第16話

憑くは神、行き着くは人①

テストが終わった晩。


コンとウカミが寝静まったのを見計らい、俺は一縷の望みをかけベランダにて電話を掛けていた。


電話の相手は勿論…、


『もしもし』

「もしもし、夜遅くにごめん父さん」

『おぉ紳人か!遠慮するな、子供と話せるのは親の喜びだからな。どうだ、あれからコンさんやウカミさんとは仲良くやれているか?』

「勿論。父さんと母さんのお陰でね」

『それはお前たちの気持ちと努力だろう。だがまぁ、そう言ってくれると嬉しいよ』


電話をするには少々失礼な時間だったが、電話越しの父さんは嬉々として応じてくれている。


本当に、頭が上がらない。


『ところでどうした?用が無くても良いんだが、わざわざこんな時間にかけてくるってことは何か話があるんだろ』

「お見通しか…でも話が早い。実は金土日の何処かでちょっとコンたちと3人でお出かけしたいんだけど、今月の小遣いだけじゃ心許ないんだ。来月分の小遣い、前借り出来ないかな?」

『なるほどな…水臭いぞ紳人』

「えっ」

『コンビニのATMでお前の口座に振り込んでおく、思う存分楽しんで来なさい』


フッと電話越しでも微笑むのが分かる。


その優しさについ俺も微笑み、小恥ずかしくて軽口を挟んでしまう。


「でも良いの?2人のお金なのに」

『なぁに気にするな、父さんは母さんが居てくれたら大したものは必要ないからな』

『あら、まぁ♪』


父さんの誇らしげな声と共に母さんの乙女ちっくな声が響いた。


この両親は、何があっても夫婦円満なんだろうな…。


「分かった、じゃあ目一杯楽しんでくるよ」

『おう!っとそうだ、母さん代わるか?』

『ありがとう。もしもし紳人?』

「聞こえてるよ母さん」

『それもそうね、うふふ。まずはテストお疲れ様。それと…お泊まりしても良いけど、責任はしっかり取りなさいよ♪』

「……責任?よく分からないけど分かった。父さん母さん、春休みには俺たちから会いに行くよ」

『待ってるわ。またね』

「うん。また」


電話を切り、コンとウカミと一緒に撮った写真が画面に映ってからほうと一息吐く。


これでお金の心配は無くなった。後はのびのびと楽しむだけ。


「……責任って何だろう?」


遊びに連れ出す責任とかだろうか?確かに2人にも予定があったかもしれない。


時間を貰う以上、不完全燃焼はさせられないよね。責任感を持って頑張らないと!


夜空に向かって深く頷いてから、静かに家の中へと戻るのだった。


〜〜〜〜〜


「着いた〜!バスを2本乗り継ぐ、中々の遠出だったね」

「早くお昼が食べたいのじゃ…」

「そうですね、荷物を置いたら調査の前にお昼を食べに行きましょうか」


バスを乗り継ぎおよそ数時間。俺たちは趣深いとある旅館を見上げていた。


旅館の名前は『ぎょういわや』、時折色んな神様も羽を伸ばしにやってくるらしい。


何故ここに来たのかと言うと、実は昨夜晩御飯の後の行先会議で不意にウカミがこう切り出したのだ。


「昔からの友神が旅館を営んでまして。今回はそこに顔を出したいのですが、どうでしょうか?」


断る理由なんて無い。


俺とコンは二つ返事で頷き、皆で手分けして着替えを一つの旅行鞄に詰め込んだ。


そして今無事に辿り着いたという訳である。


「……おぉ、ウカミ!ウカミじゃねぇか、久しぶりだな」

「お久しぶりですマノト、突然押しかけてすみません」

「良いってことよ。俺とお前の仲じゃねぇか。ところで、其方のお二人さんは?」


豪快に腰に手を当てて笑う、旅館の制服と思しきものに袖を通すマノトと呼ばれた神。


彼は俺とコンを見て、首を傾げた。


「此方がコン、隣の彼の守護神です。そして彼が紳人さん。れっきとした人間ですよ」

「よろしく頼むぞ」

「よろしくお願いします」

「おう、よろしく!俺はマノト、ウカミとは…ってもう知ってっか。丁度空いてる部屋があるから、そこに案内する」


くいくいと指だけでついてこいと指示するマノトにウカミ、コンと続いていく。


俺も早速…と行こうとしたところで、ふと視界の隅で金色の何かが瞬くのが見えた。


思わず目でそれを追うと、驚いた顔で立ち尽くす金髪と黒いジャンパーのコントラストが似合っていて、チェックのスカートが可愛らしさも見せる1人の女の子…いや神が居た。


「クメトリ、何故ここに…?」

「久しぶり…神守くん。こんなところで会うなんて、あたしもビックリだよ」

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