#40 出会って2秒で

 大自然のど真ん中に構える水車小屋。

 昔に建造されたであろう水車は、コケが生え。

 今はただ自然に帰るのを待つだけである。

 

 そんな家の中で────

 

 金髪短髪少女わたしは片づけをします。


 魔法できれいになるとはいえ、食器の整理は手動です。


 棚で手を動かしていると、長耳モヒカンエルフのモヒカから声をかけられます。


 「角鹿の角、売ってきてくれないか」

 「私がですか?」


 私は自分を指で差しながらも、疑問を口にします。


 「町の場所も分かりませんよ」

 「簡易的だが地図はある」


 長耳モヒカンエルフは古びた紙を用意します。


 棚の奥に放置された紙は、

 埃が少々のっていますが、

 破れてはいないようです。


 古びた紙には、青点と矢印


 彼曰く、

 青点が現在位置、

 矢印が方角だそうです。


 「結構おおざっぱですね」

 「だいたいしか分からんからそこにある」


 私は彼の手にある地図をのぞき込みます。


 「この前の森がこれなので、だいたい反対側ですか」

 「まあ、そうなるな」


 森につくまで1時間なので、歩いて3時間、急いで2時間というところでしょうか。


 「モヒカさんは、ついてこないのですか?」

 「町にはちょっと入りづらくてな」

 「そうですか」


 つまり年頃の少女一人で旅ですか。


 「まあ心配すんな」

 ───昨日の狩りで分かったがお前さんの目は良い。

 森には魔物はいるが、盗賊はおらん。


 「安心していってこい」

 「そう言われると逆に不安になります」


 一週間ぐらいしか付き合いのない人間をどれだけ信頼しているんですか。


 いや、無防備に寝てた私もですけど。


 「どうせ家に合っても腐る品物だ」

 「調度品には邪魔すぎますね」

 「豪邸に住んでも考える話さ」


 鼻歌を吹かせている長耳モヒカンエルフは、思い出したかのように紙を渡します。


 なんですかこの───酒、果物、食器って達筆で書かれた紙は。


 「買い物のメモをついでに渡しておく」

 「最初にしては高めな難易度ですね」

 「小さい村だし、場所には困らんさ」


 そう丸め込まれて金髪短髪少女わたしは出発準備をするのでした。


 家には好意で住まわしてもらってるので嫌とは言えません。


 ◇◆◇


 森林地帯。

 広がるは昨日と変わらない景色。

 木々が寄り添ってできた森林の群れ。断崖や、廃墟の残骸も見られる山の側面。人工的な整備された道があり、路面には車輪が通った後も見られる。

 


 「という訳で来たのは良いですが」


 「どうした辞世の句か?」

 「いえ、朝の回想です」


 私は地面に組み伏せられているのでした。


 正確には呑気に歩いていたら、

 木の隙間から影が飛び出てきて、

 一瞬で体を抑えられたが事の詳細です。


 (魔力探知にもかかりませんでしたし、やり手ですね)


 首を抑えられて力が上手く入りませんし、

 現状、死のカウントダウン待ちですが。


 (すみませんモヒカさん、お使いは失敗です)


 散らばっている角鹿の角に、思いは伝えておきます。


 「ふーむ、おまえ変な匂いがするな」

 「そんなに臭いでしょうか?」


 何故か話しかけてきたので私は疑問を返します。


 うつ伏せになりながらも匂いを嗅ぎます。

 湿っぽい土の香りしかしませんが。


 「いや......コイツは同族の匂いだな」


 同族? 私と同じ人間ということでしょうか?


 「よっこいしょ」


 首を掴んだまま私の体が持ちあげられます。

 

 好機でしょうか?

 このまま相手の首を取るか、

 人間なら会話を試みる次第ですね。


 ようやく土の匂いから解放され、

 襲撃者の容貌を掴むことが───


 「うーむ、やっぱり見たことがない」


 「奇抜な......人?」

 

 赤い僧衣を纏い、

 白い布を肩から掛けた、

 人間にしては妙な女性です。


 なにより────頭に角が生えています。

 

 それもトナカイのようなかなり年季を感じる小さな角です。


 私の意図など知らず、女性は話続けます。


 「まあ同族を食うというのも心がひけるっていうか」

 「食べられる予定だったんですね」

 「勿論、だが懐かしい匂いなんだよなぁ」

 

 私と彼女に接点はないはずですし、不思議なことを言う人です。


 「おめー名前は?」

 「名前、木色きいろ 来来らいらいですが」

 「やはり聞いたことは無い」


 唸りながらも彼女はジト目で言葉を紡ぎます。


 「と、すればアホがやらかして転生したか」

 

 耳、目、額の順に彼女は私をじっくりと眺めます。


 「キイロ、おめーは龍について知っているか?」

 「想像上の生き物とだけなら知っていますが」

 「こりゃ想像以上に駄目だな」


 片手だけでやれやれと表現する彼女。


 「キイロ、生まれはどこだ?」

 「研究所ですかね」

 「ケンキュウジョ?」

 「では、人間の里です」

 「もしや耳無し共の里か」


 見開いた彼女の瞳孔は、縦長。

 それは獣というよりもっと古典的な物。

 見つめるだけで体の奥底が震えています。


 「あーあ、なるほどな。だいたい合点がいった」

 ───どおりでおめーから同族の匂いがする訳だ。

 まあどこまで行っても私の推測でしかねー訳だが。


 「そんなヤツが私と合うねぇ」


 私は地面に降ろされます。


 正直、首が痛くなっていたので地面に降ろしてくれるのは有難いです。


 「キイロ、おめーは何故ここにいる?」

 「ここに来た理由ですか」

 「いや、なんで角鹿の角なんて運んでたかの方だ」 

 「それはモヒカさんという方に頼まれたからですが」

 「そうか、頼まれたからねぇ」


 今の回答に不満があるのでしょうか。


 彼女は数秒、

 腕を組んだまま目を閉じ、

 思い立ったように、口を開きます。


 「ヨシッ、気に入った ───今から貴様は私の妹だ!!」

 「?」


 「もちろん私の事は【お姉ちゃん】で構わない」

 「???」


 「【おばあちゃん】はちょっと心にくるから止めてくれ」

 「??????」


 今の私はどんな顔をしているのでしょうか。


 むしろどんな顔をすればいいのでしょうか。


 「なんだ、不満か」

 「いえ必要なのは、早急な説明です」

 「だが断る」


 このあと、お姉ちゃんと呼ぶまで会話をさえしてくれませんでした。


 この頭が痛い感じ、前にも経験したことがあるのですが、何故か思い出せません。


 「一体私は誰と彼女を重ねているのでしょうか」


 謎は深まるばかりです。

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