第5話 動けるようになったので、いざお祭り目指してはしるんでい!

 後ろを見ると、そこはまた全然違う世界が広がっていた。


 生ごみの入った袋、よくわかんない椅子の残骸、ごきちゃん❤。



 うん。俺、やっぱり、ゴミ捨て場にいたみたい!



 こいつはまじぃことになったな!!!


 絶賛、廃棄処分なうってことらしい。


 周りを見た感じ、いつか回収されていくんだろうなあ。





 ――ん?待てよ?


 今、俺って半回転できたんだよな?


 もしかして、逆回転も出来ちゃったりする!?


 フリフリフリフリ。


 あれ?逆って……案外……むずかし……。よいしょっと!


 お~。


 見事、今度は反対周りで戻ってくることに成功した。


 ちょっと苦手だけど、出来たぞ!!!



 ――これなら、行けるはず!









 俺は今日、「はいはい」を習得する!



 まずは時計回りにハイ。


 次は反時計回りにハイ。


 いい感じ。


 次は、時計回りにハイ。


 次は反時計回りにハイ。


 ちょっと休憩。


「怖すぎるはいはいだ……」


 凍る背筋なんてないのだが、凍りそうになる。


 だって、一回転んだらもう立てないからね……!


 永久に巻物みたいに転がるしかなくなるんよ!?


 そしたら、終わりやん!


 転がった時動けるか分からんしな。


 ま、だからと言って、「動かない」っていう選択肢ははなからないので頑張って歩くんですけど。


 はいせーの!ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!

 ちょっと楽しくなってきたわ。


 ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!


 意外と楽しく歩いていると、裏路地からお祭りやっているであろう大通りにつながる道まで来ることができた。


 けど……。


「道せっま!」


 俺のわがままボディをなめんなよ!


 こんな隙間、ぜーったい通れません!


 ギリギリ通れるじゃんって思った?


 いや、数ミリしかないんよ。こんなの通るのに何日かかるか分からんわ。


 通ってるうちに祭りが終わるって。



 じゃあ、どうするか。


 多分、俺を運んできた人は、他の道を通ってきたはずだ。


 きっと!


 メイビー!


 それを探して、ごみを捨ててくれるひとを探すっきゃない。


 こうして絶対に見つかってはいけないゴミ箱、路地裏編が始まった。




 だって、人に動いているところを見られるのはやばいでしょ。


 いや、異世界だから、ゴミ箱も動くのか?


 けどな~もし、動かなかったとしたら、通報されるよね。


 俺殺されるより、実験動物になるのが一番嫌なんだけど。


 前、腎臓1個売った時、すっごい痛かったんだよな……。



 って怖い話は置いておいて、さあ行こう!大通りへ!


 ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!


 そういえば、人に会いたいのに行くまであっちゃいけないって、矛盾しててちょっと面白いな。


 ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!


 おっと、人きた。


 ピッ!!


 完全なる直立不動。


 だーれも生きてるなんて思わない、完全な擬態。


「=========だよね」


「――――――――わ―――――」


 おお、なんかちょっと文が理解できるようになってるぞ。


 もしかして、少しずつ異世界御習得できる的な?


 はいー。今の人たちは、何も捨ててくれませんでした~。


 ざんね~ん。


 ちなみにさ、怖いこと考えちゃったから聞いてくんない?


 よく、居酒屋の多い町とかだとさ?


 ゴミ箱で吐いてるおじさんやらお姉さんやらがいるけどさ。


 あやつらが、まかり間違ってうちのゴミ箱にゴールインしたとするやん。


 そうすると、ゴミとして分解しちゃうのかな……。


 こわ~。ということで考えないことにしよっ!


 ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!


 おお、めっちゃ異世界みたいな建物がいっぱいだ!


 ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!


 え、あそこにいるのって人間じゃ無くね?


 ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!


 ――うわ、やばーーーい。


 目の前から剣をもった人が歩いてくる。


 え、異世界だから冒険者?それとも警察?


 それにしても、あんまり服装がかっこよくないな。


 布の服で、全然防具もつけてない。それに、髭も生えてるし、顔は疲れ切ってる。


 剣が無かったら、浮浪者さんですか?って言いたくなるような身なりだ。


 おっと、危ない危ない。


 浮浪者でもなんでも、バレたら終わりだ。


 ビシッ!


「ああ==が=====」


 うわーー。妖怪じゃん。


 もう、ゾンビのそれなのよ。


 まさか

 魔物だったりしないよね……?


 ま、さすがにそれはないか!


 にしても人に全然会わないな~。


 まあ、まだ路地裏から出てきただけで、露店のある大通りには出てないからな~。


 みんなうまい飯たべてんだろーな。


 俺にも分けてくれ!ゴミでいいからさ!!


 ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!


 リズムよく歩いていると、だんだんと陽気な音楽が近づいてくる。


 こりゃいいや!


