少女放浪編
#38 人は見かけによらない
ぱち、ぱち、と軽々しい破音。
脳に一定の鼓動を刻み、視野の目覚めをうながす。
「ここはどこですか......」
「目が覚めたかい、嬢ちゃん」
目にはいるは、やかんと囲炉裏。
囲炉裏には魚が刺されており香ばしい匂いが。
奥には火にてらされる─────長耳のモヒカン
「……モヒカン?」
「モヒカだが」
モヒカンなおじさんが、私を眺めていた。
目は細められ、心配そうにしている。
(多分悪い人ではなさそうですが、現在処理すべき情報が多いです)
モヒカンは何者なのか。
なぜ私はここにいるのか。
そもそもここはどこなのか。
情報を処理し、適切な回答を選ぶためにも、
ここは一時撤退が賢い判断。
再び横になり、
ずれた布団を蹴り上げ、
一糸乱れぬ就寝体制に移行。
「カラダまだイタイ──────もう少し寝さしていただきます」
「結構元気だな、嬢ちゃん」
呆れた声がとんできますが気にしません。
結局10分ぐらい考えても回答は出なかったので、起きることにしました。
◇◆◇
「とりあえず食うか?」
差し出されるは、串に刺さった焼き魚。
(ここが敵地の可能性もあります)
細心の注意を払って動くべきでしょう。
─────────
───────
─────
「うまい、うまいですよ、これ」
「お、おう」
言い訳をするなら、腹の虫には勝てなかったというところです。
古来より尋問に食事が使われていた理由が分かりますね。
「焼き魚として完全に自然の味ですが、逆にそれがいいまであります。見たこともないキショイ魚ですが」
「そこらへんの魚に、そこまでの感想を抱けるのはスゲーよ」
人間、空腹が最高のスパイスなので。
今なら土だっておいしく食べれそうですね。
「結構しゃべるんだな嬢ちゃん」
「言われてみれば」
脳の一部が解放されたような、不思議な気分です。
ですが、なにかを失ったようなそんな喪失感もあります。
(どこかを怪我したのでしょうか?)
少なくともそんな記憶はないのですが。
「まあ、嬢ちゃんが不思議な小鬼だってことはわかった」
「不思議な小鬼?」
「そうだろ。出されたモン遠慮なく食う癖に、俺を怖がらねェ」
──────額のでっぱりは、小鬼じゃないのか?
「えっと?」
さわってみると確かに額に違和感が。
額の部分がゴツゴツしてますね。
鏡がないので厳密にはいえませんが、破片が埋まってるわけでもない感じです。
「なんだ自分のことも分かってないのか」
「実は記憶が混濁していて」
「そりゃ大変だ」
実際、川に落ちたあたりから記憶はないので嘘ではありません。
(混濁は誇張表現の可能性はありますが)
「ここはパロヨーって国の辺境にある水車小屋だよ」
「小屋? 町ではなく」
「町? 笑わかすな、見晴最高の一軒家だよ」
にしては水車の音すら聞こえませんが。
河のせせらぎ音が、耳をすませば聞こえてくるレベルです。
「変わった人なんですね......えっと」
「ああ、モヒカだ」
「モヒカさん......?」
「面と向かっていわれるとアレだな。エルフのおじさんでも構わんぞ」
「え、エルフ?」
彼はなにを言っているのでしょう。
思わず首をかしげます。
「どう見てもエルフだろ」
どうみても世紀末な人相と髪型です。
(エルフ要素、耳が長いくらいしかない気がします)
「いえ、想像とは違ったもので─────すみません」
「あっいや、構わない......」
すこし落ち込まれているようですね。
(嘘でもエルフということに驚いておくべきでしたか)
エルフといえば、
森のおくそこに住み、
自然と調和しながら生きる、
レアな種族の印象があります。
敬意を表しておじさんのことは、
───────
「食ったらさっさと寝るんだな。まだ疲れてるんだろ」
「お気持ちありがとうございます」
たしかに冷静になってみると、どっと疲れがやってきますね。
まだ体は本調子ではないみたいで、す─────……
◇◆◇
「ほ、本当に寝やがった......」
囲炉裏のむこうでよだれをたらして眠る、金髪短髪少女。
その姿を見て、警戒の二文字が浮かぶ奴はどれほどいるんだか。
(一体どこのいいとこ出身なんだか)
「普通、エルフと聞けばビビるか、襲うかの2択だぜ」
(ガキの頃に怖いエルフの話とか聞かなかったのか)
つい自分の頭を触ってしまう。
川から流れてきたときは、
人さらいにでも売りわたして、
飯のタネにでもしようと思ったが、
どうもうまくいかねェな。
「喋り相手でも欲しかったのか、俺は?」
やかんにうつる俺は歪だ。
囲炉裏の火がいっそ不気味さを際立たせる。
「オマケに今日の食事もあげる始末だ」
あげた串どころか、囲炉裏に刺さっていたヤツも食いやがって。
(旨そうに食うもんだから、許しちまったじゃねぇか)
まったく俺はなにやってんだか。
「あーあ、明日から2倍得物がいるな、コイツは」
───────寝る前に魔道具の電源を切るか。
囲炉裏の火が消える。
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