第15話

勉強こそが、学生の本懐?①

『神隔世』から冷蔵庫を通って自宅に帰り着いた日曜から一夜明け、2月16日の月曜日。


いよいよ、学年末考査の時間がやってきた。今日は記憶していた通り国語、家庭科、歴史だ。


国語は正直、文章問題に関しては問題文を見ていたら簡単に解けるものばかりでさしたる苦労は無かった。


横目で覗いた隣のコンも、スラスラとペンを走らせていたのできっと危なげなく解けただろう。


……神様がテスト受けるってどうなのか、というツッコミはこの際考えないことにする。


続く2限目の家庭科、此方もさしたる苦労は無かった。


理由はお察しの通り、我が神守家の台所に立っているのは他でもない俺だからである。


包丁の握り方や食材の切り方、わかめなどの湯掻き方など日常的に行うものばかりで馴染み深くて簡単だった。


しかし、3限目の歴史。意外にも、此処がちょっと難問になるとは思わなかった。


よくある話だけど、年号がごちゃ混ぜになることが多かったのだ。


選択肢が無ければ、間違いなく三〜四問は確実に落としていたと思う。


歴史の先生が優しい人で助かった…。


〜〜〜〜〜


「…はい、本日のテストは終了です。皆さん寄り道せず帰宅して、明日のテストに備えてくださいね〜」


眼鏡を掛けたウカミがテストを教壇で纏めてから、一気に弛緩した空気に包まれる教室の皆へ声を掛けた。


それを皮切りに、そそくさと荷物をまとめて帰宅する人やいつもの癖で部室に行こうとして友人に止められる人。


そして、俺とコンも入る内訳の一つたる教室で今日の予定を話す人に分けられた。


「明日は1限目から数学かぁ。まぁこれは無理だし、諦めて残りの物理と英語に力注ぐかな…」

「お主…本当に数学が駄目なんじゃな。わしが教えてやろうか?」

「それは凄くありがたいしお願いするよ!でも、俺の数学下手は教わって何とかなるレベルじゃない気がする…」


腕を組み、教わった上で赤点なんて取ったらコンに申し訳ないなと頭を悩ませる。


「なら、私も一緒に教えるよ!それならきっと大丈夫!」

「へ?未子さんも?」


もう素早く荷物を纏め家路を急いでいるとばかり思っていた未子さんが、嬉々として後ろから話に混ざってきた。


「それは良い案じゃ!わしとしても、補習なんぞで紳人との時間が削られるのは我慢ならぬからな」

「い、いや流石にそこまでしてもらわなくても…」

「なら、姉さんも弟くんの勉強見てあげましょう。問題は教えられませんが、解き方そのものなら教えてあげられます」

「はい?」


解答用紙を抱えたウカミが、コツコツと軽やかな足音と共に此方へ歩み寄ってきた。


その上、まさかの俺に数学を教える三人目の先生になろうと言うではないか。


この大社高校でミスコンを開いたら、間違いなくトップ争いになるであろう3人娘から教えてもらえる。


そんな傍から見なくても羨ましい状況に、クラスに残っていた全員から視線が注がれ始める。


「ま、待ってよ皆!今はテスト期間だから!今騒動が起きたら自分たちの首を絞めることになるよ!?」


3人に囲まれながらも立ち上がり、慌てて降参するように両手を見せて全員を諭した。


『チッ…背に腹は代えられねえ』

『あぁ、しょうがない。…ところで、平らな胸と背中なら代えられるんじゃないか?』

『何であたしを見て言うのよ、生きて日の目を見たくないの?』

『マジでごめんなさい…』


俺以外にも命の危機に瀕している奴が居るらしい、同情するぜ可哀想になあ!ヒャッハー!


『『『でもとりあえず、テスト期間終わったら確実に1発だな』』』

「拳だよね?或いは蹴りだよね?命に別状があることしないよね!?」


俺が彼に同情するから、誰か俺に同情してくれと叫びたくなった。


「さぁ、早く帰って勉強…の前にお昼とデザートじゃ!紳人のお昼、楽しみじゃなあ…デザートはコンビニにある大福を食べたいのう!」

「ふふっ、柑さんと宇賀御先生と紳人くん…3人と一緒に勉強出来るなんて楽しみだなあ」

「弟くんの赤点を、私たちで回避させましょうっ」


えい、えい、おー!とあっという間に先生陣が掛け声で気合いを入れる。


教わる側たる俺は、遅れて小さくおー…と拳を上げてその輪に加わった。


……勉強会なのに、何故こんなに不安になるのだろうか?疑問を拭えぬまま、俺はコンたちと共に自宅へと向かうのだった。

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