あれも神、これも神④
『は〜焼きプリン、良いものじゃなぁ。紳人よ、わしは今日もあれが食べたいのじゃ!』
「お気に召したなら何よりだよ、仰せのままに」
暮端とラスマとの出会いから一夜明け翌日。
朝ごはんを食べた直後のはずなのに嬉々としてプリンをご所望するコンに、流石に乾いた笑みを禁じ得ない。随分腹ペコな神様だことで…。
因みに今朝は起きたらコンのパンツが俺の顔に押し付けられていた。忘れるのじゃ!と顔を真っ赤にしてポカポカ胸板を叩かれ(痛くなかった)、その前に1発引っ叩かれた頰を押さえながらの朝ごはんになったのである。
ビンタは痛かった。乙女なのね。
「お、おはよう!神守、くん…」
「おはよう、暮端。田村もおはようさん」
「おっす、オラ田村。放課後にあの小説の話してくれてさ、今日もまた教えてもらうんだぜ」
校門前で暮端に声をかけられる。横を振り向くと、そこには田村も居た。どうやら仲良くなれたらしい、ほっと一安心だ。
2人の後ろを浮遊するラスマも、うんうんとしきりに頷き嬉しそうで何より。
「それじゃあ、行く…ね…」
「またな!」
2階への階段を上った先で2人と別れ、俺は自分の教室へ。
『お主のお陰で、彼奴も勇気を出せたようじゃな』
(俺じゃないよ。暮端本人の頑張りと、コンやラスマのお陰さ)
『ふふっ…そういうことにしておいてやろう』
何だかくすぐったくてつい照れ隠ししてしまうと、幼子を見る母親の顔をされた。不覚にもドキッとしてしまい、それを見られないようそそくさと教室の中へ入った。
「おはよう神守くん!顔赤いよ、お熱?」
「…気にしないでほしい」
鳥伊さんにキョトンとされつつ席に座り、
チラリと後ろを振り返る。そこには、ニヤニヤと俺を見るコンとトコノメの姿が。
神様ってやつは、全く…!
ますます顔が赤くなるのを感じぎゅっと拳を握り、恨みがましい視線を向ける。
「だ、大丈夫?やっぱり体調悪いんじゃ…」
「あっいや別に!本当に大丈夫だよ!」
鳥伊さんが本気で心配するので、慌てて力こぶを作る真似して元気であることをアピール。それにプッと小さく吹き出して笑うと、そうだと手を合わせて軽く前のめりに囁いてきた。
「今日の四限目、家庭科でデザート作りするでしょ?神守くんの班は何作るの?」
「あぁ、俺の班は…プリンだよ。シンプルに作れるし、折角だから自分たちで馴染みのあるものをってことになってさ」
話しながら、まっすぐ彼女の目を見る。俺の真横で涙ぐむ、コンの視線から逃れる為に。
そんなに泣かなくてもちゃんと持って帰るから…というか、今日は焼きプリン食べるんじゃなかった?
