針が重なるように、俺とコンは人知れず唇を重ね合わせた。
-----5秒くらい、だろうか。
針は重なれば離れるのみ。名残惜しげに数回に分けて唇を離す。
瞼を開けると、コンも同じタイミングで瞼を開けたらしい。
大きな瞳が開く様を見ることが出来て、その可愛さについ頬が緩んでしまった。
コンは目敏く見つけ、頬を赤く染めつつもしゅる…と俺の腰に尻尾を巻き付ける。
「お主になら…どんなわしでも見ていて欲しいのじゃ。恥ずかしいのも、悪くないからのう」
どうやら照れ隠しだったらしい。何処まで愛おしいのか、俺の神様は。
そんな神様と恋人である幸せを今一度噛み締めながら、頭を撫でられてへにゃりと笑うコンを見つめ続けるのだった。
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