憑くは神、行き着くは人②

「何々、あたしに会いに来てくれたの?嬉しいなあ〜」

「違っ………くもないけど!今日はウカミが昔馴染みの友人に挨拶したいってことでコンと一緒にお供させてもらったんだ」


このこの〜と指で頬をつついてくるクメトリに否定しかけて何とか飲み込む。


本当に此処に居ると知らなかったとはいえ、真っ向から違うと否定するのも可哀想だ。


前回のこともあり、いつかは再会して話をしたいと思っていたから丁度良いからね。


「なるほど。確かにここの主は神様だし、あたしも事情を話して一部屋借りて拠点にさせてもらってるから、只者ではないと思ってたよ」

「例の件はどう?問題とか起きてない?」

「やっぱり一つの街の中だけでも伝えられなかったこととか言えないことを抱えてる人間、いっぱい居るみたい。その手助けを出来るのって、嬉しいね」


どうやら『贖罪』の旅は順調らしい。


本人がそれで喜びややり甲斐を感じているなら、何よりだろう。


しかも津々浦々全国各地を行脚して。


クメトリは『神隔世』に居場所が無いらしく、それを見かねたウカミが罪滅ぼしと称してその役目を任せたのだ。


「……ところで」

「ん?」

「君は変わらず優しいね。さっき、あたしのこと傷つけないように気を遣ったでしょ」

「……気付いてるなら、秘めている優しさも欲しかったな」

「そういう素直な反応をする、神守くんが悪い」


悪戯っ子のような笑顔にドキッとさせられ、直視出来ず体ごと顔を逸らす。


クメトリはくすくすとひとしきり笑うと、一歩旅館に近付いて振り返った。


「さ、君も荷物があるし立ち話も何だから。お部屋に荷物置きに行ってきな?」

「そうだね…長い間バスに座って、体も固まってる気がするよ」


因みにバスでは1番後ろの座席に3人で座り、真ん中の俺にコンは膝枕を求めウカミは無言で肩に頭を乗せていたのである。


勿論、膝の上のコンから刺されるような視線を常に向けられながら。


もう少し強気に出るべきかも…?いやしかしウカミも俺たちの家族、距離を置いて疎外感を感じさせたくはない。


「……でも、コンは俺の恋人だ」


皆に等しく接しては、コンへの気持ちが疎かになっていると思われてしまう。


恋人を嫉妬させる時点で、彼氏としてはいただけない。


特別扱いと、性分とも呼ぶべき周囲への接し方。立てるべき顔を誤ってコンが傷つくなんて以ての外だ。


ウカミやコトさん、アマ様に認めてもらってる以上優先事項を間違えないようにしないと。


「難しいね、コン…ウカミ…」


俺が遅いのが気になったか、入り口から顔を覗かせ目を丸くしたコンとウカミに届かぬ声を投げかけるのだった。


〜〜〜〜〜


「おぉ〜…風情があるなぁ」

「渓流が目の前にあるから、空気が美味しいのじゃ」

「前に来た時と同じ景色で落ち着きますね」


案内された部屋はとても広くて、3人で布団を敷いて丁度だろうという広さだ。


「でしょでしょ?あたしも気に入ってるんだ〜」


荷物を端に寄せ中央の机に俺とコン、ウカミとクメトリに分かれ向かい合って座る。


驚いたことに、クメトリの部屋は俺たちの隣の部屋だった。


具体的には俺たちが1番端の大部屋で、クメトリはその手前の1人部屋といった感じである。


「そういえばマノトは?さっきまで一緒にいたはずだけど…」

「あぁ、彼は他のお客さんの接客へ行きましたよ。店主だけあって忙しいみたいで」


流石だなあ…そういえば、いつから此処の店主になったんだろう?


「いつから…ですか?そうですね、ざっと100年くらい前でしょうか」

「ひゃっ…!?」


幾ら昔からの友人といっても、20年くらいだろうかと思っていたので殊更に驚いた。


しかし当然といえば当然、人間と神様の時間感覚は明確に差があるのだから。


100年…俺のように人間からしたら、膨大な時間だ。途方もないとさえ言える。


いや…考えすぎかな。


今回はのびのびと羽を伸ばしに来たんだ、俺だけ物思いに耽っていてはコンたちも楽しめないだろう。


とはいえ一度疑問が解決されると、次の疑問が湧いてくるわけで。


今度は、何故此処の店主になったのだろう…と思った。


今日明日のどこかで、本神ほんにんから直接聞ければ良いな。


少し重くなった頭を軽くするようにコンコンとこめかみを小突いて気分を切り替え、お昼を何処にするか賑やかに話すコンたちの輪に混じる。


「この旅館ではご飯は出てないんですか?」

「お昼は掃除だったり温泉の手入れなどがあるので、晩御飯と朝御飯のみなんです」

「うむ。じゃから、近くに美味しいうどん屋があるとクメトリに聞いてのう!」

「へぇ、それは良い!行ってみよう」

「あたしイチオシだから、味は保証するよ〜」


目を輝かせるコンの頭を撫でながら、ウカミとクメトリに目を向ける。


こくりと頷く2人と共に立ち上がり、早速そのうどん屋へと行ってみることにした。

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