「そうなんだ!美味しそ〜…。私たちはガトーショコラなんだ、お互い半分こしない?」
「うん、良いね。楽しみだ」
ルンルンと女の子らしくデザートで喜ぶ鳥伊さん。しかしその笑顔も、残念ながら頭に入ってこない。コンが今にも噛みつきそうなほど至近距離から睨んでくるからだ。
(……ちゃんとコンの分も作るから)
『絶対じゃぞ!ぜぇったいじゃぞ!?』
こっそりため息を吐きながら、そういえば
コンにプリンが好きな理由聞いてなかったな…と思うのだった。
〜〜〜〜〜
「ふぃ〜、上がったのじゃあ」
「おかえりコン、髪乾かしてあげるからこっちにおいでよ」
「おぉ、ありがとのぉ。後でお主のも乾かしてやろうか?」
「それじゃあお願いしようかな、まずは俺から」
「分かったのじゃ」
ホカホカと湯気を軽く立てながらお風呂場からコンが戻ってくる。橙色の髪が濡れて艶めいており、耳と尻尾は少し小さくなっているように見える。
ちょいちょいと手招きすると、胡座をかいていた俺の膝の上にぽふっと座った。目の前で正座とかするのかと思ったが…まぁ、コンが良いなら気にしなくても良いか。
「触るよ、コン」
「うむ。優しく頼むぞ、紳人」
「了解」
段々コンとの接触に慣れつつありながら、髪が逆立たないようにタオルで撫でたりポンポンと叩き余計な水気を落としていく。
コンの髪は以前一昨日洗った時も思ったように、きめ細かく柔らかい。何度か拭いてある程度水分を取れたら、ドライヤーの温風を当てて乾かす。
「うゃ〜…♪」
気持ち良さそうに目を細め声を漏らす。可愛らしい様につい頰が緩んでしまいながら、髪を乾かし終えて残るは狐の耳と尻尾だ。
「コン、耳と尻尾は…」
「…触りたいか?」
「正直言うと、触りたい」
「素直なやつじゃな…嫌いではないがの。しょうがない、特別じゃぞ!」
耳と尻尾をパタパタさせ、此方を促すコン。それに従いゆっくりと耳にタオルを当てると、確かな温もりと共にモフッと柔らかい毛の感触が手に伝わる。
「ん…くすぐったいのぅ…」
そう言いつつも、手から逃げずに身を委ねている。ササッと右耳を拭くと小さく声を漏らされながら左耳も吹き上げた。
そしていよいよ、尻尾をタオルで撫で始める。
「うゃっ…人に触れると、こんな感じなのじゃなぁ」
「他の神様は触ったことないの?」
「わしにとっても大切な部分じゃからの、易々とは触らせぬわ」
「だから特別か…信頼の証、かな」
「それと、今日のプリンのお礼じゃ」
尻尾を丁寧に拭き取り櫛を使って引っ掛けないよう気を付けて梳きながら、肩越しに振り返ったコンがにっと笑うので釣られるように笑い返した。
寝るまでのちょっとした時間。コンとのこの時間帯は、未だに少し不思議な感じがして楽しくなる。
「そういえば…今日は特に他の神には会わなかったのう」
「流石に連日連夜神様に会ってたら、大変だよ。幾ら守護神様とはいえさ」
「それもそうじゃな」
「「ははは…」」
コンの尻尾がもっふもふになったのを最後にブラッシングタイムは終了した。同時に、
2人して暫し笑い合う。さて、楽しいけれどもう少ししたら今日も寝なければ。
「寝る前に、お茶を飲んでおこっか。喉が渇いて起きるのも勿体無い」
「おぉ、そうするかの」
俺がよっと立ち上がるとコンもほっと軽快に立ち上がり、2人して冷蔵庫へと向かう。
そして、ガチャリと扉を開けてお茶を…。
「----はぇ?」
飲むことは、できなかった。冷蔵庫を開けるとそこには食材の残りやペッドボトルなどが並ぶ棚などではなく、一面真っ白に輝く謎空間が広がっていたのである。
「こ、これは…!?」
「コン、知ってるの?」
「知っているも何も…これは…、!いかん紳人、今すぐ閉じよ!」
「え、あっうん」
唖然としていたコンの顔がみるみる青ざめていく。そしてついには鬼気迫る表情になり、問い返す間も無く閉じなければと思い手に力を込める。
「----見つけましたよォ!」
「ひっ!」
「うわっ!?」
しかし、突如として飛び出してきた手にガッ!と内側から扉に手をかけられ閉じることができなくなった。
「さぁて…食べ物の恨みは、重いですよ?」
徐々に手から腕、肩と現れていく。やがてコンとはまた違い、立派な和服に身を包み銀色の髪と狐の耳尾を持った流麗な女性が現れた。
その顔は優しい笑顔のはずなのに、底冷えするような畏怖の念を抱かせる。
「……ウカミ…」
コンが俺の陰に隠れガタガタと震えながら、舞い降りた彼女の名を呼んだ。
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