遠く離れて、故に近くに④

「貴女には…今後ずっと此方に留まってもらいます。そしてあの日の言葉を伝えられず苦しむ人やうまく言葉にならなくて思い悩む人の助けになってください」

「……それが、あたしへの罰?」

「はい。姿が見えなくなることなら安心してください、自分を受け入れた今の貴女ならちゃんと見てもらえるはずですよ」


ウカミの下した判決は、一見すると温情も温情の措置だった。けれどそれは確かに重い罰でもある。


クメトリはもう二度と『神隔世』へと戻れず、生涯を賭して人々の願いを叶えていくのだ。


思わず視線が下がり憐憫の情を感じていると、ふるふると穏やかに首を振ったクメトリは俺に向けて慈愛に満ちた表情で笑いかける。


「そんな顔しないで、神守くん。あたしは元々向こうに居場所なんて無かった。だから…あたしは全力で、贖っていくつもり」

「クメトリ…」


俺の中で色んな感情が混ざり合い、早くも言葉にならない気持ちになる。けれど…神様に頼ってばかりでは、それこそコンに怒られてしまうから。


自分の心を見つめて、精一杯言葉にして伝えよう。


「君ならきっと、今を生きる人達を救えるよ。実際にその力を体験した俺が言うんだ、間違いない!」

「うん…うん!頑張るよ、あたし!」


こくこくと頷くクメトリ。彼女なら大丈夫…次に会えるときは、頑張る元気な姿が見えることだろう。


「間に入らなくて良いのですか?」

「……今止めるのは、紳人の想いを無碍にするようなものじゃ。それに…心配することは何も無いからのう」

「ふふっ、確かに。そのようですね」


クメトリと別れ際の会話をしていた俺は、コンとウカミが何が話していたみたいだったけれどその内容は聞き取れなかった。


〜〜〜〜〜


「ただいま〜!いやあ…長い1日だった」

「全くじゃのぉ…」

「ふふっ、お疲れ様です2人とも」


公園を後にしてこの世界の何処かへと消えていくクメトリを見送り、俺たちは愛しの我が家へと帰宅する。


今日は何だか疲れたな…まさかあんな神様たちがいるとは思わなかった。もう無いだろうけど、心の片隅には留めておこう。


「さぁて、取っておいたプリンでも食べるかの!」

「私の分もありますよね?」

「それは分からぬのぉ〜」

「何ですとぉ!」


和気藹々と冷蔵庫へと向かおうとするコンとウカミ。お楽しみのところ水をかけるようで申し訳ないけれど…一つ、確認しておかなければいけないことがある。


「ウカミ様」

「はい?どうされましたか、神守さん」


揃ってウキウキ顔でプリン片手にテーブルに着いたコンとウカミが、キョトンと俺を見た。


「貴女…アマツとクメトリが此方に居ること、知ってましたね?」

「……やっぱり、バレちゃいますよね」


流石にあの落ち着きようは身構えていたとしか考えられない。この分だと、コンも知っていたと考えるべきだ。


「そうじゃったのか!?」


知らなかったみたい…。


存在は知っていたけれど、その所在までは知らなかったということか。


「黙っていてごめんなさい…あの2人のことは耳に挟んでいたのですが、姿を見せないので一度ここを開けてみました。囮にしてしまい、ごめんなさい」

「いえ、気にしないでください。ウカミ様はしっかり俺たちのことを助けてくれたじゃないですか。ね、コン?」

「うむ、そうじゃな。元より責めるつもりなどないが、お主が言うのであれば尚更ウカミが気に病むことはないぞ」


コンも俺もこの件に関してこれ以上思うところはない。微笑み混じりに返すと、安堵したようでウカミはホッと胸を撫で下ろした。


「しかし、おかしいなとは思ってたんです!まさかプリンで留まる選択をする訳ないですから、その2人を探すための建前だったんですね?」

「いえ、それも本当です。7:3くらいで」


どちらがどの割合かは聞かないでおこう。


あはは…とコンとウカミは満面に、俺は微苦笑で笑っていると不意にスマホに通知が。画面を見ると…その通知は、鳥伊さんからのようだ。


中身を開いて見ると、『明日お暇であれば私と暮端くん、田村くんと神守くんの4人でお出かけしませんか?』とのことだった。


ここ最近、神様との出会いが多かったのでここいらで本来の学生らしいことをしても良いかもしれない。


しかしコンを家に1人にするのは…と思い返事を躊躇っていると、ヒュポッと追加のメッセージが飛んできた。


『コンさんも勿論ご一緒にどうですか?』


ふぅむ…今日のお出かけは俺に化けたアマツだったし、消化不良だったろう。ウカミ様は諸々大きいので言い訳し辛いが、コンの場合は従姉妹ということで通るのは証明済み。


今日も頑張っていたし、思い切り羽を伸ばしてもらおうかな。


「コン、明日鳥伊さん達と皆でお出かけに行こうって話になっているんだ。君も一緒にどうかな?また従姉妹ということでなら、大事だと思うんだけど」

「ほほう、面白そうじゃの。たまにはそういうのも悪くはあるまい…」

「Wデートというものですかね!?」

「「でででデート!?」」

「楽しんで来てほしいZOY!」

「いやそれは陛下でゲス…」


一度冷静なツッコミを挟みつつ。ウカミ様の無邪気な一言を意識して、ついコンの方を見てしまう。


すると、耳と尻尾を伏せ顔を真っ赤にしたコンとパチリと視線がぶつかった。暫し見つめ合ってしまい、ハッと我に返り同時に顔を逸らす。


「……まぁまぁ♪」


何も言えなくなってしまい静かになるリビングに、楽しそうに笑うウカミの声だけが響いていた。

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