第4話 隠し芸

「まあまあ。古いのはネズミがかじってしもうとるわ」

 富江おばさんは小さな古い石鹸を捨てようとした。

「捨てたらいかん。それ洗うて」

 頼まれた富江おばさんは、台所で石鹸を洗ってきた。


「よう見ておけよ」

 隆と修司、洋一の一家に石鹸を見せ、勲おじさんはいきなり口に放り込んだ。

 隆は、おじさんは吐き出すものと思っていた。ところが、おじさんはむしゃむしゃと食っていた。呆気あっけに取られていた富江おばさんが、急いでコップに水を入れてきた。


「びっくりしたやろ」

 おじさんは残った石鹸を、吐き出した。

「ネズミが食うても死なんものは、人間が食うても死なん。その、齧られてないものは、ワシ、よう口に入れんわ」


 以来、石鹸を齧ることは洋一の隠し芸になった。もちろんネズミのお下がりだった。

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