あんな神、こんな人②
これは個人的な主観なんだけど。俺は基本的に、登校するときは1人でのんびり下校するときは友人と談笑しながらっていうのが好きだ。
マンション暮らしの上に、隣の人は社会人なので隣暮らしの幼馴染もいない。わざわざ迎えに来てくれるような男友達も女友達も、いない。
なので、眠いなぁ面倒だなぁとか国語の音読は「。」の数が少ないと良いなとか。そんな他愛もないことをボーっと考えながら登校する、その時間が気に入っているのである。
だからてっきり、一緒に登校する相手が居るのは微妙な気持ちになるのかと思っていたけれど…そうでもなかったらしい。
『ふぅむ…』
「ん?どうしたの、コン」
『お主のブレザー姿も、直接見るとまた違うのぉ』
「どういう意味さ」
『様になっておる、ということじゃよ』
そりゃどうも、と軽口で答えつつも褒めてもらえるのは素直に嬉しい。つい、頬が緩んでしまいながらも歩き続ける。
学校からは、大体歩いて15分くらいだ。俺の歩く速度がゆっくりなので、普通の人なら10分前後だろうか。
「ところでコンさんや」
『何じゃね紳人さんや』
「…何故俺の肩に乗ってるの?」
フッと上を見上げるとそこには、お〜と目の上に手を当てながら目を輝かせて辺りを見回す半透明のコン。
自分のうなじ側から太ももを乗せ、肩車の形で周囲を眺めているのだ。確か今朝殴られても、俺の体をすり抜けたはず。
何故肩車を、どうしてすり抜けないのか。そのダブルミーニングの問いに、流石は神様的確に意図を汲んで答えてくれた。
『わしはギュッと無駄なく、神様としての威厳や力を濃縮してるからこの背丈でなぁ。しかし、折角お主がおるのじゃからその目線を見てみたくなってのう。紳人に取り憑くような形で、擬似的に乗っているんじゃよ』
「なるほど…つまりこの状態が、本来の守護神に近くなっている訳か」
『そういうことじゃな。肩車で居る奴は殆ど見かけぬが』
そりゃあ神様に乗られるなんて、色んな意味で畏れ多いから…というのは人間目線か。
神様からしたら、乗る理由がないとかだろう。
皆が皆、神様が肩車させていたらシュール過ぎるし。
「……っと、そろそろ学校だ。前にも言ったけど、此処からはあまり君と話せないからごめんね」
『此方も前に言ったが、気にするでない。存分に学生生活を謳歌すると良いぞ』
フッと瞳を細めて微笑む様は、大人びていて温かい。こくりと頷きながら、疎らに登校してくる他の生徒たちの中に紛れるように校門をくぐった。
〜〜〜〜〜
『散歩してくるのじゃ!先ずは学食からじゃ、メニューは何かのぉ〜!』
今朝も食べたばかりというのに、もうお昼のことを考えているらしい。コンは僅かに涎を垂らしながら、ふよふよと何処かへ飛び去ってしまった。
見える人がいて、幽霊騒ぎにならないといいけど。
とはいえ、非日常が動き回ろうと学校は日常的に回っていく。俺のクラスである2-Aの教室に入って、個人的にしておきたい挨拶をした。
「おはよう」
「おはよ〜」「おはよう!」
基本的には気の良い面々なので、半数は挨拶を返したり何かしらのアクションを返してくれる。他は寝てたり、準備をしていたりだ。
「おはよう、神守くん」
「あぁ、おはよう
席に着き机の横に掛けた鞄から教科書類を引き出しに入れながら、後ろの席の
肩に掛からない程度の黒髪に、黒縁のメガネをかけている。このクラスの委員長だけあってかなり模範的な生徒だけど、決して話しづらい人物ではない。
寧ろ女の子らしくファッションだったり小物系とかが好きで、よくクラスの女子と明るく話している。
「……くん、神守くん?」
「!ごめん、ぼーっとしてた!」
「もう、また夜更かししたんでしょ〜程々にしないと先生に怒られちゃうからね」
めっ、と茶化すように人差し指を立てる。
その様は可愛らしく、クラス内外どころか学年問わず人気だ。
告白する生徒も少なくないのだとか。まぁ、俺はその手の噂には明るくないから真相は分からない。
「それで…何の話だっけ?」
「えっとね、今日神守くんと私が裏山側の校舎裏の掃除当番だったでしょ?それが、
「何かあったのかな…とりあえず、了解」
鳥伊さんがまだ来ていない自分の隣、
委員長である彼女は、先生方からの連絡係りも務めているのだ。急な変更だけど、掃除場所なんてコロコロ変わるものだしおかしなことでもないか。
「……おっす、神守!鳥伊!」
「噂をすれば。おはよう、須呑」
「須呑くんおはよう!今の話、聞こえた?」
「おう、掃除場所入れ替わりだろ。オッケー」
ちょうど良いところに、当の須呑が現れた。
細かいことは省くが、こいつとは入学式直後に職員室に忍び込んで以来悪友と言っても良いくらいの間柄で、ゲームだとかの趣味が合うからよく一緒に行動している。
因みにかなり頭が良く、運動神経も抜群だ。羨ましい奴め。
「1時限目は…歴史かぁ。話長いから、眠くなるんだよアイツ」
「ふふっ…それのせいで須呑くん、よく怒られてるもんね」
「目ざとすぎるわ全く。2人のどっちか、授業終わったらノート貸してくんね?」
「俺はあまり字が綺麗じゃ無いから…」
心なしか、須呑が来てから鳥伊さんの笑顔が増えている気がする。隣の席同士、仲良しになったのかな?
「私ので良かったら貸してあげる。けど、ちゃんと授業は真面目に受けなきゃ内申点に響くからね?」
「サンキュー鳥伊!明日から頑張るぜ」
「もう!須呑くんったら!」
「ははは…ん?」
ふと、鳥伊の後ろが揺らいて見えた。モヤのようなそれは、目を凝らすと少しずつ形作られていく。
やがて。
『……ほう、小僧。私が見えているな?』
白と赤の巫女服に身を包んだ、『半透明の鳥伊さんの神様』が俺を見て不敵に笑う。
その切れ長の瞳や蒼い長髪、すらっとした背丈はコンとは真逆に威圧感に溢れていた。
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