さよなら日常、おいでませ非日常③
「本日の一時間目は歴史でしたが授業数が他より多いので、国語の枠で自習になります。宇賀御先生の言うことをよく聞くように」
「
「では、今日も1日よろしくお願いします〜」
「
「おかしいですよね、どう考えてもおかしいですよね?」
さも良い返事だったとばかりの笑顔で去っていく梅野先生。俺と先生では聞こえているものが違うのかもしれない。
「物騒じゃのう…」
「君のせいでもあるよ!?」
「だがわしは謝らない。その恐怖心を克服して、必ず家に帰って来てくれると信じておるからじゃ」
「既にボロボロなんだけどなあ!」
隣に座るコンが人には見えない尻尾を揺らしながら、ふふんとドヤ顔をする。
…楽しそうなら良いか。コンのドヤ顔可愛いし。
「はい、宇賀御です。自習の時間なので廊下には出ず、騒ぎすぎないようにお願いしますね」
「「大丈夫です!一瞬で終わらせますので!!」」
「皆机と椅子を端に寄せて〜!椅子を一個中央に、その上に紳人くんを縛り付けて!」
女子生徒の指示による統率の取れた動きで机と椅子が寄せられ、男子生徒が徒党を組んで俺を取り囲む。
流石に狭い教室の中では自由に身動きが取れない。大人しく拘束され何処から持ち出したのか、縄でガッチリと椅子の背もたれに縛り上げられてしまった。
「何か言いたいことがあるなら受け入れるが?」
「宇賀御先生、生徒が自習どころか自首を求めて来るんですけど」
「……」
「宇賀御先生?……ね、姉さん?」
「まぁまぁ、怪我しないのなら良いではありませんか♪」
普通、こういう時は先生と呼ぶことを求められるのではないかな。
姉さん呼びに喜ぶウカミも微笑ましいから、気にしないけれど。
だがしかし、この状況は俺にとって決して良いものとは言えない。ウカミが見守るなら、命の危険はないだろう。
仕方ないと諦め、とりあえずの抵抗を試みる。
「ひとまず…何で俺は縛られたの?」
「何故か…」
またしても俺の前に立ちはだかる悟に聞くと、腕を組んで重々しく目を閉じた。
たっぷり1秒間をおいて、奴は俺にこう言った。
「羨ましいからこの際過程すっ飛ばしてボコろうかなって」
「このバカヤロウ!!」
私怨じゃないか!怒りに囚われたまま戦うのは、もうやめるんだっ!
「うるさい!大体なぁ、お姉ちゃんも従兄妹も大層綺麗で可愛いなんて…お前を少しでも俺たちと同じ気の良い奴だと思ってたのが間違いだったぜ!」
この男、どうやら本気で悔しがっていると見える。
下唇を噛んで滝のように涙を流し、拳を固く握っているのだ。
これが嘘なら、今すぐ俳優の養成学校に転校するべきである。
「そんな…俺だってお前のこと、明と共々良い奴だって思ってたのに!それによく考えてみてよ、俺が姉さんや柑とムフフなことをしてると思う!?」
「言っただろ。過程などどうでも良いのだと」
「可能性の段階から潰すってこと!?」
「そういうこと。それに…俺は許しても、こいつらは許すかな!?」
ニヒルな笑みを湛えながら、バッと両手を広げて辺りを示される。
恐る恐る見渡すと…其処には想像を絶する地獄が待っていた。
「君死にたまえ」
「男失格」
「お前は罪である」
まさか皆…国語の自習中という意識だけしか残ってないから、俺に対する憎悪を名作のタイトルに載せている!?
「くっ、俺の負けか…」
「これこれ。お主まで呑まれては収拾がつかんぞ」
動けない俺の両肩にポンとコンの手が乗せられ、闇に沈みかけた俺の正気を取り戻してくれる。
「まぁまぁ皆の衆、落ち着くのじゃ。お前たちとて思うところはあるのじゃろう、それ故に腹に据えかねておるのも分かる」
1人1人の目を見るように周囲を見回し語りかけるコン。その言葉は乾いた土に沁みる雨のように、皆の心に伝わっていく。
有り難いその言葉に俺も聞き惚れて、皆の怒りが引いたところでコンは深く頷いた。
「そう、じゃからといって紳人に直接当たっても虚しさが残るだけじゃ。わしとてそれは心苦しい。どうか許してやっておくれ」
「コン…!」
その温かな言葉に俺は感動し、涙ぐむ。そして皆は自分を恥じるように視線を俯かせ、数人は机を動かし始めた。
「ふふ…少しはらしいところ、見せられたかの?」
「あぁ!柑は本当に立派な…!」
「のう…旦那様?」
コンの柔らかな微笑みは、その言葉が自然と漏れてしまったものであることをはっきりと示している。
「えっ…紳人、お前…」
「ち、ちがっ!これはそういうわけじゃ…!」
「…幾らモテないからって、従兄妹の柑ちゃんにそんな呼び方をさせるのは男として恥ずかしくないのか?」
「そ、…んなこと言うなよ!男の夢だろ〜?」
ハハハと大きく笑い合う。良かった…此処に来て彼らが純粋で良かった。
危うく一触即発の空気になりかけたが、何とか誤魔化すことに成功する。
「ふぅ〜ん?そうなのかなあ〜?」
コンに縄を解いてもらう間、含み笑いを浮かべて腕を組む未子さんにしきりに目を覗かれた。
胸の内を見透かされてしまいそうだったので、必死な目を逸らす俺であった…。
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