勉強こそが、学生の本懐?④
「はい、これで全教科終了です。皆さんお疲れ様でした♪返却は来週からなので、この三連休ゆっくり羽を伸ばしてくださいね〜」
全員分のテストを回収したウカミが労うように笑った。その笑顔で、漸くテストが全部終わったのだという実感が湧いてくる。
「ん、んん〜…やっと終わったね柑」
「そうじゃのう。テストを受けてみるというのも、面白いのじゃ」
テストという重責から解放され教室全体の空気が弛緩する中、俺とコンも全く同じ動きで背を伸ばしてから談笑する。
「2人ともお疲れ様。勉強会楽しかったね!」
「確かに、あれのお陰で楽しく勉強出来た。未子さんもありがとう、助かったよ」
後ろから未子さんがウキウキ顔で声を掛けてきた。
彼女が勉強を手伝うと言ってくれなければ、勉強会を開くことは無かっただろう。
今回の立役者と言っても過言ではない友人にお礼を言うと、そんなことはないと首を横に振った。
「私の方こそありがとう。紳人くんと柑さん、宇賀御先生と一緒に勉強出来たからいつも以上に捗ったもの」
「そう言ってくれると、わしらとしても鼻が高いな」
少し神様らしくあれたのを喜び、コンが両手に腰を当ててむふ〜と鼻息を吐く。
可愛すぎて此処が教室じゃなかったら、今すぐ抱きしめていたところだ。
『抱き締めてもお前の首が締まるだけだ、問題ないだろう?』
「ナチュラルに心を読まないでくれ…」
「え?」
「あっいや、その…トコノメがね」
トコノメにいきなり腕を組んでニヤニヤと俺を見下ろされ、思わず照れ隠しを声にしてしまう。
キョトンとした未子さんに慌てて弁明し、キッと精一杯未子さんの頭上で浮かぶトコノメを見据えると、ケラケラと彼女は笑い出してしまった。
もう少し、男らしさを磨くべきかもしれない。
ううむと腕を組んで己の男磨きを真剣に悩んでいたら、チョンチョンと誰かに肩をつつかれる。
顔を上げると至近距離までコンが前のめりになっており、その可愛さと綺麗さにドキッと鼓動が高鳴りつつも、口元を片手で隠しているので片耳を差し出した。
「……わしは、ありのままのお主が好きじゃぞ♪」
くすっと大人びた微笑みで囁き掛けられ、然りげなくコンにも心を読まれていたことを忘れ息を呑んで見惚れる。
顔を突き合わせ、コンが小声で囁いてくれて良かった。
その告白を、この情けない顔を、コンの微笑みを…他の誰にも渡したくなかったから。
「……俺も、コンのことが大好きだよ」
「ふふっ、愛い奴め」
流石に近距離からコンと見つめ合うのを耐えられず、目を逸らしてしまいながら囁くと吐息混じりに揶揄われる。
そして、どちらからともなく身を離した。あまり長時間くっついていても、奴らの目に止まってしまうから。
「ねぇねぇ紳人くん、柑さん。明日は振替休日で休みの金土日の三連休だけど、2人は何処か行くの?」
「考えてなかったな…コンは何か食べたいものとか」
「プリンじゃ!」
俺の神様のプリン好きは筋金入りらしいね、可愛いから許そう。
しかしそれでは話を進められない。折角ならコンが望むものや望むことをあげたい。
「えっと、なら何処か行きたいところはある?」
「ふうむ、そうじゃのう。期待に添えずすまぬが、わしとしてはお主の隣が行きたい場所よ」
「……明日までに考えておくよ。俺たちだけじゃ申し訳ないから、姉さんも誘ってね」
「うむ。楽しみにしてるのじゃ!」
ルンルンと上機嫌になるコンを見て、未子さんと2人で笑い合う。
「そうだ、未子さんもどう?あまり遠出はしないつもりだから、良かったら」
「ありがとう!でも、ごめんなさい。友達と一緒に遊ぶ約束してるんだ…」
「良いよ良いよ、気にしない…で!?」
勉強を見てもらったお礼をしたかったが、それはまたの機会のようだ。
そう思ってパタパタと手を振ると、隣のコンが頰をぷっくり膨らませてむむむと唸っていた。
「……皆に優しいのは美徳じゃが、時にはわしのことだけ考えるのも恋人の役目じゃと思うぞ」
「ご、ごめんね?つい性分で…」
「やれやれじゃ。気にするでない、それもお主の魅力の一つ。言ったであろう?ありのままのお主が、とな」
肩を竦めて微苦笑するコンに申し訳ないという気持ちと、ありがとうという気持ちが入り混じった感情が湧き上がる。
近いうちにコンと2人きりの時間を作ろう、俺たちは…れっきとした恋人なのだから。
「弟くん、コンさん。私の教科の採点は終わってるので、一緒に帰りましょう?」
「流石姉さん。仕事が早いね」
「お疲れ様じゃ。帰って早速明日からの予定を立てようではないか!」
「楽しみですね〜」
ウカミが仕事を終えて戻ってくる。俺たちといつも一緒なのに、舌を巻く手際の良さだ。
……コンにも大目に見てもらったばかりだが、まずはコンとウカミに労いと感謝の連休にさせてもらおう。
学生らしくしゃにむにテストを解いたのなら、これまた学生らしく思う存分はしゃごうではないか。
未子さんとトコノメに別れを告げてから、恨みがましく注がれる視線から必死に目を背けつつコンたちと教室を後にした。
さて…今月のお小遣い、幾ら残ってたっけ?
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