第2話 夏休み

 雑木林は子供たちに、夢を与えてくれた。

 いろいろな木の実を食べに、鳥や獣たちが集まってきた。雑木林のお客さんは人間にとって、時にタンパク源となった。隆は洋一に連れられ、よくワナを仕掛けに行ったものだった。


 小学校の夏休み。隆は洋一に起こされた。朝早く、裏山に昆虫採集に行くのである。

 昆虫のいる木は決まっていた。クヌギだった。分厚い樹皮の裂けめにカブトムシやクワガタ、玉虫などが集まる。濃厚な樹液の匂いが漂う。

 木の下に行き、ドンと蹴る。昆虫がバラバラと落ちてくる。立派なものだけ、虫かごに入れて持ち帰る。夏休みの日課だった。


 年々、昆虫の採集量が落ちてきた。

 雑木林が杉林に変わっていったのだから無理もなかった。樹液に群がる昆虫そのものが、減ったようでもあった。


 たんぼのカエルもドジョウもゲンゴロウも、あまり見かけなくなった。イナゴやトンボも少なくなった。

 ホタルが夜、電気のいていない部屋に迷い込んでくるようなことも、なくなった。


 たんぼの岸に、大きな青大将が2匹いた。

 先日、隆の父親が農薬を撒いた後で、噴霧器には少量の白い液体が残っていた。隆は洋一と液体を水で薄め、青大将にかけてみた。青大将は動かなかった。


 異臭に気づいたのは、権蔵爺さんだった。

「石垣で変な匂いがするで。臭うてかなわんな」

 もしや、と思い、隆は見に行った。

 石垣の隙間に入り込み、ヘビが息絶えていた。

 隆の犯行であることを申し出た。洋一に手伝ってもらい、火箸で死骸を引きずり出した。死臭が鼻に残った。隆の罪悪感と共に、いつまでも消えなかった。


「ワシらがクスリかける前に、あの青大将は弱っとったんと違うか」

 洋一の言うとおりだったかもしれない。いずれにしても、農薬もまた環境を激変させていた。

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