春の足音、風に揺られて③
「……さて、それじゃあ男の子組と女の子組で別れよっか!」
「まぁ自由行動するとなったら、それが1番だな」
「お互い、楽しく…なると良いね」
デパートの中にあるファミレス店でお昼を食べ(席は勿論俺とコンが隣で押し込まれた)、その後どう自由行動を取るかとなった時鳥伊さんが眼鏡を直しながらそう宣言した。
なるほど、男女で分かれるのか。確かに一般的なイメージではあるが、男はゲームやスポーツに女の子はファッションやアクセサリーを好むだろう。
流石は委員長、その辺りのこともしっかり加味しているようだ。
「柑さんは私といっぱいガールズトークしようねぇ…」
「な、なんじゃ?お前さん目が怖いぞ…?」
手をワキワキとさせてにじり寄る鳥伊さんに、コンも小さく後退りしてしまう。
…本当に、加味してますよね?
「それじゃあ野郎は野郎らしく、ゲーセンでエンジョイするか!」
「そうだね、そうしようか。柑、鳥伊さん。デパートの中とはいえ気を付けてね」
「うむ、わしが居れば心配無いのじゃ。安心せい」
「どんな服が似合うかなあ…今から楽しみ♪」
「そ、それじゃあ…また後で」
こうして、俺達5人は男女に分かれて自由行動を開始した。
(コン、のんびり羽を伸ばしてね)
(ふふっ…お主こそな)
〜〜〜〜〜
「ゲーセンに来たは良いが…何すっかな。何かやりたいゲームとかあるか?」
「僕、シューテング…やりたいな」
「良いね〜、それじゃあ最初は暮端と田村からどうぞ?」
「おっサンキュー。お先にやらせてもらうぜ」
筐体に備え付けの荷物入れに手荷物を納め、其々100円を投入するとゲームモードの選択画面になる。
銃のような形のコントローラーで照準を合わせ、協力プレイを選択しながら田村が俺に言った。
「なぁ、本当に柑ちゃんとは付き合ってないのか?」
「そ、れは…!付き合ってはない、よ」
「ふーん…」
暮端くんはゲームに集中しているようで、腋を締めてしっかりと銃を構え現れる敵を片っ端から撃ち抜く。
田村くんもそれなりの数を落としてはいるものの、構えは猫背で集中半分考え事半分と言った様子だ。
「年は…まぁ大体15歳前後って感じだよな。なら神守、俺があの子を狙っても良いか?」
「なっ…!」
幾ら友人の頼みといえど、コンだけは譲れない。驚きと嫉妬が俺の中で渦巻き、視界が真っ赤になる錯覚を覚える。
「田村くん、嘘つきだ…」
「え?」
「バレたか、流石に顔が見えちゃった?」
「うん…すっごい笑顔」
俺は後ろから2人の間に立っている。そのため顔は死角となり見えていなかったが…何故笑顔に?
俺を煽って怒る様を眺めるほど、歪んだ性格はしていないはずだけど。
「確かめたかったんだよ、神守自身の気持ちをさ。何つーか、お前達自分の気持ちには気付いてる癖に口に出すのを怖がってるような気がしてよ」
「怖がってる…」
『自分にもそう見えたぞ』
(ラスマ、君まで…)
暮端はゲームに再度集中しているのか、こくこくと頷きつつ此方には振り返らない。
言いたいことは言い切ったようで田村も画面に向き直り、暮端とワイワイ言いながらゲーム攻略へと戻っていった。
その後を引き継いだのは、暮端の守護神であるラスマだった。
『お前も彼奴も、傍から見たらこれ以上無いほどに想い合っている。しかし恋仲にはなっていない…当人達の関係に口を挟むべきではないとは思うが、不思議でな』
(……何で、だろうね)
コンと俺が恋人。想像したことがなかったわけではない、恐らく俺が意識するのを避けているだけでそれを望んですらいるのだろう。
けれど…どうしても頭を過ぎるのだ。
鳥伊さんの悲しいすれ違い、トコノメの想い。暮端と田村に、ラスマの願い。そして
ウカミや、アマツとクメトリ。
届かぬ想いと、歪んだ欲望。俺とコンの間に生まれないとも限らないし、コンに対してアマツのような激情をぶつけてしまうかもしれない。
コンに嫌われたくない、コンに何処にも行かないでほしい。俺の中でコンの存在が大きくなる度、コンに対して動けなくなっていく。
(どうかいつまでもこのままで…とはいかないかな…)
『それはお前が1番分かっておろう。それほどまでに思い悩む相手と過ごした時間は、まだほんの7日…一週間なのだぞ。7年ではない』
痛いところを突かれ無意識に心臓を押さえた。ドクン、ドクンと力強く脈打つ心臓は逃げるなと訴えかけているかのようだ。
ああ、その通り。俺とコンは今日で漸く一週間。自分で自覚したように、たったこれだけの時間でも目まぐるしいほどの思い出が溢れて来る。
そんな日々が続けば必ず少しずつ、何かが変わっていくだろう。
俺は髭が生えるかもしれない、コンは髪がもっと伸びるかもしれない。好きな味が変わるかも、コンとの普段の距離が遠くなるかも。
もし運良く何も変わらなかったとしても、やがて寿命の壁にぶつかるだろう。その時…俺は後悔しないだろうか。
この気持ちをもっと早く、伝えておけば良かったって。
でもそれは未来の話だ。今じゃない。仮に今打ち明けたとしたら、そんな未来すら壊れてしまうかもしれない。
人と神が添い遂げることもある、ウカミはそう言った。その事実は俺にとって大きな追い風だけど、同時に不安の火を煽るものでもある。
その物語の最後は、どうなってしまったのだろうか。いや、そんなもの想像に難くない。
離別だ。コンを残して、俺が死ぬ…?その悲しみにコンは耐えられるかな、寂しくないように残した思い出が彼女を苦しめるのではないか?
自惚れならそれで良い、そうであってくれとさえ思える程に俺はコンのことが…。
『……今日明日で世界が滅ぶわけではない。神守殿、悩まれよ。そして何が正しいかではなく、お前自身がどうしたいのかを考えるのだ』
(ラスマ…答えは、くれないんだね)
『神はいつでも聞き届けるのみ、真に見つけるのは人間自身ぞ』
縋ることは即ち、己を捨てること。そんな情けない道を選ぶくらいなら、元より神様に想いを寄せたりはしないよな。
パン!と頰を両手で打ち、ヒリつくのを強く感じながら毅然と頷いた。
(ありがとう、ラスマ。俺…時間はかかるかもしれないけれど、絶対に自分で答えを見つけるよ)
『それでこそ男よ!迷う時には話すが良い、力になろう』
神様とのことで悩むのなら、神様に相談するのが1番。頼もしい相談相手を得たものだ。
そうラスマと笑い合っていると、どうやらゲーセンの中でもあの音は響いたらしい。ゲームクリアの画面のまま、暮端と田村が驚いた顔で俺を見ている。
「さ、さぁて!次は俺の番だよね!スコアトップを塗り替えてやる!」
大袈裟に腕まくりの真似をしながら近付く俺の背中を、ラスマが優しく見守ってくれていた。
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