 音楽だけでこんなにテンションが上がるなら、祭り中は楽しく過ごせそうだ!


 もう音楽に合わせて踊っちゃったりしてね!ふうう!


 ――あ、ダメだった。俺、ゴミ箱だったんだ。


 大通りに出る所の角で一度止まり、周りを確認する。


「よし、覗くぞ……!」


 そろ~。はっ!


 ハイ!人、人、人、人、人!


 こりゃだめだ!


 お祭りってこんなもんだよね!


 もう一回ちらっと見てみよう。


 うわあ~あの位置のゴミ箱いいな……!


 串焼き屋の隣にゴミ箱が置かれている。


 みんなあそこでゴミ捨てるよね。


 行きたいけど行けなーい。


 ということで、ここで待機することとする!




 早く来ないかな~。


 ウキウキしながら待ってると、大通りなので、結構人が通る。


「=======祭だから========」


「え、けど―――――――――――――――ってことでしょ」


 おおお、ちょっと、聞こえた!


 今の女の子たちの会話!


 そう言えば、異世界感あんまりないんだよなあ。


 建物とか、種族系はTHE異世界☆って感じするんだけど、人は人なんだよな~。


 話し方もたーぶーん、普通に人。


「楽し====」


「ねー」


 お、あの人たちいいゴミ持ってんじゃん。


 捨ててけ、捨ててけ!


 ぽいっ。そんな効果音が聞こえた気がした。


「いてっ」


 あれ?あんまり痛くないや。


 串だったからちょっと身構えたけど、当たり所がよかったみたい。


 ラッキー!!


 ほれほれ、他の人もどうぞ~。




 いてっ…………いてっ………‥いてええええええ!


 おい、どうなってんだ。


 当たり所で全然痛みが違うじゃねえか。


 今、ゴミ箱の端に串ぶつけたやつ、顔覚えたからな!


 覚悟しておけよ……。


 痛くてあんまり顔見えなかったけど!


 ちょっとだけ、ちょーっとだけこの痛みがクセになってきた。


 もっと投げてくんねえかな……。



 いてっ…おお……いてっ……いいね。



 あ~やべ、このままだと別の扉開いちゃいそうだわ。



 おお、そんなこと考えてるといきなりの分解ターイム!!



〈ゴミの分解を開始します…………〉


〈ゴミの内容→セイドンの串……………〉


〈汚れているため、吸収率が上昇します。…………〉


〈吸収率0.0001%………移動力が0.001上昇しました。……………〉




 お~!


 また移動力が上がりましたね~。


 けどさ、この移動力って上がるとどんなんだろ……。


 だって、今の時点で歩けるじゃん?


 なら、もうこれ以上移動力必要ないんじゃね?


 はい、気にしたら負けげぇーむ!


 もう、ゴミ食って生きて食って決めたんだから、今は移動力最強男に俺はなる!!


 さあ、どんどん捨ててくれええ!



 はい、串ね~。いいよ~


 はい、お皿じゃん!それ痛いから、優しくね~。


 おっと?……それは、何ですか!?!?



 近付いてくる、女の人の手にはどう見ても新しいゴミが握られていた。


「================わね」


「――――――なんて――――――――」


「あっ―――――るか―――――ば?」




 うーーん、何言ってるか全く分からないんすけど、とりあえず入れてもらっていいすか!?



 だって、それ紙だよね!?


 なんて書いてあるか全くわからんけど、新しいものじゃん!


 それも硬くなさそうだし、痛くなさそうだし。


 ちょっと、別の何かを習得したい頃だったんだよね!!


 特に今は言語能力?


 しゃべれるのはまだいいから、せめて理解できるようになりたいなあ。


 そうしたら、異世界のいろんな会話聞けるし、娯楽が増える。


 さあ、ばっちこーい!



「そう=======すて=======」


 お姉さんはそう言うと、紙をくしゃくしゃにしてからゴミ箱に投げ入れた。



「なんで、痛さ増やしてくるのかな――――!?」


 そんな俺の叫びもむなしく、紙玉はこっちに飛んでくる。



 くそーーーー!


「いってええええええ」


 なんなんだ、あの女……。


 最後の最後で殺傷能力を上げてきやがった……。


 まさか、紙をくしゃくしゃにするとこんなに痛いなんて思わなかった……。


 あのごつごつしたところがゴミ箱の下に着くまでいろんなところに当たって、串より痛いとは……。



 紙玉、侮れず。


 こうして、俺は大通りのかどっちょで、ひたすら異世界人の祭りのゴミを、ただひたすらに、ただひたすらに集めるのだった。



 完









 なわけあるかああああ!


 ここで終わったら、ただのゴミ箱じゃねえか!



 あだ終わらねえぞ!


 やべ、大事なところで嚙んじゃった。



 今のなし!


 今のなしだからああ!!



 リテイクさせてえええ!!













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る