#35 戦う少女達


 【オオモリ城壁基地訓練場 (臨時観測場)】


 さまざまな機材が並べられた観測場。


 ホワイトボードは一列を除いて×で埋め尽くされ、


 扇風機は双眼鏡を冷やすために使われている。


 日傘の下には、作業員が数人。


 「まだ、やるのか女王様たちは」

 「まったく、観測員の気持ちにもなって欲しいぜ」


 椅子に寝ころび、


 帽子を顔においた作業員がつぶやく。


 「数秒で終わる楽な仕事じゃねぇか」

 「脳にどんだけ加速魔法かける必要があるか知ってんのか?」


 「でも、ウチの女王はホイホイ使ってるぞ」

 「あれは大尉がおかしいだけだ」 


 「新人がくたばってるせいで、全部俺の仕事だよ」

 「そいつはドンマイ」

 「俺も体調イマイチなんだけどなぁ」


 メモを取っている観測員がしゃべる。


 「──────ちなみにどっちに賭ける?」

 「大尉に昼飯」

 「大尉に晩飯」

 「大尉に三食」


 「おいおい、賭けが成立せんだろ」

 

 「じゃあ、アンタが嬢ちゃんに賭けるのか?」

 

 嬢ちゃん達────────


 帽子サニー曹長は最近、仕事手伝ってくれるし、


 六角ナット少女は割と弟子みたいな感じだし、


 金髪短髪少女キイロはプラモ仲間だしなぁ。 


 「───────大尉に晩飯で」


 ◇◆◇


 [なにを仕掛けてくるつもりかしら]

 [お楽しみッキュ]


 正面に、大楯を持った帽子サニー曹長の戦鋼せんこう

 

 盾を地面にこすりつけ、土煙をあげ迫る。


 隆起した土をよけ、直列した3機の戦鋼はみだれず、接近!


 [キイロ、ナット、いいッキュか?]

 [大丈夫だよー]

 [問題ありません]


 並んだ3機は、各々の武装を構える。


 帽子サニー曹長は盾の隙間から機をうかがい、

 六角ナット少女は魔法のタイミングを待ち、

 私は銃を戦鋼に構えさせる。


 目前には、褐色レイニー大尉の機体。


 [盾とは小癪ね]

 [ビビったッキュか]

 [まさか?]

 

 褐色レイニー機は、脚部からリボルバーを抜く。


 照準を盾持ちサニーに定め────────


 [覗いてる時点で負けなのよ]


 だん、だん、だん、と重々しく三度撃鉄が落ちる。


 [あぶなッキュ]


 盾にはピンクの花が2つ。


 [ちょっと勘が良すぎない、サニー]

 [伊達に─────はぁ]


 観測所から帽子サニー曹長の中破判定がとどくが、

 彼女の戦鋼せんこうは止まらない。


 [いい度胸ね、撃破判定が欲しいわけ?]

 

 リボルバーの照準を再び合わせ、 


 [いまッキュ]

 [了解いー、初級Anfänger-光魔法Lichtmagie]

 

 光が、すべての視界を白に塗りつぶす。


 [ちっ、視界が]


 戦鋼のカメラは一定以上の光量を通さない。

 だが、あくまで眼球を焼かない程度にだ。


 わずかな魔法は、かけがえのない一手を生み出す。


 [キイロやるッキュ]

 

 褐色大尉の画面はいまだに白い。

 音声からたたき出される結論は追撃。


 確実にこちらを仕留めにくる。


 [もらいました────]


 直感、戦地をともにした判断に身をゆだねる。

 

 ペダルを踏みぬき、操縦棒を前に叩きつけ!


 [────なんのォ]


 帽子サニー曹長は目を見開き。

 六角ナット少女は息を呑み。

 わたしは唖然とした。


 [な、私を踏み台にしたッキュッ!!]


 突撃銃の掃射を間一髪でよけ、


 武装のボタンを押す。


 【脚部武器庫 解放Weapon Holder Open


  リボルバーを両手に、


 [まずは1つ────[ナット機撃破判定あり]]


 硝煙が纏わりつき、

 シリンダーは回り、

 金属音が鳴る。

 

 太陽の下、二丁拳銃は輝く。


 [そして2つ] 


 照準は、キイロ機の戦鋼


 撃鉄が落ちる。


 ◇◆◇


 吸い込まれるようにすすむ、銃弾。

 

 「ナビィ──────」

 『──────手は貸さんぞ?』


 「いえ、アレ全開で何秒持ちますか」

 『むっ、120秒が限界点だ』


 その言葉が聞きたかったです。


 (私も毎日遊んでたわけじゃないんですよ)


 操縦席コクピットに光があふれる。


 「中級チュウキュウ-強化魔法キョウカマホウ────発動ッ」


 正面から飛んでくる銃弾は1。


 普段は見えてから避けるなんて無理ですけど、


 「回避ッ」


 思考にあわせて、スイッチが動く。


 戦鋼せんこうはうなるように弾を避ける。


 [すこしはやるわね]

 「そりゃどうも」


 大型拳銃の弾は全部で12発、


 曹長に3、先程2、


 「そして─────この瞬間に 3発ッ」


 軌道は3発バラバラに見えて。

 動かなくても左右に避けても、被弾コース。


 「ならばッ」


 見せてあげますよ、仮想訓練シュミレーションで培った技を。


 (阿修羅ゴブリンの攻撃は、もっとクソだったんですよ)


 緊急逆回転、

 慣性を前方に、

 腕を振り上げ、

 向きベクトルを上方に、


 [[[なっ──────戦鋼でバク転をッ]]]


 銃弾は背を通り抜け。


 地面にピンクの花が咲く。


 (むこうから整備員の悲鳴が聞こえますね)


 [いやいや─────動き変わりすぎでしょ]

 「なめてもらっては困ります」


 大尉の機体まで、

 距離にして十数歩。

 飛ばして七歩。


 「なら、これはどうかしら」


 飛んでくる弾は2。


 ですが、音は4。


 (隠し弾ブラインドですか。同軌道上に弾をおいたところで)


 「見えてるんですよ────回避ッ」


 戦鋼せんこうを右に動かし、


 「知ってるわよ────加速Beschleunigung

 「なっ弾に弾を当てて」


 軌道がかわる。


 魔力操作は─────思考が、時間が足らない。


 銃弾は、機体に向かう。


 『詰めが甘いぞ────中級チュウキュウ-思考加速シコウカソク

 「視界がクリアに」


 時間がゆっくりに感じます。


 これなら、まだ間に合う。


 「ナビィ、助かりました」

 『手が滑っただけだ』

 

 魔力を動かし、スイッチを切り替えはじめる。


 静止した空間で、いびつな音を立てる戦鋼。

 

 画面のレッドアラートは多数。


 (もう、少し頑張ってください)


 銃弾は、


 胸部装甲に接触、


 歪な金属音をたて、


 装甲の曲面をそって後方にズレる。


 「─────避けれたッ」

 [冗談でしょ、マジの一撃よ]

 

 互いの機体の距離はもはやない。

 

 「ここからなら」


 脚部のナイフを取り出し、


 「銃はもう撃てないでしょォッ」

 「お見事ね」


 一文字に振り、


 「私の────」

  [────勝ちよ]


 「えっ」


 隠し拳銃、


 機体腕部からでた銃口は、わたしに。


 「誇っていいわよ。コレ、使わしたこと」


 振り下ろしたナイフが到達するよりも速く、


 銃弾は吸い込まれるように操縦席に。


 画面にうつる弾は────銀色。



 「あれ────ガハッ」

 

 視界が半分潰れます。

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