あれも神、これも神③

『お主、同情で友達になろうとはしていまいか?そんなのは友でも何でもない、ただの憐れみじゃ。人が貧乏人に銭を投げかけるようにの』


生半可な気持ちで関わるべきではない。コンが、暗にそう告げているのが肌にヒシヒシと伝わった。


『ラスマから話を聞き、彼奴の事情を知った。その上で接触をしようとする…わしら神様を見えなければ、知らなければ出会うことも知ることもなかった相手にじゃ。お主は、そんなきっかけで仲良くなった者を友と思えるのか…?』


剥き出しの刃物のような鋭い指摘に一瞬気圧されてしまう。それでも、大丈夫だと答える自信があった。


その言葉が俺のことを思ってのものだと確信できる程、可愛い顔を曇らせてまで俺の目を見て告げてくれていたから。


(……逆だよ、コン)

『逆じゃと…?』


ふるふると首を横に振るとコンも、そして佇むラスマも目を丸くしてきょとんとしている。


その2人にこくりと頷き、はっきりと答えた。


(コンの言葉が聞こえるから、ラスマの気持ちが伝わるから。俺は知らなかったことを、気付かなかったことを見つけられるんだ。


コンと出会わなかったら、俺は普段と変わらない退屈な生活を続けていた。

トコノメと出会わなかったら、鳥伊さんの悲しみに寄り添えなかった。

ラスマと出会わなかったら、今も苦しんでいる暮端に気付けなかった。


俺は、この縁を大事にしたい。此処で何も見ず知らずの奴に戻ったら、この3日間だけじゃなくて俺の全部が嘘になる気がする。


……長々と語っちゃったけど、純粋に俺も友達が欲しいんだ。同じ本やゲームを話題に出来るような友達がさ)


今の俺に出来ることは、ただ素直な気持ちを口にすることだけ。だったとはいえ…やっぱり恥ずかしいな、少しきな臭かっただろうか?


『……その様子じゃと、問題なさそうじゃな』

(えっ?)

『杞憂であったよ。衝動的な行動でも、憐憫でもなくお主自身考えた上での行動なのじゃな。流石はわしの紳人じゃ、偉いぞ!』


…敵わないな、それこそ流石は俺の神様だ。


笑顔でぽんぽんと俺を撫で誇らしげなコンに、つい素直に撫でられてしまう。こそばゆい感覚に身を委ねていると、ずっと俺たちを見ていたラスマがポツリと呟いた。


『……お前達は、何だか珍しい関係だな。神と人でありながら、対等に話している。話を聞く限り、出会って数日だというのにまるで今までも共にあったかのようだ』


言われて、ふとコンと見つめ合う。そしてどちらからともなく笑うと、2人揃ってラスマに向き直った。


(ずっと、見ていたらしい。俺のことを、神様として)

『その上に、コンという名前まで貰ったのじゃ。日付や時間など関係なく、信頼しておる。紳人の作るご飯は美味いし、プリンも買ってくれるからの!』


折角良い感じだったのに、最後で全部ひっくり返されてしまった。…まぁ、それもコンらしいか。


褒められたって今日もプリン4個しか上げないんだからな!


『フッ…ハハハ!なるほどそうか…本当に不思議な奴らよ。なればこそ、改めて頼みたい。明の…友になってはくれまいか』

(あぁ、喜んで)


目を合わせて頷くと、コンはフッと浮いて俺の横に動いた。それを見てから立ち上がると、迷わずに歩き出す。


行く先は勿論、暮端の下へ。


「やぁ、暮端。いきなりだけど、俺は2-Aの神守紳人って言うんだ。よろしくね」

「ぅぇっ!?ぼ、僕…は…暮端、明…です…。よろしくお願いします…」


しまった、ケツイが漲り過ぎた。突然自己紹介されて、髪の後ろでも分かるほど暮端が驚いてしまっている。


一度落ち着いて…チラリと彼の持っている本に目を向ける。すると、ビクッ!と大きく彼の肩が弾み怯えるように震え出した。


「俺も好きなんだ、それ。ヒロインの女の子が可愛くってさ」

「!き、君も…好きなの…?」

「あぁ。時々読みたくなって、図書室から借りて読むこともあるんだ」

「僕も、好きなんだ…!偶に借りられていたのって、神守君だったんだ」


そう、暮端が読んでいたのは本当に定期的に俺が読んでいたラノベだったのだ。読む小説のジャンルや好みのキャラの傾向が似ていることもあり、色んなラノベの話をした。


度々その表情を盗み見たが、どのタイミングでも暮端は楽しそうな顔をしていた。


俺にいじめなんて気にするな、なんて安っぽい慰めをすることはできない。そんなものでは、彼の悲しみを汲み取れはしないから。


だからこそ、それは暮端自身がいつか乗り越えるしかない。俺はいじめに関しては一切触れず、ただひたすらに楽しいことを話すことに決めたのだ。


ラノベについて楽しく話せるようになれば、いつかはそれも思い出になり心の引き出しに仕舞えるはずだ。


打算とか抜きにいっぱい俺と話そう、暮端。君のことをもっと聞かせて、俺のことをもっと聞いて。


怖くて今まで話せなかった、あの日々の分まで。ラスマにも君の笑顔を、見せてあげよう。


あんな神様、こんな神様居るけれど。皆いつだって、俺たち人間の幸せを願っているのだから。


〜〜〜〜〜


『あぁ…明があんなに楽しく話している!自分ら神にとっては刹那の間でも、人からしたら2年近くも満足に話せていなかったのだ…!良かったな、明!』

『ふふっ…そうじゃなぁ』


ラスマがわしと同じで守護神なのに、いや守護神じゃからこそ明の笑顔を一段と喜んでおる。


この分ならもう彼奴は大丈夫じゃろうて。後は、時間が解決してくれよう。


それにしても…紳人は本当に、人間も神も分け隔てなく接するのが上手いのじゃ。変に気負わず本心で接しているからこそ、わしら人間あやつらも話しやすい。


『……ずっと見ておったはずが、いつの間にかこんなにも成長してたんじゃな』


此方に来たきっかけはあれであったが、今はお主との日々が楽しくてしょうがないのう。今日は頑張って、わしが労ってやらなければな!


普段の物静かな雰囲気とは違う、幼い少年のような顔を見せる紳人。それを微笑ましく見つめながら、わしは内心で気合を入れるのじゃった。

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