#39 狩りの仕方
天井の光源は暗いですが、ガスのような匂いもしません。
届いてくる香りは草と木の匂い。
生活臭とは無縁な香りがします。
「おはようございます」
「お、おはようだ」
長耳エルフは先に起きていました。
私も早起きなほうですが、彼はもっと早起きなようです。
「私もなにか手伝った方がいいですかね」
「逆にお前さんはなんかできんのか」
「掃除洗濯ぐらいなら?」
「それぐらい簡易魔導具についてるよ」
長耳エルフの視線は囲炉裏の中央にむきます。
囲炉裏の中に埋まっているのは、球体ですか。
うっすら、文字が刻まれた球体。
下部分は灰に沈んでいますが、上部分の文字は、
「えーと、初級-生活......なんでしょうか」
「お前、魔法文字読めたのか」
「読めたというより、分かったに近いですね」
(本当になんか分かったかは分かりません)
魔法文字、というものを必死に勉強したこともありませんし、
解読できたのは“不思議”としかいいようがないですが。
よく見れば微妙に日本語とは違いますね。
長耳エルフは球体に手をかざします。
「ほれ、この通り」
「一瞬で部屋がきれいになりましたね」
「連続で使うことはできないがな」
「便利な道具ですね」
たしかにこれがあれば部屋の掃除はいらないかもしれません。
「問題は食料ぐらいだ」
「魚釣りですか?」
「いやアレは最終手段だ」
いつもはこっちだ。
長耳エルフは壁の道具を指します。
木でできた弓。
横にはいびつな矢が入った筒があり、
いくつかの黒い鏃が地面に転がっています。
「とりあえず弓でも使ってみろ、だ」
「そうですね、とりあえずです」
ところでこの弓は大人用では?
弓を背負うには、私の背中は小さすぎるようです。
【見知らぬ森(場所不明)】
森までは水車小屋から歩いて1時間、体感30分ほどの距離でした。
小屋から小川にそって歩くだけで、あたりは木々に囲まれていました。
「涼しい場所ですね」
「そうか、いつもと変わらんぞ」
季節は夏に差し掛かっているというのに、汗を感じません。
彼の話からするにいつも涼しい場所なのでしょう。
長耳エルフは草をわけながら進んでいきます。
「今回狙う得物はな、角鹿っていう」
「特徴的な角を持つ鹿のことでしょうか」
「意外と物知りだな」
「いえ────向こうにいますから」
森を分けるようにできた岩場には、鹿。
鹿ですが角が体と同サイズで見るものを驚かせます。
「いい目をしているな」
「運が良かっただけですよ」
本当は脳内レーダーで感知できただけとも言います。
(以前より、探索範囲が大きくなってますね)
なにより、生物の輪郭まで把握できるようになっているのに、驚きです。
「なら一回狙ってみろ」
「いいんですか?」
「見つけた者の得物だ」
「ならばお言葉に甘えて」
長耳エルフは弓を渡してきます。
私は弓を構えます。
張られた弦は軽くひけ、
黒光りする鏃を得物に向け、
「そこですッ」
矢を放ちます。
矢は、
風を切り、
木々の隙間を抜けて、
見当違いな岩場に当たります。
「外れたな」
「外れましたね」
感想を述べている間に、音で驚いた角鹿は逃げていきました。
それから角鹿を発見するまでは楽勝だったのですが。
「嬢ちゃん弓下手だな」
弓は一向に当たりませんでした。
(普通、鏃だけついた矢は前に飛びませんし)
これで狩りをしてきたというのが驚きです。
私が戯れている間にも、
ウサギらしきものを仕留めていました。
「まあ、角鹿の警戒心が高いってのもあるんだが」
「そこが問題ではない気がします」
しいて言うなら、この弓の練度でしょうか。
まあちゃんとした矢でも当てれる気はしませんが。
「一つ提案があります」
「なんだ?」
長耳エルフは怪訝そうな顔を浮かべます。
◇◆◇
森を駆けるは一陣の影。
珍妙な長い影は、次々に鹿を仕留める。
頭は少女
体はエルフ。
「次は、右です」
「まかせろ」
これぞ人エルフ一体、
ただ肩車しただけとも言います。
「そう私が弓が下手なら、上手い人が撃てばいい」
これぞ知略の極み。
「名付けるなら【戦鋼(仮)-
「大丈夫か、嬢ちゃん」
「大丈夫です」
長耳エルフに心配されましたが、
私はむしろ楽しいまであります。
この機動力、この命中率、
本当に同じ人型なのか疑惑ですね。
なにより私を抱えても息一つ切らせていないのが気になります。
(いや、考えたところで無駄ではあるんですが)
どうせ彼に頼るしか生きてはいけませんし。
◇◆◇
目の前に積みかさなるは、角鹿。
河川敷に放置されたその量は圧巻だ。
「こんだけ取れたのは久しぶりだぜ」
「取りすぎてしまった気もします」
「どうせまた増える、気にするな」
長耳エルフは満足そうに言います。
まあ、普段狩れてなさそうなのでギリセーフでしょうか。
(明日から生態系が壊れるってのも想像できませんし)
彼は角鹿の解体に取り掛かります。
「魔石でも抜くんですか」
「なに言ってんだ」
「まずは部位ごとに切り分けてだな」
手際よく皮をはぎ、
骨を基準にして、
肉をばらします。
その後、長耳エルフは肉を川につけて放置します。
「これで魔力がぬける」
「魔力をぬく?」
「そうだ」
「そうすりゃ、魔石を抜いても肉が崩壊しなくなる」
「そうなんですか」
「まあ街育ちには関係ない話だ」
話し終えた長耳エルフは、魔石を角鹿から抜きます。
魔石が取られた後も、角鹿の肉は確かに残っていました。
今日は鹿肉パーティですね。
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