#36 詰まった考え

 【オオモリ城壁基地訓練場(仮設観測所) 記録カメラ】


 [キイロォッ]


 褐色レイニー大尉の叫び声がひびく。


 [ようやく障壁に穴が空いたッキュか]

 [サニー、なにをっ[上級-催眠魔法]────なによ、これ]


 褐色レイニー大尉の機体にあまい光がはしる。


 [サニー、なんのつもりよ]

 [あのクソアマども、粗悪品掴ましたッキュ?]

 [そこで待っていなさい、サニー]


 機体が動き出そうと、


 [レ、レイニー機体から降りるッキュ]

 [か、体が勝手に]


 機体の操縦席のハッチを開く。 


 [ビビったキュ。 効果が半分ってホント化け物ッキュ]


 外には、銃を構えた帽子サニー曹長。


 表情はいつもとかわらない。


 「さっさと基地の防衛装置に案内するッキュ」

 「何のことかしら」


 褐色レイニー大尉はとぼける。


 「内部で忌々しい声を鳴らしている機械のことッキュ」

 「だから、知らないわよ」


 大尉の額には汗がにじんでいる。


 「うーん、なら防衛装置の場所を言うッキュ」

 「おっ、奥のワイン樽の裏が入り口で────────」

 「ふーん、そんなところに隠していッキュか」


 2人の姿は、画面から消える。


 ◇◆◇

 【オオモリ城壁基地(地下)】


 褐色レイニー大尉の足は迷わず進む。


 見たところ基地の人間は気絶、及び失神。


 助けは求めるだけ無駄ね。


 「ずいぶん鮮やかな手際ね」

 「飲み会に仕込むのは苦労したッキュ」

 「手の込んだことで」

 

 やはり、足は意志に反して止まらない。


 (口を動かすのが限界というところか)


 目的のワイン樽の前につく。


 「サニー、目的はなに」

 「装置の停止と基地の確保ッキュ」


 樽の前で隠しとびらを開ける作業をはじめる。


 ──────できるだけ作業はゆっくりに。


 (とっさに口に含んだものは1発の銃弾)


 銃弾を歯でつかむ。


 暗い地下、

 緩んだ警戒、

 体での死角、

 

 今ならいけるかしら。


 「仲間でしょ、どうしてそんなことを」

 「ただ命令されたからッキュ」 


 扉の解除棒をおろすフリをして、


 弾を手に落とす。


 撃鉄は自分の指で、


 (ふり向き、撃つ)

 

 「そう─────なのねッ」

 「へんなことはさせないッキュよッ」


 わたしの右手が撃ち抜かれ、

 

 サニーの帽子が飛ぶ。


 「その耳は……」


 暗闇にうつされるは、特徴的な頭の耳。


 地球人にはなく、まるで動物のような耳。


 「異世界人とそっくりッキュか?」

 「あなたは、地球人の、ハズよ」

 「そうだったが適切ッキュ」


 ──────元の彼女はもういないッキュ。


 運悪くわたしと入れ替わっちゃたッキュから。


 「嘘よッ、行動から反応まで全部サニーだったじゃない」

 「記憶が残ればマネをするぐらい簡単ッキュ」

 「ふ、ふざけないでッ」

 「ふざけてないッ、だから今こうなってるッキュッ」


 銃口が再び向けられる。


 「いい加減、現実を受け入れて案内を続けるッキュ」


 扉の解除棒はおろされ、


 むこうに続く道が開かれる。


 「やっぱりここは呪われてるッキュ」

 

 彼女はうっとおしそうに、うしろの壁画を見つめる。


 「まったく、嫌な思い出ッキュ」

 

 ◇◆◇


 【オオモリ城壁基地(地下) ???】


 巨大な水晶玉が置かれた部屋。


 水晶玉にはいくつものパイプが接続されている。


 「やっぱり、わたしじゃ操作できないッキュか」

 「私でもできないわ」

 「冗談きついッキュ。最高基地管理者はレイニーッキュ」

 「よく知ってることで」


 司令以外の他人に喋ったことはないんだけどね。


 指令室に監視カメラでも仕掛けられたかしら。


 「レイニー、機材のロックを解除するッキュ」

 「断っても、体が動くわね」

 

 水晶玉の一部に手を触れる。


 【承認確認 システムのロックを解除します】


 「で、なにをさせるつもりよ」

 「とりあえず装置の解除ッキュ」

 

 手が勝手に動く。


 [※注 この操作は防衛装置の動作に影響します]

 

 【装置停止 スリープモードに入ります】


 急な回転音と共に、

 水晶玉の光は消え、

 空間に暗闇がさす。


 「止まったわよ。で、私を殺すのかしら」

 「まさか? 上が欲しがってるのはコレ自体ッキュ」

 「まったく、どっから情報が漏れたものか」

 

 「ところで─────レイニー私の仲間にならないッキュか?」


 「いま? 断るわ、わたしに利がないもの」

 「どのみち裏切者扱いッキュよ」

 「なら、貴方を捕まえて、弁明でもするわね」

 「体操られてるのに強情ッキュね」


 仲間というより、本部へのスパイが欲しいだけでしょ。


 半分とはいえ、抵抗できてホント助かったわ。


 「なら、こういうのはどうッキュか」

 

 ──────レイニーが仲間になるなら、基地の人間を助けてあげるって


 「助けるって、ただの食中毒でしょ」

 「我々にとってのッキュ」

 「まさか」

 「1人1人殺すのって、結構手間ッキュよ」

 

 顔が熱くなるのを感じる。

 

 「レイニー、そんな顔しないで欲しいッキュ」


 ──────私は傷つけたいわけじゃないッキュ。


 レイニーは、

 私にやさしいし、

 頑張り屋だし、

 ポンコツだけども、

 

 そんなレイニーが大好きッキュ。


 「だから、こそ──────私と一緒にいて欲しいッキュ」

 「正気、かしら?」

 「この気持ちに嘘はないッキュ」

 「なおさらたちが悪いわね」


 一方的過ぎて受け取り切れないわね。


 (感情にそって断ったけど、現状は悪化する一途)


 ペットになった方が正解だったかしら。


 「しかたないッキュね」

 「それは、サニーが拾っていた」


 サニーは青い球体を取りだす。


 まばゆい光に包まれたそれはまさしく宝球。

 

 宝体をわたしが触れるように、ゆっくりと近づける。


 「ちょッ、なにをするつもり」

 「ちょっと素直になるだけッキュ」

 

 体はいまだ自由に動かない。


 「まあ、レイニーでなくなるのはショックけどッキュ」


 彼女の目に迷いはない。


 宝球が、肌に、


 「──────見つけたぞ、鳥カスがッ」


 聞きなれた声がきこえる。


 

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