勉強こそが、学生の本懐?②

「ん〜!大福も美味しいが、やはりわしはプリンじゃなぁ♪」

「……デザートって、頑張った後に食べるものじゃない?」

「紳人よ、これは決して誘惑に負けたわけではないぞ」

「何と。理由があったんだね?」

「うむ!これは…頭を動かすための糖分補給じゃ!」

「……割と真っ当な理由だ」

「わしを何じゃと思っておる!?」


コンビニに寄って我が家に帰宅し、お昼は簡単に人数分のカレーを作り皆にお出しした。


コンやウカミが甘党なのもあっていつもの癖で牛乳を入れてまろやかにしたが、未子さんも美味しいと言って平らげてくれた。


コンはおかわりをねだってきたくらいなので、気に入ってくれているらしい。


作る側として、冥利に尽きる。


そうしてお昼のカレーを食べ終えた後、早速勉強会を…と思ったのだが。


何とコンは大福をペロリと食べ終え、舌も乾かぬ内に常備してあったプリンを取り出し、そのまま食べ始めたのである。


可愛いので許してしまう。それに、勉強会前の糖分補給という確かな理由もあるしね。


「……あの、紳人くん。エネルギーならお昼のカレーを食べたばかりだし、大福も食べてるからプリンまで食べなくても大丈夫なんじゃ…」


「「……し、しまったぁ!!」」


「宇賀御先生…」

「いつもは頭の切れる2人なんですけどねぇ…」


流石の未子さんとウカミも表情を曇らせてしまうが、この際それは仕方ない。


当初の予定通り、真面目に勉強会に取り組むとしよう。


なぁに!数学くらいこの3人が居てくれれば、何とかなるさ!


