第3話
あれも神、これも神①
男子高校生の朝は早い。
ハードボイルドに元気になったもう1人の俺を宥めることから始まるからだ。もし、これを居候のコンにでも見られたらきっと生涯揶揄われるだろう。或いは、身体の異常かと心配されるかもしれない。
ただでさえ感情が忙しいコンに、そんなことをさせるのは忍びないし揶揄われるのはもっとさせてはダメだ。
さぁ、重い瞼を開けよう。今日も元気に、挨拶を「やぁ、早起きだな小僧。起きる時間だけなら未子のやつと同じレベルだぞ」
……。
「……???」
目を開けると、見えたのは見慣れた天井でも二度目のコンの寝顔でもなく。此方に跨り、腕組みをしながら見下ろしてくるトコノメのしたり顔であった。
うん…何でだろう。困ったな、全く分からない。
「心底分からん、といった顔じゃな」
「本当にわからないからね…とりあえず、コンは?」
「コン?あぁ、あやつなら…ほれ」
組んでいた腕を解き巫女服の袖を垂らしながら指差したその先には、布団の外に寝転がり毛布でぐるぐる巻きになっているコンが居た。
「寝相の悪さは筋金入りだな…」
「いやあれは我がやった」
「何で!?」
「むしゃくしゃしてつい」
「随分と可愛らしいことで!」
絶対嘘だ。その証拠にクックッと肩を揺らして笑っている。悪戯というか、弄ぶことが好きなんだな。
「んん…プリン…?って、何じゃあこりゃあ!?」
「あぁほら、コンが慌てすぎてあの人みたいになって…トコノメ、ちょっと失礼するよ」
「うむ、よかろう」
起き上がろうと半身を起こすと、満足したのかトコノメは俺の上から退いてくれた。起き上がるとイトコと星でも見そうな姿になっていた、哀れなコンを毛布から解放する。
「で、「「何故貴女(お前)が此処にいる!(?)」」
「仲良いなあお前達…」
自分の一言を皮切りに、偶然にもコンと異口同音に訊ねた。若干目を細めて呟くと、鳥伊さんの守護神であるはずの彼女は此処に居る理由を胸を張って話し出す。
「あれは今から36万…」
「1番早いのを頼む」
「気まぐれだ!」
気まぐれらしい。神の悪戯、とはよく言ったものだ。
「折角知り合えたのだ、一期一会ではつまらなかろう」
「まぁ確かにそうだけど…」
「それでいきなり朝っぱらから遊びに来るのは、些か気まぐれが過ぎぬかのぉ?」
やれやれと頭を振るコンだが、君も朝からいきなり我が家に来たよね。それも炊飯器から。上の立場である神に上げる棚があるとも思えないけど、気にしても仕方ない。
「この際それは置いておこう。あまりゆっくりし過ぎても遅刻しかねないし、とりあえずは朝ごはんだ。トコノメも食べる?食器にもう1人分くらい、余りはあったはず」
「おぉ、ありがたい。ご相伴に預からせてもらおうか」
「むっふっふ、紳人のご飯は絶品じゃからな!腰を抜かしても知らぬぞ!」
褒めてもらえるのはいつだって嬉しい。今日も腕によりをかけてご馳走するとしよう。庶民の朝ごはんなので、ふるい甲斐は微妙だけど。
〜〜〜〜〜
「ふぅむ…ふむふむ。なるほどなるほど」
食器を流し台に片付け、いつも通り水に浸しているとコンと向かい合うように座ったトコノメが吟味するようにしきりに頷いていた。
コンが此方を見ていることから察するに、どうやら俺の料理の腕を採点しているらしい。野郎の1人暮らしで叩き上げた程度ではあるが、台所を担うことになった以上芳しくない採点をされては沽券に関わる。
片付け終えてそのまま台所に立ち尽くして結果を待つが何だか緊張してきた…忘れがちだが、トコノメ達はれっきとした神様なのだ。寧ろこれが正しい反応と言えなくも無い。
永劫にも思える数秒が経ち、やがて判決は下された。
「……9点!しかしこの1点は、わしはもう少しあっさりした味付けだとより好みというもので腕前に関しては申し分ない。小僧、神々の給仕係にでもならぬか?」
「畏れ多いので丁重にお断りさせていただこう…」
「トコノメ!それは妙案じゃな!お主が『神隔世』に来れば、わしもお主が学校におる間ひもじい思いをせずに済む!」
「コンまで…流石に言い過ぎだよ、もっと上手い人は沢山いるし」
確かに家庭科の授業ではよくリーダー的なポジションを務めるが、クラスの中でも俺より上手い人がいるのも確かである。
「じゃが、お主はわしらが見える。わしらが食べられるのは、わしらを見れるものだけなのじゃ」
実体を持って人前に出ている時は例外じゃがの、と締め括るコン。その耳が揺れ動いているのは、その言葉が自然と出たものだからか。
神様達の世界に、自分の居場所があるのかは分からない。それにこの世界も何だかんだ気に入っている、大切な友達や両親も居る。
でも、気にならないと言えば嘘になる。自由に行き来出来るのなら、いつか長期休みの時でも行ってみたいところだ。近いところで言えば…春休みだろうか。
今が2月3日。コンと出会ったのが2月1日でトコノメとが2月2日、1日につき1神に会っていると思うと急に非日常感が増す。
流石にまた、今日も出会うってことはないよね…?そして我が家に入り浸るようになったりとか、もっとないよね?
こりゃ、ゲーム代に回していた分の半分以上は持っていかれそうだ…懐が寂しくなりませんように。
今日の晩御飯は〜とか焼きプリン〜とか和気藹々と話している神様達ではない、もっと威厳のありそうな神様へこっそりと両手を合わせるのだった。
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