第7話
春の足音、風に揺られて①
「起きろ、紳人。起きるのじゃ」
「ん、うう…コン?今日は休日だよ…」
「何を言う、今日はその…で、デートの日じゃろう?」
「っ!?」
パチリ!と衝動的に目を開けて飛び起きる。そうして漸く、事ここに至って驚くべき事実に気が付いた。
「こ、コンが…俺より先に起きている!?」
俺の隣に正座するコンは既に普段の和服に着替えており、髪も耳も綺麗に整えられている。
大きな金色の瞳も、綺麗な眉も、ほんのり色づく頬も、桜色の唇も。コンが早起きして、見事にめかし込んだとしか思えない。
だが、コンは寝相が相当悪く眠りも深い。そうなると結論は…。
「私が起こしましたっ♪」
リビングの方からひょこっと顔を出したウカミが、自ら告白してきた。やはりウカミがコンを起こしたらしい。
「ウカミ様!どうして…」
「だって…折角の」
「どうしてコンの髪ともふもふまで整えたのですか!俺の幸せの一つが…!」
「そこなんですね…」
コンの髪と耳尾を櫛で整えるのは、俺にとって日課であり至福の一つ。それなりにショックである。
「す、すまぬ紳人…。じゃが、デートの時は女子はうんとおめかしするもの…よな?」
「----」
いつもはドンと構えているコンの、時折見せるこういうしおらしい姿。俺はどうもそれに弱いらしい。
恥ずかしそうに頬を赤くしながらも、俺の方を上目遣いに見つめるコン。その姿に、どうしようもなく…見惚れてしまう。
「……紳人?」
「っえ!?あ、えと、一般的にはそうなんじゃないかな!?」
「どうしたのじゃ?ぼーっとして…体調悪いかの?」
コンが心配そうに此方を覗き込む。彼女が持つ魅力を最大限に発揮されたその顔は、見ているだけで鼓動が高鳴るのを抑えられない。
「ごめん…コン」
「いや、気にするでない。そういうこともあるじゃろうて」
「そうじゃないんだ。体調は良好だよ…ただね?」
「うむ…」
……おめかしした女の子に対して、素直に感想を言わないのは失礼だろう。寝起きでもしっかり覚醒した俺はかなりの度胸を試されつつも、辛うじて囁くことが出来た。
「コンがあまりにも可愛かったから…見惚れていたんだ」
「っ〜〜〜!?」
流石に直球で言いすぎたか、コンはボフッ…と湯煙を上げて口をパクパクさせる。そして、もじもじと指を突き合わせ何も言わなくなってしまった。
俯いた顔からは表情を窺えず、小っ恥ずかしい時間が1秒また1秒と経過していく。
「さ、さぁて!俺も着替えようかな!待ち合わせに遅れるのも良くないからね!」
「お、おぉ!それもそうじゃ!わしが折角こんなに着飾っておるのに、すっぽかすなど許さぬぞ!?」
「勿論さあ!」
どうしても棒読みになってしまったが、コンも抑揚がおかしかったのでおあいこだろう。
無理矢理流れを断ち切ってもギクシャクと満足に動けない俺たちを、頰に手を当てたウカミはあらあらと微笑み見守っていた。
〜〜〜〜〜
「あ、神守くん!柑さ〜ん!」
「神守くん、お…はよ…!」
「おぉ、その別嬪さんは誰だ?」
何だかんだで私服で会うのは指で数えるほどしかない鳥伊さんが最初に気付き、俺たちに大手を振ってくる。
鳥伊さんは赤色のセーターにチェック柄のロングスカート、その上にチェスターコートを羽織り少し大人びたお洒落さを感じさせる格好だ。
暮端は黒色のトレーナーに藍色のズボン、白色のコットンジャケットとカジュアルな感じで親近感を感じる。
田村はオレンジのトレーナーに青色のジーンズ、黒色の厚手のジャンパーで陽気な若者感を感じさせている。
皆お洒落だなあ…と思っていると、全員の視線を受けたコンが緊張など微塵も見せない笑顔で堂々と名乗った。
「わしは紳人の従姉妹の柑じゃ、今日はよろしく頼むぞ!」
「よ、よろしく…」
「楽しくなりそうだぜ!」
和やかに話すコンたちを眺めながら、ふと人数を数えてみる。この場にいるのだけで4人、そしてコンも入れると5人。
この数でもそれなりの大所帯だが…。
『おおお…明、皆とお出かけまで…楽しむのだ!応援しているぞ!』
『やれやれ…随分賑やかじゃな』
鳥伊さんたちの後ろから半透明のラスマとトコノメが、思い思いの様子で付いてきている。
俺を除いて6人かあ…因みに田村の守護神は確認していない。色んな神と知り合っても、視界に常に7人も居ては目が回ってしまう。
今度、学校で見てみるのが良いかもしれない…。
「紳人、そろそろ行くぞ?」
「っとごめん。行こうか、コン」
「さぁ…デートじゃな♪」
これは果たしてデートに入るのか…内心小首を傾げつつ、楽しそうなコンに水を差すのも気が引けたので黙っていることにした。
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