〜〜〜〜〜


「因数分解って何だ…分解した先に何があるっていうんだ」

「それは答えじゃないかな…」

「相当参ってるのう」

「少し詰め込み過ぎましたかね?」


ノートに所狭しと書き殴られた数式の羅列と睨み合いながら、呪詛のようにぶつぶつと漏らす俺。


それを見てコンたち3人は苦笑いを溢した。


3人も優秀な先生が付きっきりで教えてくれていることもあり、1時間で大分レベルアップしたと確信できる。


しかしただでさえ苦手な数学と体感だが長時間も向き合った反動で、俺は暫し休息が必要なほどに疲弊していた。


「まぁ、人間の集中力は1時間前後が限界と言う。ここらで一つ休憩しても良かろう」

「これだけやれば、紳人くんなら赤点は回避出来るでしょうしね!時間はありますし、休憩したら違う教科の勉強しますか?」

「そうですね、一つの教科ばかりやっても勿体無いです。次は順番通り、物理にいきましょう」

「物理か…数式は使うけれど、まだ分かりやすいよ!」


数学の終わりと聞いて、一気に元気を取り戻した俺にまたしても3人から苦笑いを頂戴するのだった。


〜〜〜〜〜


「モル質量…変換…むぐぅ」

「数式に弱いということがよく分かるのじゃ」

「弟くんの意外な弱点ですね…」

「紳人くんにも苦手なことってあったんだ…」


簡単な式…位置エネルギーや落下エネルギーなどの式は簡単なのだが、物質量やモル変換となると話が変わってくる。


どの質量に直せば良いのか、またどれほどの数値で置き換えれば正しいのか。それらがうまく理解出来ない。


もしかしたら、出題傾向次第では物理も怪しかったかも。勉強会様々だ。


「コンの言うとおり、どうも数式に弱くてね…」

「でも紳人くん、お料理は得意だよね?」

「あれは計算じゃなくて記憶だからだよ。それにレシピがあれば、それをなぞって作るだけだから計算は要らない」

「同じ数字でも、答えが最初からわかっている料理と答えを求める数学では違うというわけか」

「そういうこと、流石はコンだね」

「むふふ〜、そうじゃろそうじゃろ〜」


ドヤ顔で胸を張るコンの頭を撫で、ふぅと一息吐く。何にせよ、物理もこれで終わりだ。


今が15時前後。少し休憩して英語をサラッと復習すれば、丁度良い時間帯だろう。


テスト期間である以上、勉強会をしているとはいえ遅くまで未子さんを付き合わせるわけにはいかない。


本当に万が一の時はトコノメが守るだろうが、彼女の極力手を出さない姿勢を尊重してあげたいし1人で帰らせるのも忍びない。


晩御飯までには帰ってこなければ、親御さんも心配するからね。


「よし、英語は暗記勝負だから余裕だね!」

「英語はわしが怪しいかもしれぬ…」

「私もちょっと…」

「じゃあ今度は、紳人くんと私が先生になろうよ!」

「それじゃあ、テスト範囲の単語を覚えるところから行こうか」


……こうして、コンやウカミに何かを教えるのも新鮮だなと思いながら勉強会はつつがなく進行していった。


〜〜〜〜〜


「んぁぁ…今日はみっちり勉強したなあ」

「よく頑張ったぞ紳人よ、帰ったらたっぷり労ってやるのじゃ」

「それは有り難い!未子さんも助かったよ、お陰で明日は無事乗り切れそうだ」

「ううん、私の方こそ復習になったよ。誰かに教えるのって自分の為にもなるね〜」


時間は17時過ぎを回り、そろそろ帰路に着かなければ日が暮れてしまうので未子さんを送ってくるとコンとウカミに伝えた。


すると、コンが「わしも行く!」と言うので連れて行くことに。


ウカミは「お姉さんを1人にするんですか…?」と、わざとだと分かっていても勝てない悲しそうな姿をするものだから此方もご一緒に。


結果として、神守家総出で未子さんをお家まで見送ることとなったのである。


「そういえば、明日はどうするんです?この際ですし、明日も勉強会を開かれては?」

「あ、良いですね宇賀御先生!私もその方が楽しいです…!紳人くんはどう?」

「俺も賛成だな、コンは?」

「わしも構わぬぞ。こういうのも悪くない」

「そうだね…皆で勉強会っていうのは、本当に良いものだ」


くすっと笑うコンの頭をつい撫でてしまうが、コンも嬉しそうに目を細めているのでセーフだろう。


「……」

「…ん?どうしたの未子さん、コンを撫でたい?」

「頭なら良いぞ?」

「いや、そうじゃなくて…もしかしてなんだけど」

「うん」「うむ」

「2人って…お付き合いしてるの?」


「「!?!?」」


ば、バレたぁ!?というか何で!?


『ふふっ…そんなの、見てればすぐに分かる。お前がコンを見る目が、コンがお前を見る目がこれでもかと物語っておるわ』

(と、トコノメ…!君まで!?)


もし俺とコンが恋人だとバレた場合、確実に我が大社高校は火の海と化すだろう。


どうやら一年生や一部の三年生にも、本格的にコンとウカミの可愛さと美貌が知れ渡っているらしい。


ということはつまり、俺の置かれている状況も把握されているわけで。


絶世美人の姉にそれに匹敵するほどの可愛さを持つ従兄妹、更にはその2人と同居している。


これだけでも男子からは鬼の形相で市中引き回しならぬ校内引き回しの刑に処されかねないのに、挙句の果てには従兄妹であるコンと恋仲だと発覚すればどうなるか。


それは、火を見るよりも明らかだろう。


思わず俺もコンもビタッと足が止まり、かえって図星だと示しつつも冷や汗をかいてしまう。


そんな分かりやすい俺たちに対し、未子さんは小さく噴き出すとあははっとお腹を抱えて笑い出した。


「ごめんなさい、脅すつもりなんてないの。ただ…おめでとう、紳人くん、コンさん。幸せにね」

「あ、ありがとう…未子さん…」

「うむ…祝いの言葉、素直に受け取らせてもらうのじゃ」


目尻を拭いて微笑む未子さんに、ヒヤヒヤしつつも俺たちは笑顔を向ける。


「弟くんとコンが恋人だって、いつ頃気付かれたんですか?」


それは俺も気になっていた。自分たちでは、あまり目立って恋人らしいことはしていないつもりだったんだけど…。


トコノメには、まさかの目でバレるというどうしようもないバレ方だったのでそう言われたら諦めるしかない。


けれど、幸い彼女からは違う答えが返ってきた。


「う〜ん…コンさんがこの学校に来た時から、かな?」

「最初も最初ではないか!」

「そんな前からバレてたの!?」


予想の斜め上の形で。


「うん。他の人たちは紳人くんたちの付き合う前の距離感を知らないし、田村くんたちみたいに知っててもあまり変わらないように見えてるだろうけど。


本気で誰かを好きになったことがあるから、分かるの。2人の声とか雰囲気が凄く温かいから」


未子さんが自分の胸に手を当てて、何か大切なものを思い出すようにゆっくりと瞼を閉じる。


その姿にコンもウカミも、トコノメさえも優しい微笑みを浮かべて見守る。


「とってもお似合いだから、応援してるね!ずっと一緒にいなかったら許さないんだから。


もし、途中で離れ離れになるようなら…私が紳人くんのこと、取っちゃいますよ♪」

「な、何ッ!?それは本気か!?」

「さて、どうでしょう?では私はこの辺で!お家ここですから。それじゃあ、また明日!」

「これ、まだ話は…!」


住宅街の一軒家を指差し、瞬く間に門を開け玄関の扉を鍵で開けて滑り込むように中へと消える未子さんに、俺とコンは所在なさげに手を伸ばすことしかできない。


「……これは、胡座をかいていられないかもしれませんよ?」

「ウカミ…貴女、絶対あの言葉の真偽を分かっていますよね」

「さて、どうでしょう?無事に送りましたし、私たちも帰りましょうか♪」


先をルンルンと上機嫌に歩き出し、その尻尾を揺らすウカミ。


「……紳人、ぜったいに!わしから離れるでないぞ?身も心もじゃ!」

「あぁ…勿論。コンも、死んでも俺の隣に居てよ?」

「黄泉であろうと、逃しはせぬ」


肩を竦めつつも凛とした顔で笑うコン。


きっと、彼女も分かっているのだ。


まんまと俺たちは未子さんとウカミに焦りと嫉妬の炎を焚き付けられ、より一層関係を深めるのを後押しされたことを。


それでも…俺はコンへの想いを、コンは俺への想いを募らせずには居られない。


だって、こんなにも…好きなのだから。

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